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選択を続けるということ

作者: ユクミチ
掲載日:2024/10/28


「やあやあ、初めましてこんにちは。吾輩、“ここ”の管理を任されているナカムラという者だ。まあ楽にしてくれたまえ」


 白く、殺風景なだけの立方体の部屋。

 その中央で椅子に腰掛け、テーブルの上に菓子やティーカップを並べる壮年の男性がいる。


「ふむふむ。君はどうしてこんな場所へ迷い込んだかは覚えているかい? なに、何も知らない? いやそう落ち込まなくていい。それは仕方のないことだ。これから一つずつ思い出していくとしよう」


 男性が指を弾く。


「君は1998年9月、この世に生まれ落ちた。両親は共に君の誕生を大変喜んだらしいね。ふむ、とても幸せそうじゃないか。ええ、その赤子が自分に見えないだと? まあまあ少しすれば面影も出てくることだろう。慌てない、慌てない。どうせ時間は腐るほどあるのだから」


 人差し指がくるりと円を描いた。


「おや、これは君が初めて立ち上がったときの記録のようだね。どうだいどうだい? やはり顔は君に似ているだろう。うむ、うむ。少しずつ理解が進んでいるようで何よりだ」


 男性が紅茶を口にした。


「これは7歳の君だね。どうやらピアノ教室に初めて顔出しをする日のようだ。……この記録には心当たりがあるみたいだね。そう、ここで君は、両親の言う通りに習い事をする、という選択をした。────おや、このことを選択と表現されることが嫌かい。確かに君は幼く、親以外の世界をろくに知らない子供だった。しかしそれでも、たとえそれが第三者から提示された強制に等しい選択肢(もの)であったとしても、君はそれを()()()()()。そこだけは違えるなよ?」


 コツコツ、と指先がテーブルを叩く音がする。


「そして君は、生来静かな気質の人間だったようだね。小学校までは目立たず、平穏に過ごせていたようだが、中学という段階でその気質に目をつけられてしまったようだね。ん、見たくないだと? いいや見てもらうね。君はこれら全てを鮮明に思い出す必要があるのだから」


 ヒョイ。パク。

 テーブルの上からはいつのまにか菓子類が姿を消していた。


「君は、そうか、この状況で耐えるという選択をしてしまったんだね。ああ、仕方がないだとかそういう言い訳は聞き飽きているんだ。生きるということは選択をし続けるということだよ? そしてその選択に伴い、選べる手段というものは必ずしも提示されているとは限らない。不自由なのは当たり前さ。大事なのはただ、その中にある選択肢に気づけるかどうかだ」


 男性が手を叩くと今度はまた豪華な趣向の凝らされた菓子類がテーブルの上に並べられる。


「そして、自殺と。まあ、ありきたりな人生だね。現世では悲しく、哀れな最期として同情されるのだろうが、こちらとしてはそうもいかない。理由がどうであろうと、半端に終えられてしまった魂はそのまま転生(リサイクル)することができない。これは世界の運営に淀みを産み落としかねないために、こちらでは罪と定義されている」


「そして、ここにおいて君の罪状は決まった」


 男性は、テーブルの対面にいるであろう誰かに向けて視線を投げた。


「君は地獄行きだよ」

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