前奏~すべてのはじまり~
セイラは気が付くと森にいた。
これがセイラの持っている最古の記憶だ。
深く暗い森がざわざわと木の葉を揺らし、頭上の月明りが頼りなく彼女を照らす。
あたりは木々ばかりで他には何も見えない。
何も見えない暗闇、それは膜となって肌を包むようにねっとりとまとわりつき、
セイラに不穏を感じさせる気配だった。
「ここは、、、どこ?」
セイラはその小さく短い手足で周囲をさぐり、考えた。
といっても、まだ幼い彼女にあまり深く考えるすべはない。
ただ、自分がどこかわからない森にいること、それだけがわかった。
だんだんと色を失い真っ黒に染まっていく景色、
その中でたどたどしい足取りで立ち上がったセイラはしばらく周囲を歩き回ったが、
何の成果も得られず疲れてまた座り込んでしまう。
その時だった。
ちょうどセイラの前方にある大きな茂みががさりと音を立てる。
次の瞬間には、大きな黒い影とその中心に光る赤い2つの点が姿を現した。
「!!!」
それは犬の魔物だった。
まだ幼く歩くことさえ十分にできないセイラは突然の襲撃者に言葉を失う。
どうしよう。逃げなきゃ。
そう思うも、疲れ切った体は簡単にはいうことを聞いてはくれない。
段々と自分よりも2回り以上大きな怪物がうなり声をあげながら迫ってくる。
ガサリ。ガサリ。
1歩ずつ近づいてくるそれに、セイラは少しずつ恐怖を増し、体が小刻みに震えだした。
ついにセイラの目の前まできたその怪物は、鋭い牙のついた大きな口を開き。
もうだめだ、と思った。
恐怖の限界を迎え、目を瞑った。
そして。
目を閉じて真っ暗闇になった世界がほのかに明るく光る。
何かが目の前で強く光っていることを理解したセイラはそっと、瞼を開けた。
光の正体は1人の老婆だった。
大きな木の杖を持ち、強い光で大きな魔物を打ち倒している。
唖然とするセイラに向って振り返った老婆は、ゆっくりと微笑んだ。
「だれ・・・?}
セイラがそう口にすると、老婆は一瞬うつむいたあと、さらににっこりとして聞いた。
「大丈夫かい?お嬢ちゃん」
それがおばあちゃんとの出会いだ。