雨天中止。
ピクニックも最終組となる3日目。
雲行きが少し怪しかったが、昼過ぎくらいまでなら降らずに済むのではと、泉行きを決行した。
昨日着いたばかりの、最後の花嫁候補もピクニックに同行した。
ゼクストンから西のキサナ山脈を越えて向こうにあるシルランド教国第四皇女のセリーナ姫。
サラザールが手慣れた様子で、シュバルツを交えた談笑の輪を旨く作っていた。その中でも、一際目を引くのがセリーナだった。
淡い月の光のような真っ直ぐの白金の髪を額からかけた飾り紐で留め、腰を絞らず胸元からストンと落ちるタイプのドレスは柔らかな薄紫色で、ゼクストン近郊ではあまり見ないスタイル。白い肌に煙るような菫色の瞳。
アリシアを太陽に例えるなら、セリーナは月のようで、対照的ながらも劣らぬ美しさだった。
「お綺麗な方ですね」
アリシアの隣で、ミアが言った。
「そうだな」
軽食の用意なども既に済ませて一段落していたので、もうアリシアが働くこともなかった。
「シュバルツ様も、今日は、昨日より意欲的な感じがしますし」
「そうだな」
「アリシア様」
「そうだな」
「...ホントにいいお天気で」
「そうだな」
「...って、聞いてます?!」
アリシアは、初めてミアを見るかのように目を見張った。
「すまない、聞いてなかった。...何だ?」
正直に告白し、尋ね直す。
「いいですけど、お天気のことなんて」
「確かに、セリーナ姫は綺麗だな。ブラン公は、自分の顔で美しいものは見慣れているとはおもうが...、いや、鏡をしょっちゅう見るわけでもなし、うん、やっぱり、綺麗にこしたことはないな」
アリシアが自分を納得させるように呟くので、ミアは言った。
「アリシア様だって、お綺麗です」
それはもう、他の姫君たちが霞むくらいに。ミアが力説すると、
「それは...まずい、な」
アリシアは、思案顔で黙りこんだ。
美貌で得をしたことは――、ないと言ったらおこがましいかもしれないが、やはり損をした方が多いような気がする。
それに、何より大事なのは、シュバルツに大切なものを見つけてもらうことだ。アリシアは、今更ながらに初心に帰ろうとしていた。
だったら、自分が他の姫を霞ませるくらいに目立ってしまってはよくないのではないか。
そんなことをぐるぐる考えていると、頬にぽつりと雫が当たった。
突然、空は暗さを増し、大粒の雨が降り始めた。
「雨が...」
「降ってきましたわ」
「皆様、城へ戻りますので、馬車の方へお急ぎください」
慌てて馬車の幌を引き出し、姫君たちを先に乗せて避難させる。
従者たちは片付けに奔走していた。
アリシアも自分の馬車に乗り込もうとしていた、そんな時。
馬車に向かおうとしていたセリーナ姫が足を挫いたようで、人が集まっていた。シュバルツが、さっと彼女を抱えあげ、馬車まで運んで行った。
抱えられたセリーナの、上気した頬が、何故か、やけに鮮明にアリシアの胸に焼きついた。
「アリシア様? 早くお乗りください」
ミアが急かすので、ようやく席につく。
そう言えば、昨夜、別れ際に明日の催しには参加するよう言い残したシュバルツだったが、今日はまだ一言も話していなかったなと、思い返すアリシアだった。




