重い期待
剣を握りしめて、また舞台に立つ。
応援されることがこんなにも嬉しくないのか。
――歓声が上がる。また…嫌な気分だ。
レオン・ヘクトルージュ、実は本名だ。こんな飾られた名前には見合わない…俺はつまらない男だ。
いつしか同じ故郷の選手を見た。初めて見たメタコンに少年の心を揺さぶられた。「いつか同じ舞台に立ってやる」心に誓った。いま、その誓いを果たそうとしている。
個人戦は登竜門とも呼ばれるほどで、多くのルーキーを輩出している。そんな場所にやっと立てた。
一戦目、緊張もあったが相手もこれが初戦。お互い様であった。実戦練習は何度かやっていたから難しくは無かった。無事勝った…その安堵に浸る俺の事を監督は褒めてくれた。分厚い手でくしゃくしゃに撫でてくれた。
二戦目、緊張も和らぎ肩が少し軽くなった。監督が俺のために用意してくれたサンライガーはちゃんとやってくれた。その鉄の塊でしかなかった機体がどこか嬉しそうに笑っているようにも見えた。
その後も三戦目、四戦目と勝ち進んでいった。
勝ちを重ねるにつれて、世間での俺の姿が膨らんだ。
十勝するとエースになれる。
誰かが言った。先輩だったか父さんだったか…分からないけど噂じゃない。
エースになったらチームに出してくれる。そう信じていた。
五戦目に差し掛かるとき、身体が重くなった。吐き気もした。「極度の緊張」と監督は言った。アイカメラの映像が映るモニターを観るたびに頭が痛くなった。
ここで負ければ楽になれるのかな…
そんなことが過る。ダメだ、期待されてるんだ。ここで負けたら裏切ることになる、誰かが悲しむ。嫌だ、1人で俺を育ててくれた父さんは背中を押してくれた。それを簡単には踏みにじれない。
震える手で操縦桿を握った。合図のブザーが鳴り響く。…動けない…戦わないと。レバーを前に倒すことすらできなかった。
大きく深呼吸をしてみた。「少しは落ち着いたか?」監督が肩をもんでくれた。力が抜けた。
まだ少し震えながらも前へと歩む。やがてその脚はタイルを踏み抜き、相手の機体に迫っていた。
「機体のルーキー九戦九勝。エース昇格なるか?」
そんなニュースを読んだ。聞いた。何度も何度も。 みんなが俺を見て、期待してる。
逃げたい…逃げれない。
「日本人選手遅れて参戦。初戦は期待のルーキー。勝ち抜けは難しいか…」
…誰が?…無名の選手。
勝てる。となぜか考えてしまった。どうやって勝つか、ではなく「約束された勝利」。
目の前に立つその鉄の巨人は、酷く細かった。ぎこちないがスムーズに身体が動いている。
…知る人は少ないがアマチュアの大会くらいなら俺だって勝ってきた。去年初めて優勝して…もっと前の話ならジュニアの大会で世界制覇を遂げた事もあった。だがプロは違う、のに…その過去の栄光をさぞ昨日の事のように祀り上げる…言わば仮初めだ。世間から見た俺は世界一にもなれる実力派。実際は臆病で、ひ弱で、実力で勝ったことなんてない。
相手が何やらおかしな動きをしている。何かやられる前に動かないと。
ブースタを全部燃やした。一気に距離を詰めて剣を振った。…居ない、目の前に居たはずの巨人が。気がつけば背中に一筋の大きな切傷がつけられた。あり得ない…そんな動きあり得ない。
勝てるはずの相手に翻弄されたことに腹が立った。
体当たり。最も単純で、最も機体の性能が試される攻撃。
体制を崩す相手に震えながらも剣を振り上げた。
その時に気が付いた。周りは俺を応援している。俺の名前を呼んでいる。……これが俺のやりたかったことなのか?…これが俺が望んだ結果なのか?
分からない。何一つ分からない。
「何やってる。何を迷っている?」監督の声が聞こえて、反射的に振り下ろした。
勝った…
エースに昇格した。震えた、怖かった…何度も吐いた。インタビューも受けたくなかった。
勝ったのに…嬉しくない。
明日はまたこの膨らんだ期待を背負って戦わないといけないんだろうか。
エースとはチーム内で確かな実力がある証。
逃げ出せない。なおさら逃げ出せない。




