3.セカンド
2つ目の話です。
「アレク、私達結婚出来るのよ!」
「あぁ、よろしくねセカンド。」
セカンド・アンガー伯爵令嬢は、幼馴染のアレクに喜びのあまり抱きついた。セカンドは幼い頃からずっとアレクが大好きだった。アレクの傍にいるのは当たり前で離れるなんて考えた事も無かった。しかし大人になるにつれて、アレクに想いを寄せる令嬢が周りに集まってくるようになり危機感を覚えるようになった。アレクと仲が良いのは自分だと自信はあるが、貴族の婚約は政略的なモノも多く感情だけでは決められない事もある。もし、アレクが伯爵家よりも上の地位の家から婚約を打診されればどうなるのか分からなかった。
「…てっきり、ラビリンス侯爵令嬢はアレクを狙っていると思っていたもの。」
ファースト・ラビリンス侯爵令嬢はアレクに気があった…とセカンドは思う。アレクの人柄の良さと格好良さは身分問わず周りを魅了した。だから侯爵家以上の令嬢でもアレクに想いを寄せる人は多かった。しかし自分達より身分が低い伯爵家と繋がりを持つメリットがないと判断した家や、元から婚約者が決まっている令嬢達にはチャンスが無かった。だがそんな中でファーストだけはその2つに当てはまらなかった為、セカンドはとても警戒していた。しかしある日を堺にファーストはアレクに近寄らなくなった。そしてセカンドはアレクの婚約者の座を獲得したのだった。
「…まぁ、当然よね。私はアレクの幼馴染なんだもの、誰よりも強い絆があるんだから!」
セカンドは幸せそうな笑みを浮かべた。
◆◇◆
アレクの婚約者になって数ヶ月、セカンドは浮かない顔をしていた。アレクとの仲は悪くないが、婚約前と何も変わらない事にセカンドは不満を抱いていた。
「ねぇセカンド、今度のデートの日なんだけど友人が困ってるらしくてさ。助けに行っちゃ駄目かな?」
何度目になるかも分からないデートをキャンセルしても良いかという質問に、セカンドはうんざりしていた。
「前もそんな事言ってたわよね? その友人は自分の力で解決できないのかしら?」
「あはは…どうしても社交場が苦手みたいでね。」
「何時までも子供じゃないんだから、いい加減独り立ちしないと駄目でしょう! しかも、親じゃなくてどうしてアレクなのよ! 今回は駄目よ、私とのデートを優先してっ!!」
アレクに相談されて了承してきたセカンドだった。あまりの多さにとうとう苛立ちを隠せなくなった。セカンドが怒りながら言うとアレクは目を丸くした。
「どうしたんだいセカンド。何か嫌な事でもあったのかい?」
「嫌な事って…当たり前でしょう!? 婚約者とのデートを何度も邪魔されてるのよ!! むしろアレクはどうして怒ってくれないのよ!?」
セカンドの怒りにアレクはキョトンとした顔をした。
「…いやだって、セカンドと出かける事なんて昔からよくあったじゃないか。それに、これからだって一緒に居られるだろう?」
「えっ…いやでも、婚約者としては初めてじゃない! 私達の関係は昔とは変わったのよ!?」
「…いや、変わらないよ。セカンドは昔から僕の身近にいる女の子だし、婚約したからって何かが変わった感じはしないよ?」
アレクの言葉にショックを受けたセカンドは呆然としながらも、口を開いた。
「アレクは…私の事が好きじゃないの?」
「ううん、好きだよ。昔と変わらずにね!」
笑顔で話すアレクに、セカンドは何とも言えない悲しさと虚しさを覚えた。
◇◆◇
とある貴族の集まりにセカンドはアレクと出席した。セカンドはアレクと話して以来、何だか気不味くなってしまっていた。アレクはそんなセカンドに気がついていないのか、何時もと変わらずにセカンドに話しかけていた。
「モルテ令息、この前は有難うございました。」
友人達と当たり障りなく話していると、サード・グレル伯爵令嬢がアレクに挨拶をしているのが見えた。サードはセカンドの事を良く思っていない。サードはドレスやアクセサリー、社交場での話題など何かにつけてセカンドに張り合ってきている様子があった。そんなサードをセカンドも良く思っていなかった。
「いや、気にしないでグレル伯爵令嬢。力になれて良かったよ。」
「ふふっ、モルテ令息は本当にお優しいですね。こんなに素敵な方と婚約者になれたアンガー嬢が羨ましいです。」
サードはセカンドにしか分からないような嫌みな笑みを浮かべた後、すぐにまたアレクを見た。
「また何かありましたら、助けて頂けますか?」
「うん、勿論だよ。」
「っ、ちょっと待ってよ!!」
サードの言葉に迷いなく頷いたアレクに、セカンドは我慢出来ずに口を挟んだ。
「グレル嬢、貴女が何に困ってアレクに助けを求めたかは知らないけど、アレクは私の婚約者よ。自分の困り事は自分で何とかしてくれないかしら?」
「えっ…、アンガー嬢の婚約者だからと言って、何故助けを求めてはいけないのです? それに私はモルテ令息にお願いしているのであって、アンガー嬢には頼んでませんよ?」
「ア、アレクは私の婚約者なのよ!!」
「…だから、何故?」
セカンドの言いたい事は分かっているであろうに、態とらしくサードは首を傾げた。
「それに、私だけがダメなのですか? モルテ令息の他のご友人方も頼んでいますよね?」
サードが周りにそう言うと、令息や令嬢達は何とも言えない顔でセカンドを見た。
「…あー、アンガー嬢は本当にアレクが大好きなんだな!」
令息の言葉は、“セカンドは嫉妬深い”というのを遠回しに言っていた。
「…でも友人関係にまで介入するのはね。」
「婚約者だからって、束縛をするのはダメよね。」
「私の婚約者って…何だか物みたいな言い方ね。」
ヒソヒソと、しかしセカンドにも聞こえる声で話す令嬢達に、セカンドは段々と怒りがこみ上げてきた。
「皆、やめてくれ。セカンドを悪く言わないでくれ。」
アレクはそう言ってセカンドの肩を引き寄せた。
「大丈夫、セカンド?」
「…大丈夫、なわけないでしょう!?」
アレクの手を跳ね除けて、セカンドは会場を走り去った。セカンドは会場の外に出ると人気のいない庭に移動した。アレクは追ってきている様子がなかった。
「…私の婚約者って言う事の、何がおかしいのよ。」
婚約者である自分を優先して欲しい。他の令嬢と親しそうにされるのは気に入らない。そう思うのが変だと言うのか。いや、令嬢達はアレクに想いを寄せている人が多いからセカンドを傷付けたくて言っただけなのかもしれない。それよりも、婚約者になっても幼馴染だった頃の関係と全く変わらないアレクの態度に、セカンドは失望した。
「…アレクって、何も分かってないのよね。」
昔から一緒に居たから知っている。アレクには悪気なんて何もないのだと。婚約者とのデートより、困っている友人を助けたいと思ったのだろう。でも、それでもセカンドは納得出来なかった。
「…幼馴染の貴女でもそうなったのね。」
突如聞こえてきた声に驚いて顔をあげると、ファースト・ラビリンス侯爵令嬢が居た。
「…ラビリンス侯爵令嬢。」
「お話してもよろしいかしら、アンガー嬢?」
ファーストの足元には黒猫が居た。
ここまで鈍い男は存在するのでしょうか?笑 次の主人公が誰かは分かりますよね!
ここまで読んで下さりありがとうございました!!




