たまごの黄身と白身、どっちが好き?
『第5回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』投稿作品です。
指定キーワードは『たまご』
放課後、僕、こと珠 吾郎は料理部部長の白道 喜美子先輩と二人で部活の後片付けをしていた。
今日は珍しいことに僕以外の部員は参加しておらず、二人だけでの部活動になっている。
「ねぇ、珠君はゆでたまごの白身と黄身、どっちが好き?」
「んー、ゆでたまごなら黄身の方が好きですね」
不意に、お皿を拭いていた先輩が僕に質問をしてくる。
白身が嫌いという訳じゃないけれど、ゆでたまごの白身は食感が少し苦手なのだ。
「そ、そっか。ちなみに私も、き、黄身が好きだよ?」
「そうなんですか、それならお揃いですね」
「お、お揃いだね! えへへ、嬉しいなっ」
お皿を洗い終えて、拭いて貰おうと先輩の方を見ると何故だか頬がほんのり赤くなっていた。
「先輩、もしかして熱があったりしますか? 顔がちょっと赤くなってますけど」
「べべべべべ、別にっ!? 顔が赤いって言うけど珠くんの見間違いじゃないかな!? あ、と、ところでなんだけど、もう一回ゆでたまごの好きな方、言ってくれるかな?」
ぶんぶんと首を激しく左右に振る先輩に、首が取れてしまうんじゃないかと思わず心配してしまう。
そしてもう一回と言われたので、同じことを繰り返す。
「ゆでたまごなら、僕は黄身が好きですよ」
「ゆでたまごなら、って前置きはなしで」
「僕は黄身が好きですよ」
「私も君が好きですっ!」
突然、先輩が僕の方を向きながら大きな声を出して言ってきた。
ん? 今、黄身の発音がおかしかったような?
「えっと、先輩。黄身の発音がおかしくなかったですか?」
「あぁぁぁ、なんで気付いてくれないかなぁ!? 私は! 君が! 大好きですっ!」
何回、黄身が好きって言うんだろうと、きょとんとしている僕にうがーっと先輩が頭を掻き毟る。
「うぅ、どうしてこういうとこだけ鈍いの、君は」
「あ、今のきみってたまごじゃなくて僕のことですね」
「そうだよ! 私は君が! 好きなの!」
「黄身じゃなくて、君が好き?」
「だからさっきからそう言ってるよっ! 君は? 君は私のこと好き?」
顔を真っ赤に染めながら、不安そうに僕を見上げる先輩に、先輩ってこんなに可愛いかったっけと思ってしまった。
もちろん、僕の答えは決まってる。
「僕も、君が大好きです」