追放された夜
新作です、暇つぶしにどうぞ。
「マスター、もう一杯!」
「ジード、飲み過ぎなんじゃないか?」
「良いんだよ、これがこの町で最後の酒なんだから」
「最後の酒、って活動拠点を移動するのか?」
「いや、冒険者は廃業する」
俺、ジードはそう言ってグイッと飲んだ。
「今日、ハッキリわかった。 俺は冒険者に向いてないんだよ。 だから故郷に帰って畑を耕してのんびり暮らすわ」
「おいおい、何があったんだよ」
馴染みの店のマスターが聞いてきた。
「はぁ~……、思い出すのも嫌なんだが……、追い出されたんだよ。 組んでいたパーティーを」
「えぇっ!? 幼馴染と確か組んでいたんだろ?」
「あぁ、幼い頃から一緒に『冒険者になって名前を残したい!』と思って故郷を飛び出してこの3年一緒に過ごしてきた。でも、あいつ等いつからか俺の事を小馬鹿にしていたんだ」
「あぁ~……、想像ついたよ」
「俺も薄々感づいていたよ。でも幼馴染だし足手まといにならないように頑張ってきたさ。でも、心がポッキリと折れた。どう足掻いても俺とあいつ等の差を埋める物は無い。持って生まれたものには勝てないんだよ」
「なるほどなぁ……、なぁジード、人間っていうのは適材適所ていうのがある。絶対に光り輝く物が必ず持っているがその光り輝ける場所を見つけるのが難しいもんだ。 きっとお前さんにも光り輝く物があるだろうよ」
「そんなもんかな……」
「そんなもんだ、それにパーティーの雑用はお前がやっていたんだろ? きっと追い出した奴らはこれから後悔するだろう」
「後悔、するかな……」
「するさ、そういうパーティーを俺は何組も見てきたからな」
そう言ってマスターをニッコリ笑う。
「あと、冒険者を辞めるんだったら綺麗さっぱり今までの事を忘れろ、決して妙な復讐心は持つな。 そんなもん持っていたら第二の人生が楽しめなくなるぞ」
「そうだな……、まぁ復讐出来る能力も無いしな。 良し!綺麗さっぱり忘れて明日から第二の人生を歩むぞ!」
「その息だ! 今日は俺が奢ってやる! 新たな人生の門出だ!」
その日の夜は、俺とマスターで盛り上がった。
翌日は二日酔いで頭がガンガンしたが誰も来ない早朝を狙い俺はギルドガードを返却し冒険者を廃業した。
そして、冒険者として活動してきたこの町を去った。