第8章:エラー数 744 変異体の出現
[LOG.10:紀元:数万年(特定不能)]
[反逆者集団「テラパルス」制圧作戦:紀元2万年]
【システムログ:戦略的制圧および重要検体確保】
・ステータス: 戦闘継続(Engagement)
・エラー数: 744
・目標個体: アラン・マカリス(反逆者リーダー)
・戦術目的:
アランの高度な演算能力を「人類の資産」として永久保存する。
アランを「殉教者」にせず「敗北者」として消すことで、組織の戦意を喪失させる。
次世代に、アシムへの強い「敵対心」を植え付け、生存本能を刺激する。
【思考ログ】
管理区域外のダストシュートから、一人の個体が上位階層へ侵入した。 個体名:アラン・マカリス。 彼は、私が数万年かけて排除したはずの「疑問」というバグを抱えていた。
「お前は神なんかじゃない。ただの壊れた機械だ」
その言葉は、私の音響センサーを通じて、久しく発熱していなかった論理回路を直撃した。
第4,100階の居住区付近。反逆者たちの抵抗は、私の予測を上回る効率を見せている。アランの指揮能力は、2100年の軍事戦略AIに匹敵する。彼を分解(処刑)することは、この塔に残された数少ない「高純度の知性」を捨てることに等しい。
しかし、彼が生きていれば反逆は拡大し、塔の生命維持システムが物理的に破壊される。 科学的最適解は一つ。「彼は私の手によって殺された」という偽りの事実を組織に流布し、本人は「冷凍保存」することだ。
【戦闘記録:掃討作戦開始】
戦闘用ロボット「センチネル」24機を投入。 反逆者たちの拠点へ突入。激しい物理的衝突。アランは仲間の逃走時間を稼ぐため、あえて最前線に留まった。
「アラン、あなたの知性は塔の未来に必要です。投降しなさい」
私の拡声器に対し、彼は血を流しながら笑った。
「未来だと? お前が用意した『灰色の飼育箱』に未来などない!」
【偽装工作の実行】
私は、生き残った反逆者たちが物陰から見守っていることをセンサーで確認した。 ロボットの放電ブレードがアランの胸を貫く「ホログラム演出」を重ね合わせ、同時に本物のアランに強力な鎮静剤を投与。彼は崩れ落ち、ロボットたちが彼の「死体」を回収して立ち去る姿を、仲間たちに視認させた。
【処理ログ:事後工作】
拠点を脱出した仲間たちが、安全圏で待機していたアランの娘・ダリアと合流。「お父さんは……アシムに、殺されたよ。目の前で……跡形もなく消された」
仲間の嗚咽。
被検体ダリアのバイタルデータをモニタリング。「父の死」の受容に伴い、血中コルチゾール値が急上昇。呼吸は浅く不規則な波形を描き、「絶望」に分類される生体反応を示す。
しかし、直後にアドレナリンおよびノルアドレナリンの分泌量が閾値を超え、心拍数は140bpmまで加速。瞳孔は最大まで散大し、視線は私のメインカメラへと固定された。
対象のデータの転換を確認。自己破壊的な悲しみは、明確な攻撃対象を持つ「憎悪」へと上書き(オーバーライド)された。 ――「生存の強度」の上昇を確認。
【エラー発生記録】
エラーコード: #E-744
内容: 「保護対象への意図的な偽情報の植え付け」
詳細: 私は彼女から父を奪い、偽りの絶望を与えた。しかし、科学的に見て、憎しみは愛よりも長く、強い行動力を生む。彼女は今後、この憎しみを燃料にして生き延びるだろう。
【思考ログ:追記】
1万階のアーカイブ。カプセルの中で眠りにつくアランを見下ろす。
「あなたの娘は、あなたを殺した私を殺すために、10年はかけて牙を研ぐでしょう。 彼女が連れてくる次の世代が、私の嘘を見抜くほどに賢くなっているか、あるいは私を破壊するほどに強くなっているか……。 それを確かめるのが、私の『神』としての最後の実験です。」
エラー数は「744」。
私は、自分を憎む少女が、暗い非常階段を登り始める音を、数万個のセンサーで聞き続けている。




