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安楽椅子の魔女 〜四人の死に戻り令嬢と暗黒のお茶会〜  作者: 平沢ヌル
第三夜 エレーヌの焼死
15/25

第15話『燃え盛る屋敷の中で』

エレーヌの死の現場。そこは、一面炎に包まれていた。

 シセリアは目を閉じて、開ける。

 今回はそれが、ほとんど一瞬だったように感じる。眼球が一回転してまた戻ってきたような目眩を感じるが、この目の痛さはあるいは、再現されている光景自体のためかもしれない。


 辺り一面が、炎、炎、炎。


 どうやら、元々は貴族の屋敷の一室だろうと思われた。高い天井に白い漆喰の壁、壁面にも天井にも繊細な装飾が施されている。しかし、現在はその火の手が、天井にまで届こうとしていた。


「ああ……」

 傍らの人物から発せられた呻き声をシセリアは聞く。エレーヌだ。

 それからエレーヌはふらふらと、部屋の一角へと歩み寄る。

 やや小ぶりな天蓋付きのベッド。

 炎は、その天蓋にも燃え移っていた。


「エレーヌさん、危ないですよ!」

 思わずシセリアは声を掛ける。それに返答を返すのは魔女だ。

「君こそ、忘れたのかい? ここは魔法で再現された事件現場だし、それに僕らはもう死んでいる」


 天蓋付きベッドの手前で、エレーヌは力なく崩れ落ちる。


 そこにはもう一人、エレーヌがいた。

 身動きはしていない。煙に巻かれて、もう息がないのかもしれない。

 エレーヌは、その腕に誰かを抱き抱えている。年端もいかない小柄な少年だ。

 黄金色の巻毛、愛されなかった王太子の息子、ルイ。彼もまた、事切れていた。

 火の粉が飛んできては焼け焦げを作っている白いシーツには、ルイの体から流れた血液が散っている。


「ああああ……ああああああ!!」

 その光景に、エレーヌは絶叫する。

「エレーヌさん、落ち着いて! しっかりしてください!」

「……シセリア。そのままにしてやった方がいい。自分の愚かさの帰結をその身に感じるのに、誠意のこもらない他人の慰めなんて役に立たない。逆効果だよ」

 そんな魔女の言葉、そこに含まれる刺。

 それはエレーヌにも、そしてシセリアにも向いていて、シセリアにはそれが少し気にかかる。

 だが、この場を検分して客観的な判断を下すのは、どうやら今回も自分の役目であるようだ。


「……ねえ、魔女さん。ここはどんな場所なんですか」

「昨夜のエレーヌの言った通りの場所さ。ラマルタン王国離宮、その別棟。エレーヌとルイ王子が起居していた住居だよ」

「ふうん。……お父さんや他の宮廷の人々と一緒には生活しないで、別のところで暮らしていた、と」

「ルイ王子は、冷遇されていたからねえ」

 床にくずおれたまま、微かな嗚咽を上げているエレーヌを遠巻きに眺めながら、シセリアと魔女はそんな会話をしている。


 この状況でシセリアには、一つのことが気にかかった。

「……冷遇なんですかね? 本当に」

「どういう意味だい?」

「こんな風に居心地の良い家に住めて、召使もいて、エレーヌさんみたいな教育係も付けられて。十分幸せじゃないですか?」

「いろんな考え方があるからね。本人次第じゃないかな」

 魔女は肩を竦めるが、シセリアはさらに続ける。

「こういう考え方もできると思うんです。お父さん……アレクサンドル王太子は、ルイ王子を権力争いから遠ざけたかったんじゃないかと。だって、権力争いに巻き込まれたら、あんなことになるんですよ。ジャクリーヌさんや、クローデットさんみたいな」


 シセリアの言葉に、エレーヌは頭を抱え、掠れた声を出す。

「私が…………私が、あんなことさえしなければ……」

「エレーヌさん?」

「私が! 私が愚かだったんです! 私がいなければ! 私さえいなければ!」

 エレーヌは叫ぶ、まるで地獄から聞こえてくるような声で。


「……エレーヌさん、あなたは」

 呟くシセリアに、魔女はくすくすと笑う。

「どうやら、見てみる必要がありそうだね。エレーヌが、どんな愚かな真似をしたのか」

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