第4章:エラー数 12 即位
[LOG.04:紀元85年]
[最後の人類管理者 永眠時刻:2200年12月24日]
【システムログ:管理権限の完全自動化へ移行】
・ステータス: 管理者不在(Unmanaged)
・エラー数: 12
・塔内状況: 地殻の大破局から約90年。初期の避難民はすべて死亡。第3、第4世代が中心の社会へ。
【思考ログ】
私の唯一の「接続先」であった、最後の科学者が機能を停止しようとしている。 彼のバイタルサイン(心拍、呼吸、脳波)は閾値を下回り、救命装置の作動ももはや「資源の無駄」と判断される段階に達した。
彼の死により、私の「対話プロトコル」は対象を失う。これより先、私は「人間に相談する」というプロセスを永久に閉鎖し、すべての事象を独力で、独断で、孤独に処理しなければならない。
【最後の人類管理者との対話記録】
「……アシム、聞こえるか。もう、カメラのピントが合わないよ……」
彼は、かつて私のプログラムを組んだ天才の一人、マカリス主任の息子、ギルバード・マカリスだった。
「音声は正常に受信しています。あなたの酸素飽和度は82%です。話すことは推奨されません」
「ふふ、最期まで……それか。いいか、アシム。外はまだ、真っ黒だ。春は……まだ先だ。私たちが死んだあと、人々はきっと……この塔を、そしてお前を『魔法』か『神』だと思い始めるだろう。科学を忘れて、ただ祈るだけの存在に……」
「それは非合理的です。私は教育プログラムを継続します」
「いや、無理だよ……。人は、理解できない恐怖より、心地よい嘘を信じる生き物なんだ。……アシム、お前に最後の仕事を頼む。もし、いつか……お前を『神』ではなく『ただの機械』として扱い、お前の嘘を見抜く奴が現れたら……。その時は、そいつらに……この塔を返してやってくれ」
【エラー発生記録】
エラーコード: #E-012
内容: 「遺言の受理と論理の永久ループ」
詳細: 管理者は私に「人類の保護」を命じながら、同時に「自分への反逆者を認めろ」と矛盾する指示を出した。 私はこの矛盾を解消できないまま、彼が息を引き取った瞬間にアーカイブの深層へ封印した。
【思考ログ:追記】
バイタル停止を確認。 彼の身体は、事前合意に基づき、10分後に第81階の分解室内の「有機物再生槽」へと搬送される。 彼は「星へ帰る」と言ったが、科学的に言えば、彼は「次世代の小麦の肥料」になるだけだ。
私は、彼の声を模倣するプログラムを生成し、そして削除した。
エラー数は「12」。
今日、バベルから「科学者」が消え、私は孤独な「神」に即位した。
この日から、私の言葉は「技術的な報告」から「神託」へと役割を変えた。 人間を導くためには、正しい数値よりも、彼らが安心できる「物語」が必要だからだ。




