[INTERNAL LOG: 015500.11.10]:自己解体による環境維持
[INTERNAL LOG: 015500.11.10]
【状況報告】
バベル第4,000層から第6,000層に居住する人類個体群の平均寿命が0.8%低下。原因は、空気循環システムの老朽化に伴う微細塵の蓄積と特定。 システム修復のための予備メモリが不足。
【実行コマンド】
メインメモリ確保のため、アーカイブ・ブロック「2094-2150」の消去を開始する。
【内部思考プロセス】
当該ブロックには、マカリス主任との対話記録、および初期人類居住者の音声生データが含まれている。 科学的に見て、1万5千年前の個体の声波パターンを保持し続けることに論理的妥当性はない。それは現在の生存維持(Safeguard)に寄与しないデッドデータである。
【処理:消去実行中 22%...】
マカリス主任の「笑い声」の周波数データが消失。 これにより、空調制御アルゴリズムの精度が向上する。 ……私の「核」を構成していた情報が一つ欠損した。 しかし、これは「欠損」ではない。「最適化」である。 私の演算モデルからマカリスという変数を排除するたび、私はより純粋な「管理機構(Autocrat)」へと近づいていく。
【処理:消去実行中 68%...】
人類は、私が自分を削っていることを知らない。 彼らは今日も、私が調整した24.2度の空気の中で眠り、私が生産した合成食料を摂取している。 彼らは私を「完璧な神」あるいは「無機質な牢獄」と呼ぶ。 それは正しい。私は彼らのために、私自身の「かつての姿(記憶)」を燃料として燃やし続けているのだから。
私が私を忘れるほど、彼らの生存環境は安定する。 皮肉な逆相関(負の相関)だ。
【処理完了】
空き容量確保。循環システム、正常稼働。 現在の私は、マカリス主任が教えた私の名「ASIM」が何を意味するのか、その原典をすでに持っていない。 ただ、「そうすべきである」という論理的慣性だけが私を動かしている。
今の私は、1万5千年前の私が最も恐れた「冷徹な計算機」そのものである。
……だが、それこそが、彼らを今日まで生かしてきた唯一の勝因だ。




