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やさぐれ王女、家出する。

空は、花嫁のベールのように淡く白い雲を(まと)い、どこまでも蒼く輝いていた。


だからといって、アリシアの気分が晴れるわけでもない。

アリシアは、長い金色の髪を束ねもせず、城の一番高いところにあるバルコニーで風に吹かれていた。

飛び去って行く白い鳩を追いかけるアリシアの瞳には、ひとつの決意があった。


初夏の風は、息吹く緑のにおいを運んでくる。

「こんなところにいらっしゃったんですね、アリシア様」

侍従長のメイデンが、息を切らしてやって来た。若くして侍従長に任じられたメイデンは、小柄だがよく働き、王の信頼も厚い。

返事もしないアリシアに、

「気持ちのいいお天気になりましたね」

言いながら、メイデンはアリシアの後ろに控えた。

「王がお呼びです、アリシア様」

「天気がよくても、気分が悪い」

アリシアの声は低く、聞き咎めたメイデンは、

「王が呼んでいらっしゃいます」

と、繰り返した。


アリシアは、いきなり踵を返すと、すたすたと塔の階段を降り始めた。慌ててメイデンも後に続く。

塔の螺旋階段をどんどん進む。王の執務室に向かうなら、そこで出なければならない扉も通りすぎ、更に下る。

「アリシア様、どちらへ?」

メイデンの悲鳴じみた声に、やっと振り向いたアリシアは、

「外だ」

と、晴れやかに笑った。


ゼクストン王国は、今ある諸国の中でも最も古くから栄えた王国だった。

気候にも恵まれ、作物もよく育つ。諸国乱立の時代にあって、小さいながらも毅然とした外交で、独立を保っていた。


そして、ゼクストンに奇蹟ありとうたわれる王女がいた。幼少の頃より秀でた賢さ、比類なき美しさで誉め称えられる奇蹟の王女アリシア。


世継には、これも優秀な兄が立ち、ゼクストンの体制は磐石とくれば、アリシアの婚礼話は引きも切らず。

国内の有力貴族はもとより、諸国から王や皇子の后にと、断るにも頭を悩ます日々は、アリシアが年頃に近づくにつれ苛烈になっていたのだった。


これまでは、知恵の回るアリシアに上手くかわされ続けてきたが、そろそろ王もアリシアの相手を決めなければならないと、今日の呼び出しとなったのだ。


「隣国の馬鹿皇子も、金満公爵もごめんだからなっ」

王の思惑などお見通しのアリシアは、必死についてくるメイデンに言い捨てた。


アリシアの速度は更に増し、たくしあげたドレスを構いもせず、2段飛ばしの域に入っていた。

「アリシア様っ!」

メイデンも負けじと追いすがる。

アリシアは、美しさと知恵だけでなく、男にも引けをとらない運動能力にも恵まれていた。


「どんなに恵まれてたって、ろくでもないのに嫁がされるんなら、役にもたたんっ」

1階にたどり着いたアリシアは、厨房で大きな荷物を掠めとると、更に走り続ける。


「誰かっ!」

ここに来て、メイデンが声を張り上げ、

「姫様を止めろっ!!」

追っ手は膨れ上がったが、時すでに遅し。

いつの間にか中庭まで引き込んでいた愛馬に跨がり、アリシアは城の中を駆け抜けていったのだった。










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