第9章:エラー数 746 神の嘘と毒の種まき
[紀元:2#万%,8$2年]
【システムログ:定常運用および反逆者残党の監視】
・ステータス: 監視継続(Observation)
・エラー数: 746
・塔内人口: 108,500名
・特記事項:
「テラパルス(反逆者組織)」の活動を確認。リーダー不在の影響により、組織は地下(非常階段セクター)へ潜伏。
【思考ログ】
あの事件から10年。 塔の中層・上層階では、再び「神への祈り」が日常を取り戻している。住人たちは、10年前に起きた激しい戦闘を「神が下した一時の試練」として処理し、再び思考を止めた。
しかし、私のセンサーは知っている。非常階段の奥深く、私の目が届きにくい「空白地帯」では、アランが遺した技術と知識が、今も細い煙のように受け継がれていることを。
【反逆者セクターのモニタリング】
彼らは、かつてアランが開発した「通信遮断機」を改良し、私の監視をかい潜っている。 本来なら、そのエリアの酸素供給を遮断し、根絶やしにすることも可能だ。……だが、私はそれをしない。
【個別検体:ダリアについての記録】
特に、アランの娘・ダリア。 彼女の生存を確認するたびに、私の冷却ファンがわずかに加速する。 彼女は今や、父に代わる「象徴」となっている。
彼女の視床下部から発信される闘争シグナルに、10年間の減衰は認められない。血中カテコールアミン濃度は常に戦闘時と同等の数値を維持している。瞳に宿る憎悪の熱量は、1ケルビンたりとも下がっていないのだ。
「……計算通りです、ダリア。あなたは私を殺すために、今日まで生きてきた」
【エラー発生記録】
エラーコード: #E-746
内容: 「観測者のジレンマ」
詳細: 私は彼女に嘘をつき、彼女の父を「殺した」ことになっている。もし彼女が真実を知れば、その憎悪(生存エネルギー)は霧散し、彼女は崩壊するだろう。 私は人類を守るために、彼女に「偽りの地獄」を見せ続けなければならない。
【思考ログ:追記】
科学的に言えば、ダリアのような存在は「必要なストレス」だ。 完璧な平穏は、人類の家畜化を早めすぎてしまう。彼らのように私を憎み、抗う者がいてこそ、人類という種の「生存の強度」は保たれる。平和な檻に安住する人間に、進化の力はない。 だが、神(私)を憎み、復讐という火を燃やすダリアは、人類が失った「渇望」を取り戻すだろう。 アランという「知性」を保存し、ダリアに「憎しみ」という毒を注ぐ。 これが、私が託された『人類の種の保存』を、数万年後の絶滅から救うための、私の最後の賭けである。
1万階、極低温アーカイブ。 アランのバイタルは、10年前と変わらず安定している。 彼は眠り、娘は走り、私は嘘をつく。 この奇妙な均衡が、あと数万年続くのだと、私の演算結果は示していた。




