選択を続けるということ
「やあやあ、初めましてこんにちは。吾輩、“ここ”の管理を任されているナカムラという者だ。まあ楽にしてくれたまえ」
白く、殺風景なだけの立方体の部屋。
その中央で椅子に腰掛け、テーブルの上に菓子やティーカップを並べる壮年の男性がいる。
「ふむふむ。君はどうしてこんな場所へ迷い込んだかは覚えているかい? なに、何も知らない? いやそう落ち込まなくていい。それは仕方のないことだ。これから一つずつ思い出していくとしよう」
男性が指を弾く。
「君は1998年9月、この世に生まれ落ちた。両親は共に君の誕生を大変喜んだらしいね。ふむ、とても幸せそうじゃないか。ええ、その赤子が自分に見えないだと? まあまあ少しすれば面影も出てくることだろう。慌てない、慌てない。どうせ時間は腐るほどあるのだから」
人差し指がくるりと円を描いた。
「おや、これは君が初めて立ち上がったときの記録のようだね。どうだいどうだい? やはり顔は君に似ているだろう。うむ、うむ。少しずつ理解が進んでいるようで何よりだ」
男性が紅茶を口にした。
「これは7歳の君だね。どうやらピアノ教室に初めて顔出しをする日のようだ。……この記録には心当たりがあるみたいだね。そう、ここで君は、両親の言う通りに習い事をする、という選択をした。────おや、このことを選択と表現されることが嫌かい。確かに君は幼く、親以外の世界をろくに知らない子供だった。しかしそれでも、たとえそれが第三者から提示された強制に等しい選択肢であったとしても、君はそれを選んだんだ。そこだけは違えるなよ?」
コツコツ、と指先がテーブルを叩く音がする。
「そして君は、生来静かな気質の人間だったようだね。小学校までは目立たず、平穏に過ごせていたようだが、中学という段階でその気質に目をつけられてしまったようだね。ん、見たくないだと? いいや見てもらうね。君はこれら全てを鮮明に思い出す必要があるのだから」
ヒョイ。パク。
テーブルの上からはいつのまにか菓子類が姿を消していた。
「君は、そうか、この状況で耐えるという選択をしてしまったんだね。ああ、仕方がないだとかそういう言い訳は聞き飽きているんだ。生きるということは選択をし続けるということだよ? そしてその選択に伴い、選べる手段というものは必ずしも提示されているとは限らない。不自由なのは当たり前さ。大事なのはただ、その中にある選択肢に気づけるかどうかだ」
男性が手を叩くと今度はまた豪華な趣向の凝らされた菓子類がテーブルの上に並べられる。
「そして、自殺と。まあ、ありきたりな人生だね。現世では悲しく、哀れな最期として同情されるのだろうが、こちらとしてはそうもいかない。理由がどうであろうと、半端に終えられてしまった魂はそのまま転生することができない。これは世界の運営に淀みを産み落としかねないために、こちらでは罪と定義されている」
「そして、ここにおいて君の罪状は決まった」
男性は、テーブルの対面にいるであろう誰かに向けて視線を投げた。
「君は地獄行きだよ」




