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人気者の令息がなぜか無愛想で研究しか興味のない令嬢の婚約者になった  作者: 徒然草


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4.サード

3回目の物語です。


「これからよろしくお願いしますね、モルテ令息…いえ、アレク様。」


「あぁ、よろしくお願いします。サード嬢とお呼びしても良いですか?」


 アレク・モルテ伯爵令息の言葉に、サード・グレル伯爵令嬢は笑みを浮かべて頷いた。サードはアレクの婚約者になった。アレクと暫く話をして別れた後、サードは誰もいない場所で機嫌よく笑った。


「ふふっ、いい気味ねセカンド!」


 サードは別にアレクを愛している訳ではない。ただセカンドが悔しがるだろうなと思って婚約者になっただけだ。サードは自分がセカンドに劣等感を抱いていた。勉強はセカンドの方が上、容姿もセカンドの方が目立っていた。だが社交場での立ち振舞いでセカンドの言葉遣いは伯爵令嬢として正しくない馴れ馴れしいものであったり、幼馴染のアレクを前にすると周りが見えていないような振る舞いをする事があった。そんなセカンドに劣っているという事実がサードのプライドを刺激し、セカンドの事が益々気に食わなくなったのだった。


 だがある日、セカンドはアレクと婚約したいが家の事情で許されなくなったという噂が聞こえてきた。サードはアレクと特別親しい仲ではない。もし婚約の話をしてもセカンドが邪魔をすればサードに付け入る隙は無いと思っていた。きっとアレクはセカンドと婚約すると思っていたから、サードはその後邪魔をしてやろうと考えていた。しかし、セカンドが結婚出来ない相手を奪えるのならその方が良いと思ったのだ。


「明日からセカンドの悔しそうな顔を見るのが楽しみだわ。」


 サードは機嫌よく微笑んだ。




◇◆◇



 アレクの婚約者になって数週間後、サードは不満そうな顔をしていた。セカンドにアレクと婚約した事を伝えに行ったのだが全く悔しそうではなかった。そしてその後も嫉妬する様子は見られなかった。それにアレクはサードを優先せずに友人達とばかり付き合った。デートの約束をした日にはキャンセルしていいかと確認されてサードも了承した。けれどいくら何でも多すぎたのだ。アレクの婚約者になってもアレクへの愛情は芽生えなかったが、愛情はなくても婚約者を優先するべきではないのかとサードは不満に思った。


 それでもセカンドに悔しい思いをさせたくて、アレクととても仲が良いと思わせたくてサードは表向きはとても幸せそうな演技をした。けれどセカンドが悔しそうに、悲しそうにする様子は全く見られなかった。段々とアレクとの関係が苦痛になっていってしまった。





◆◇◆



「…はぁ。」


 とある貴族の集まりにアレクと共に出席したサードだが、挨拶もそこそこに1人になりたくなって庭に出ていた。


 サードはこのままアレクと結婚してもいいのか悩んでいた。自分から言い出した結婚をやっぱりやめるだなんて言い出し辛かった。アレクの婚約者を優先しない点は凄く不満ではあるが、不貞行為や暴言を吐かれた訳でもない。貴族の結婚なんて政略的なモノも多く愛情で決められる訳ではない。けれど、セカンドへの嫌がらせにもならないのならば、愛していないアレクと結婚したくないのだ。



「グレル伯爵令嬢、ご気分でも悪いのですか?」


 急に声をかけられて驚いたサードが振り向くと、そこにはファースト・ラビリンス侯爵令嬢がいた。


「…御機嫌よう、ラビリンス侯爵令嬢。いえ、気分は悪くないのですが少し風に当たりたかったのです。ご心配有難うございます。」


「そうなの? それなら良かったわ。お話したい事があるのだけど、よろしいかしら?」


 サードは戸惑いながらもファーストに頷くと、ファーストは後ろを振り向いた。


「来ていただける? アンガー嬢。」


「!?」


 ファーストに呼ばれたセカンドは、サードからだと見えない茂みに居たらしい。セカンドはファーストの隣に歩いてきた。


「…グレル嬢。貴女はアレク・モルテ伯爵令息の婚約者になった事、後悔していない?」


「…はい? 急に何ですかアンガー嬢。」


 セカンドの言葉に、サードは少し驚いたが笑みを浮かべた。実はセカンドは嫉妬していたのかと思ったからだ。


「後悔なんてありませんよ。アレク様はとてもお優しくて、私とても幸せですよ。」


「…それは、本心なの? 私は幸せじゃなかったわ。」


 サードはセカンドの言葉を変だと思った。“私は幸せじゃなかった”? 何を言っているのだと。


「グレル嬢、私とアンガー嬢はアレク・モルテ伯爵令息と婚約者になった事があるのです。そしてお互い幸せになれず、時間を巻き戻しました。」


「…あのー、何を仰られているのか分かりません。」


 何を馬鹿な事を言っているのかとサードは思った。すると、何時から居たのか分からないがファーストの足元から黒猫が歩いてきた。黒猫をじっと見ていると、サードの頭の中に映像が流れ込んできた。


「っ!?!? コレって…。」


 ファーストとアレクが婚約者になる映像。ファーストがセカンドや友人達に悪口を言われる映像。ファーストと黒猫が話す映像。セカンドとアレクが婚約者になる映像。サードがセカンドに嫌味を言う映像。セカンドがファーストに話しかけられる映像。それら全てが本当にあった出来事なのだと、サードは不思議と理解した。


「私は貴女とアレクを婚約させる為に、態と私はアレクと婚約出来なくなったという噂を流したの。」


「っ…貴女!」


 セカンドの言葉を聞いてサードは睨みつけた。


「グレル嬢は私の事が気に入らないから、アレクを好きでなくても婚約者になるんじゃないかと思ったの。もしかしたら、アレクの事を元から好きじゃなければ上手くいくかもしれないとも思ったわ。」


「何を言っているんですか? 前回私に嫌味を言われた事への腹いせ、復讐の為でしょう!? 上手くいくと思ったですって? 馬鹿な事を言わないでくださいよ!」


「…やはり、後悔しているのね。」


 ファーストの言葉にサードは言葉を詰まらせた。


「映像をみたから知っていると思うけれど、私はモルテ令息との婚約を後悔して、黒猫の力を使って時間を戻したわ。でも私との婚約をなかった事にしたいだけでモルテ令息や周りを恨んで復讐する為ではないの。そしてそれは、アンガー嬢も同じです。」


 セカンドはファーストの言葉を否定しない。だがサードはファーストの言葉が本心とは思えなかった。


「…アンガー嬢の態度はとても失礼だったと思います。まぁ、アンガー嬢だけでなく周りの態度はラビリンス侯爵令嬢からするとあり得ないと思いました。それでも、復讐する為ではないのですか?」

 

 サードの言葉にファーストは苦笑いをした。


「ええ、そうよ。でも、アンガー嬢の事は前々回の件で嫌いになりました。ふふっ、私とグレル嬢は話が合うかもしれないわね。」 


「えっ、ちょっと!? ラビリンス侯爵令嬢!」


 ファーストの言葉にセカンドは慌てるが、ファーストは笑うだけで訂正しようとしない。


「…でも、私はモルテ令息の婚約者になれた時にアンガー嬢に勝った気でいて優越感を持っていたわ。その態度を隠したつもりもなかったし、罰が当たったのかもしれないと思ったのよ。」


 冗談っぽい口調でファーストは言うが、セカンドは何とも言えない顔をして黙った。セカンドがファーストにした態度に思う所はあるのだろう。そう思ったサードは何も言えずに2人を見ていた。


「私はモルテ令息の婚約者としての態度は問題だと思っているわ。モルテ令息が私を婚約者として尊重し、味方になってくれれば何もなかったと思う。けれどモルテ令息は悪い人じゃない。彼の友達思いの性格に私が一度惚れたのも事実よ。私は自分から望んで婚約者になったの、彼の意思ではなくてね。」


 ファーストは苦笑いをした。


「アンガー嬢も、グレル嬢も同じでしょう。私達は彼から婚約を強制された訳ではないわ。理由が何であれ私達が望んでこうなってしまっただけなのよ。でもだからと言って私はもう彼の婚約者になるのは遠慮したいのよね。」


「…私は、アレクの事許せないしもう結婚したいなんて思えない。でも、アレクに不幸になって欲しい訳じゃないの。だから私達はアレクの婚約者になっても不幸にならない相手を見つける事にしたの。」


 ファーストとセカンドの言葉にサードは、“アレクの事を元から好きじゃなければ上手くいくかもしれないとも思った”という、セカンドの言葉の意図を理解した。


「グレル嬢、貴女にも協力して欲しいの。もし、貴女がこのままモルテ令息の婚約者のままでいる事を望むのならそれでもいいわ。」


「今ここで返事をして欲しい。君がやり直しを望まないならこの巻き戻しは終わりにするよ。」


 黒猫の言葉にサードは一瞬黙り込むが、すぐに頷いた。


「…分かりました。私は別にアレク様の事なんてどうでも良いのでやり直して頂きたいです。私もラビリンス侯爵令嬢に協力します。」


 あくまでもファーストに協力すると言葉にし、セカンドには見向きもしないサードの言葉にファーストは苦笑し、セカンドは何とも言えない顔でサードを見ていた。


「良かった。やり直すと私達3人は記憶を持ったまま戻れるの。グレル嬢は婚約者に立候補しなければ問題ないわ。取り敢えず他にモルテ令息の婚約者になりたいという令嬢は居るから様子をみましょう。」


「分かりました。」


「黒猫さん、またよろしくお願いするわ。」


「任せてよ。」


 3人が同意するのを確認した黒猫は力を使い、3回目の時間を巻き戻しを行った。


 あと2話くらいで終わると思います。ここまで読んで下さりありがとうございました!


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