表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/42

小さな光。

馬を急がせたものの、アリシアがブラン城にたどり着いたのは、すっかり日も落ちてからだった。

城門を抜け、馬を連れて行った厩舎で、

「どこに行っていた?」

と、シュバルツに声をかけられた。

闇に潜む黒衣の魔王は、まるでアリシアを待ち構えていたかのようだった。

「我が国の歴博士のところだ」

アリシアは正直に答えた。シュバルツを見ないまま、馬に水をやっている。

「...ジーニヤか。まだ、生きていたんだな」

「知っていたのか」

「わかるだけだ」

シュバルツは、言葉を切った。

かつて自分を永き眠りに封じ込めた者に対しても、それほど感情を動かされないのが、自分でも不思議だった。

「それよりも。何故、自分の考えた催しに参加しない?」

ピクニックに参加しなかったことをなじるように、シュバルツは言った。

「お前がっ!」

アリシアは、シュバルツと向かい合った。

「お前が、無意味だと言ったんだろう!」

随分、理不尽なことを言われていると思った。腹立たしくて、なぜか不覚にも泣きそうだった。

「確かに、お前のいない催しなど無意味だな」

シュバルツは、自ら言って頷いている。

「着飾って、従者にかしずかれているだけの、似たり寄ったりの女たちの相手など、つまらん」

そう言い放ったシュバルツの言葉に、アリシアの怒りは急激に沸点に達し、気づけば、

「このわがまま大魔王っ!!」

と、叫んでいた。

「ヒトの苦労をなんだと...」

言いながら、頬でも張ってやろうと振り上げた手を捕まれる。

「泣くほどの、苦労をしたのか?」

引き寄せて、その表情(かお)を確かめようとするシュバルツ。

「うるさい、見るな」

意地でも抵抗し、うつむくアリシアに、シュバルツは知らず知らず口の端で笑って、

「わかった。こうすれば、見えない」

背中にそっと手を回した。アリシアを両腕の中に包み込んで、

「...随分気を張っていたんだな」

囁く言葉は、すうっとアリシアの胸に落ちていく。

「お前のせいだろ」

「起こしたのは、お前だ」

堂々巡りになりそうな応酬も、もう棘はなかった。


「シュバルツ様ー」

「シュバルツさまー?!」

城の中でシュバルツを探すサラザールや使用人たちの声が響いている。

はっ、と、これまでにない接近遭遇状態の自分を認識したアリシアは、

「呼ばれてるぞ」

と、シュバルツの胸を押し返し、緩やかな抱擁を解いた。

「そのようだな」

「早く行け」

追い払うかのように言うアリシアに、腹を立てるでもなく微かに笑って、

「仰せのままに」

と、優雅に一礼をして、シュバルツは城内へ戻っていった。

「そうそう、明日の催しは、必ず参加するようにな」

と、言い残して。

シュバルツの後ろ姿を見送ったアリシアは、

「...今、笑わなかった、か?」

傍らの馬に思わず語りかけた。

「...笑える、のか...」

当たり前のような、そうでないような。

驚きと、そして何か温かな、胸に灯った小さな光。その光が色づいていく。けれど、アリシアは、まだ気づいていなかった。














評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ