お茶会始め
3日間続いたピクニックが終わった翌朝、アリシアは自室で朝食を取った。何となく、人と顔を合わせたくなかったので、ミアに頼んで運んでもらったのだった。
食べ終えて、気分転換に森の方へ馬で散歩しようと厩舎に向かっていたところ、
「やっと会えたね、アリシア」
廊下で会いたくもない、赤毛の王子に遭遇してしまった。
「この2日、君に会えなくて、寂しかった。君も何もあんなピクニックに全部参加しなくてもよかったんじゃないの?」
アリシアが仕方なく挨拶をすると、
「いや、わかってる、君も立場があるものね」
と、いつもの調子で話し続けるライアン。
「でも、時には心のままに息抜きしたって、構わないよ。僕と...」
アリシアの手を取って、ライアンが言いかけたとき、
「お兄さま」
レイミヤが、いつのまにかやって来て、声をかけた。
「昨日いらっしゃったシルランド教国のセリーナ様が、お部屋でお近づきのお茶会をされるそうですわ。ご招待されてますから、すぐにお仕度なさって」
ライアンは名残惜しそうにアリシアの手を離した。
「アリシア様もご招待されているはずですわ。侍女に確認なさってはいかが?」
そう言い残すと、兄を生い立てるようにしてレイミヤは去っていった。
入れ替わりにミアが急ぎ足でやって来た。
「アリシア様。よかった、お出掛けになられる前で...」
アリシアが乗馬服を着ていたので、もう城を出てしまったのではと急いで来たのだ。
「セリーナ姫のご招待か?」
「ご存知だったんですか?!」
「さっき、ライアン王子とレイミヤ姫に会って。レイミヤ姫に教えてもらった」
「そうですか。では、急いでお召し替えを。お手伝い致します」
折角の招待を無視したり、乗馬服で参加したりすれば、先方に礼を欠く。アリシアは、頷いて着替える為に自室へ引き返した。
アリシアが失礼にならない程度の、できるだけ簡素なドレスに着替えてセリーナの部屋へ行くと、既に主だった面々は集まっていた。
「...遅れてしまって申し訳ございません。ゼクストンのアリシアです。本日は、ご招待ありがとうございます。...セリーナ様、おみ足のお加減はいかがですか?」
アリシアが改めて挨拶をすると、場の中心に座ったセリーナがにっこりと笑って言った。
「ご丁寧にありがとうございます。大したことございませんの...でも、まだ少し痛みますので、座ったままで失礼致しますわ」
セリーナの隣には、シュバルツが当然のように座り、その後ろにサラザールが控えている。
何人かの姫君を挟んでリリアの顔もあり、ちょうどセリーナの対面にアリシアのための席が開けてあった。
セリーナの侍女に案内され、アリシアがテーブルにつくと、
「着替えたんだね、アリシア。さっきより
ずっといいよ」
隣に嬉々としたライアンがいた。
「ああ、でもセリーナ姫って、君とは全然違うタイプの美人だよね。いや、もちろん僕は君一筋だから安心して」
ライアンが、アリシアの耳元で囁きかけてくる。内容はどうでもいいが、気持ちが悪い。
「お兄さま、ほら、お茶が冷めますわ」
レイミヤがアリシアの助け船になった。
「キサナ産のお茶をご用意致しました。お口に合えばよろしいのですが」
セリーナは、柔らかな微笑みを絶やさない。
キサナ産のお茶は希少で、なかなか手に入らないものだった。爽やかな芳香が部屋に漂う。
隣からしきりとライアンが話しかけてくる。アリシアは、適当に返事をしつつ、お茶を飲む。
その間、セリーナは、隣のシュバルツと小声で親密そうに話をしていた。
「昨日は、生憎の雨で、折角のピクニックが途中になってしまったので、こうして改めて皆様とお近づきになれて、嬉しいです」
珍しいお茶とお菓子を振る舞って、一息ついた頃、セリーナは言った。
「...いかかでしょう? 舞踏会まで、ゼクストンの方のご厚意にばかり甘えていてはどうかと思いますの。催しを企画されたり、お世話されるのはとても大変ですもの。これからは、皆様持ち回りで、今日のようにお茶会を開いていく、というのは、どうかしら?」
皆に尋ねるかのような言葉だったが、強い口調でもないのに否やを言わせる雰囲気ではなかった。
そうして、セリーナの提案が通り、それぞれの姫君たちが順番にお茶会を開いていくことになったのだった。




