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異世界ゲームは趣味である ~レベルという概念の無い世界でレベルアップするのは反則だろうか~  作者: シシオドシ


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とある国の終焉1

「どうして・・・・・・こんな・・・・」



 窓の外を見るとそこには絶望が広がっていた。


 いつもの青い空はそこには無く、重暗い鉛色が公都全体を覆いつくしている。日の光は完全に遮られているのに、眼下の街は普段以上に明るい。



 轟々と燃え盛る炎によって。



 普段ここまで聞こえてくる幸せそうな人々の生活の音は、身が引き裂かれる悲鳴へと変わっている。


 泣き叫ぶ声、狂気の怒号、悲痛な断末魔の悲鳴。


 それらが暴威の波となってこの《《宮殿》》まで押し寄せてくる。


 そのあまりにも信じがたい祖国の変容に、私は愕然とその場にへたり込んだ。





 私の大好きだったものが壊れていく。



 普通であった幸せが奪われていく。



 「止めて」と何度叫んだことか・・・・・・それでも非情な悪意は止まる事無く何もかもを蹂躙していく。





「大公陛下、退避する準備をお早く! 間も無く奴らがここに押し寄せてまいります」


 バンと勢いよく開かれた扉の音と張り上げられた声に止まりかけていた思考が戻され、私はそちらへと振り返った。

 扉の前で荒い呼吸を整えている騎士鎧の大男。その形相は険しく鬼の様に吊り上がった眉が余裕の無さを物語っている。


「・・・・ザバエ」


 その不安を表すような弱弱しい声で騎士の名を口にすると、騎士ザバエは私を見てまるで苦しみに耐える様に眼を細めた。しかしそれはほんの瞬きの間、直ぐに険しい元の顔に戻る。


「大公家の皆さまは隠し通路を通ってお逃げください」


 そして重厚で低い声でそう告げてきた。


「おのれ・・・・・リーンフォデルンの狂人どもめ!」


 誰しもが息を飲むのが感じ取れた。

 その中で真っ先に半狂乱の声を上げたのは白く神聖な法衣をまとった聖職者。その口から出た言葉は衣装にそぐわない悪態。

 私に公平さと慈しみを教えてくれた司祭様が怒りに咆哮する。


 それを皮切りにこの場に集まっている多くの人々が怒りと不安と嘆きを吐き出していく。


「あぁ・・・・あぁ精霊様。どうか、どうか御助けを」


 幼いころから身の回りの世話をしてくれた女中たちが涙し一心不乱に祈りを捧げる。

 そこには普段私に向ける優しい微笑みは無く、唯々怯えに歯を振るわせ悲愴に嘆く。


「終わりだ、もう、なにもかもが終わりだ」


 政を取り仕切る文官たちが膝から崩れ落ち絶望に涙する。


「ならばこの命が尽きる迄奴らを殺してやる迄」


 歯を食いしばった口から血を流し怒りに震える兵士たち。



 私の日常が、私の幸せを彩ったものたちが、この空同様にこんなにも歪み曇っていく。



「私はここに残ろう」

「お父、様?」


 動揺と悲愴が漂うなか、威厳ある落ち着いた声がその全てを呑み込んだ。


 発したのは《《この国の大公である私のお父様》》。

 お父様は私の肩にそっと触れるといつもと変わらない優しい笑みを浮かべる。

 それから瞼を閉じザバエを見据える様に再び開く。

 そこには何の迷いも無い真直ぐな眼差し。


「大公陛下!!」


 ザバエが声を張り上げる。

 誰しもがお父様の言葉を聞いて驚いているように見えた。

 私は暫しお父様がおっしゃったことが理解できず唯々そのお顔を見上げるだけ。


 いったい・・・・・何を。


 急激な不安と怖気に反対側の隣に佇むお母様へと救いを求める視線を向ける。

 お母様も真直ぐにみんなを見ていた。そしてお父様同様その瞳には何かを決心したかのような輝きがあった。


 そして徐々にお父様の言葉の意味を理解していくと、私の血の気がどんどんと抜けたかのような寒気が襲ってきた。


「何をおっしゃるのですか。ここは既に敵どもに包囲され今にも押し寄せてくるのですよ。確かに逃げる事がどれだけ心に杭を打ち込む辛さかとは存じますが、それでもどうかお逃げください。大公陛下さえ生きておられれば何れこの国とて」

「それは違うぞ、ガスペルよ」


 長くこの国で宰相を任されてきたガスペル卿がお父様に傅きそう嘆願する。しかしお父様は途中首を横に振る。


「真にこの国を、いや《《この世界》》を思うのであればここで一番に逃がすべきは私ではない」


 未だ放心に近い私はそのやり取りをどこか遠くの事の様に眺める。


 だけど次の言葉に私の脳は現実を無理矢理に呼び起こされた。


「・・・・・・この国は、《《亡びる》》」


 悔し気に、だけどはっきりとそう口にしたお父様。


 亡びる、その飾りの無い直接的な言葉は殴りつけられたかのように私の心を大きく揺らした。



 そう、この国は今その危機に瀕していた。


 長年守られてきた不可侵条約は一方的に破棄され、我が国は大国リーンフォルデン王国からの侵略を受けていた。


 それを改めて認識したとき、私の目からは涙が溢れ出していた。堪えていた感情はもう抑えきれない。


 この事態を《《招いたのは私》》だ。

 私が居たが為にこの国は今攻撃を受け亡びようとしている。



「私が・・・・私の、所為で・・・・・・」



 自分のこの感情に名前を付けるとしたら何になるのか。ただどうしようもない程暗く黒い感情の塊がねっとりと絡みつく。


 砕けてしまいそうなほど奥歯を噛みしめ、呻くように私がそう口にすると、ハッとしたようにお母様が私を抱き締める。


「違うわ。違うのよ《《フィア》》。貴方は何も悪くないの。全ては私欲に目がくらんだリーンフォルデンの凶行なのだから」


 そしてそのお母様ごとお父様が抱き寄せる。


「すまない。私が不用意な言葉を口にしてしまった。フィア、愛する我が娘よ。お前が自分を責める道理は何処にも無い。こうする事を選んだのは我等全ての意思・・・・いやそれは精霊様の御意思でもあったのだ。例え国が窮地に陥ろうとも我等は精霊様と世界の均衡を守らねばならない。お前にはつらい現実だと思う。それを強いることしか出来ない私たちの不甲斐なさを悔いるばかりだ。だがこれだけは分かって欲しい。確かに王として、《《守護者》》として事を判断したが、私は親としてもお前をあの愚か者に渡さなかった事を間違ったとは思っていない」


 強く、そして温かい。


 二人の抱き締める腕の中で温もりを強く感じる。


 この温もりだけは守りたい。

 私に残された最も大切なものを失いたくない。


 だからせめて最後はこの温もりの中で・・・・・・・・・・そう切に願った。



 けれど、この世の不条理はそれすら拒む。



「あなたは精霊様に誰よりも愛され、誰よりも心を通わせられる、伝承により語り継がれてきた選ばれた子。あなたを守る事、それはこの国の、精霊様と共に生きる私たちの使命でもあるの・・・・・・・いいえ、違うわね。大好きなフィア。私の可愛いフィア。私はあなたを守りたい。あなたの幸せを誰よりも・・・・・守りたい! ザバエ!」

「お母様!?」


 お母様の優しくも強い言葉、でも最後は涙で震えた声で私に語り掛け、そして突き放す。


「あなたに娘を託します。だからどうか・・・・・娘を守って」

「っ、マリエス様・・・・・・・・は! この命に代えて!!」


 突然突き放された私をザバエが受け止める。

 消えた温もりを求めるように手を伸ばすがそれは叶わない。私の体はザバエの鍛え上げられてしまった。


「姫様ご無礼お許しください」


 そう言うとザバエは私を肩に担ぎ二歩三歩と後ろに下がる。


 お父様とお母様、それにガスペル卿に司祭様や女中達、ここにいる皆が涙を流し私を見ている。誰一人として動こうとしない。私と、私を担ぐザバエだけが離れていく。


 私はその行為の意味を悟った。


「い、嫌だ・・・・離して」


 首を振った。


「下ろして・・・・下ろしなさい! ザバエェ」


 上擦る声で精一杯に叫んだ。


 けれど両親達とに距離はどんどんと離れていく。ザバエは止まらない。


「我が愛しい娘、《《ステルフィア》》よ。どうか、どうか生きてくれ」


 国民が敬い尊敬する凛々しいお姿のお父様が私の名前を口にする。



 ・・・・・・・・・・・嫌。



「私の宝物。何よりも大事で愛おしいフィア。不甲斐ない母を今まで愛してくれてありがとう」


 私の愛称を呼び別れを口にする、いつも優しく穏やかなお母様。



 ・・・・・・・・嫌よ。



「姫様の隣にはいつも精霊様が付いておられます。あなた様ならきっと立派な精霊の王になられるでしょう」


 悪さをすると誰よりも私を叱り、どんな時でも私を見守ってくれた司祭様。



 ・・・・・・・・やめてよ。



「この国の歴史は姫様と共に」


 私が生まれた時から父様の傍にいて、勉強でも遊びでも何でも知恵を貸してくれた宰相のガスペル卿。



 ・・・・・・・・置いて行かないで。



「姫様に精霊様の加護がありますように」


 いつも私の話を笑って聞いてくれた女中達。



 皆が私から離れて行ってしまう。


 だから私は必死で手を伸ばし、喉が痛くなるほど声を張り上げて叫ぶ。



「一人にしないで!! 私も皆と・・・・・お父様! お母様!」



 だけど私の声は無情にも重く厚い石の扉で遮られてしまう。



「嫌、嫌よ、嫌ぁぁぁ、あ゛ああああああああああああ・・・・・・・・」



 扉が閉まる。


 闇に落ちた世界で、私の叫び声だけが無情にも反響していた。

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