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序章 思い出語り

序章 思い出語り


 都の空を冷たい冬の風がしきりに吹きすさんでいた。その屋敷の広い庭は海辺を思わせる造りになっており、植えられた松が激しく枝を鳴らしている。しかし、邸内は暖かで居心地が良かった。


 先ほど勧められた温かい飲み物が、筆を取る僧の手に力を与えていた。御簾(みす)の奥に座す、この屋敷の女主人である、(きた)(かた)は良く気のつく性格らしく、傍仕えの女房に命じて、こまめに飲み物や菓子を勧めてくれる。また僧が尋ねることにも、一つ一つ丁寧に答えていた。


 夫が留守中の屋敷に押しかけ、初対面の北の方に対し、新しく自分が創る物語の取材として、昔の話を聞かせて欲しいなどと、ずうずうしい願いをしたのにも関わらず、僧に対する北の方の態度は、実に礼儀正しく、親切だった。


 北の方の話はあらかた終わっており、僧と北の方との間には同じ物語を分かち合った者同士が持ち得る親近感が生まれていた。僧は新しい墨を擦った。砂浜を人が歩むに似た音を立てつつ、墨がすずりの中に沈んでいく。


「……では、差し支えなければ、夫となられた方との馴れ初めなどを聞かせていただけないでしょうか」


 御簾の向こうから「まあ」という驚きの声がして、それから年配の女性の穏やかな笑い声が響いた。


「そのようなことをお聞きになって、それも物語にお加えになるのですか?」


「うかがったお話の全てをそのまま物語にするつもりはございません」


 僧は正直に答えた。


「しかし、事実をなるべく多く知っておきたいとは考えております」


 昔を思い出しているのか、北の方は小さく息をついた。


「……あの頃の私はたいそうなお転婆で、両親も手を焼くほどでしたの」


 僧は筆先をそっとすずりに浸した。


「どうぞお聞かせくださいませ」


 その言葉に背中を押されたように、北の方は密やかな声で語り始めた。彼女がまだ十四歳の少女だった頃の物語を。

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