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第26話「帝国の悪夢」

26.「帝国の悪夢」


 フォーラスン(最重要犯罪者収容所)


  属 非公開

  属 非公開

  属 非公開

  属 非公開


 人工照明以外に光源が一切存在しない(とこ)(やみ)の惑星フォーラスンは帝国の数少ない機密指定惑星に属し、特性上、カーディナル、皇帝直属の近衛兵団、軍上級将校、各局の上級セキュリティ・クリアランス保有者といった高位階級かつ特別な手続きをしなければフォーラスンを訪れることはできない。フォーラスンの全体像を知る者はほとんどおらず、そして知ることもできなかった。

 惑星自体が惑星シールドに覆われている上、周囲と景色を同化する特殊な天球構造物にフォーラスンは内包されているため、外から見てもその姿を捉えることはできない。出入りする艦船も姿と位置情報を(いん)(ぺい)するためのクローキング装置が必ず(とう)(さい)され、フォーラスンの座標は厳重に守られていた。


『全所員に通知。カーディナル・ルガ(きょう)は予定通り到着される。全監房のセキュリティ・チェックを実施せよ』

『こちらセクション1、異常なし』

『セクション2、異常はない』

『セクション3、異常なし』

『こちら特別監房。対象の動きに変化なし。拘束具、シールド、隔壁、全て異常なし。各種センサーに異常なし。オールクリア』

『全セクションは通常通り()(どう)中』


 犯罪者にとってフォーラスンに移送される事はこれ以上ない最悪の展開である。移送された者が減刑でフォーラスンから解放されたのはここが()(どう)してから三万年の間でわずかに三件であり、脱獄できた者はいない。なお帝国での極刑は死刑にあらず、むしろ()()()()()良心的な方だといえた。


 帝国における極刑は〝帝国臣民としての全権利〟を完全に(はく)(だつ)される〈スパージ〉であり、これは帝国臣民として死を与えられる死刑とは全く次元が異なる事を意味した。スパージを宣告された者は〈天の牢獄〉に捕らえられ、無限に続く苦痛と絶望を味わうことになる。正気を失っても精神状態は即座に修復される上、仮に精神的ショックで死んだとしても記憶はそのままに完全蘇生される。この地獄を回避することは身体的、精神的の両面において不可能であり、ここから自力で抜け出すこともまた不可能であった。


 フォーラスンに収監されている者は漏れなく全員がスパージを宣告されている。言い換えれば帝国がその存在を危険視しているということの裏返しでもある。最近では犯罪王として知られている〝ツゥケァル・ゲウス・ゲルタック〟が収監されたばかりだ。



 フォーラスンの管理を任されているのは植物系エイリアンに分類される知的種族イチュリと近衛(このえ)兵団に属するリィナー・アンストローナ兵である。


「ルガ(きょう)が視察にいらっしゃった」


 イチュリである所長ハフ・ケニュ・ボークズ・ンレはリィナー・アンストローナ兵四人を(ともな)って、カーディナルの元へ向かっていた。

 イチュリは惑星アイザ・ホスタを故郷に持つ。ザクロの実のような頭部、首回りからトマトのヘタのような葉が生え、口部はウツボのように大きく割ける。容姿はかなり(しゅう)(あく)なのだが、当の本人らは静かな場所で規則正しい生活をすることを好む。彼らイチュリは大半の種族にとって致命的となる毒物や病原体に高い耐性を持つことから、閉鎖的な空間であるフォーラスンの管理を任されていた。公用語であるヴェルシタス語を直接発する事ができないため、特殊な発生器を体内に組んでいる。


「ルガ(きょう)、ようこそフォーラスンへおいでくださいました」

「所長、前倒しの視察になってしまったことを詫びます。(なに)(ぶん)、前線での仕事が多いものですから」

「こんなところにまでお越し頂けるだけで私は感動です」

「護衛の君達はここで待機しておいてくれ」

「イエス、マイロード」


 カーディナルのルガは護衛にアンストローナ兵ではなく、自身の私兵を引き連れていた。彼らは白色を基調とするアンストローナ兵とは異なり、黒と赤を基調としていた。統合センサーもモノアイ型ではなく、スリット型を採用し、背中にはルガを表すカーディナル紋章が描かれている。


 ンレに従うリィナー・アンストローナは外見こそアンストローナ兵に(こく)()しているが通常のアンストローナ兵とは明確に存在が異なる。確かに特殊な調整を(ほどこ)された高位アンストローナ個体も中にはいるのだが、ほとんどが帝国に(つか)え、歴戦の英雄あるいは極めて優れた功績を残した兵士、またはボランティアがその(けん)(しん)を皇帝により認められ、疑似アンストローナ兵化したものである。


「全所員へ通知。ルガ(きょう)がエントランス・ホールに到着」


 リィナー・アンストローナ兵はアンストローナ兵と集合意識ネットワークで情報共有をすることができるだけでなく、(おの)(おの)がカーディナルと同様、得意とする特殊戦闘技能を習得している。間違いなく帝国軍で最強の兵士だ。


「ルガ(きょう)、大変申し訳ないのですか、ここから先は規則により個人装備が全て使用できなくなります。個人の携帯武器も持ち込みできませんので、こちらに全てお預けください」


 ンレの言葉とともにルガの目の前には身に着けているものを預ける収納ケースが現れた。


「承知した」


 次の瞬間、ンレは氷漬けとなり、ルガの私兵がリィナー・アンストローナ兵へ銃撃を行った。


「正面はクリア。フェーズ2へ移行」


 粉々に(くだ)け散ったンレを横目にルガは更なる部下を呼び込んだ。()()()()()()だ。彼らは液状から立体化、倒れているリィナー・アンストローナ兵から装備を奪い取った。


「周囲の基地を妨害しているとはいえ、増援が来るのは時間の問題だ。ウィバー4‐0は我々とついてこい。ズォーク2は目的の囚人達を解放しろ、いいな」

「イエッサー」



『非常事態コード7(ロメオ)。繰り返す、非常事態コード7(ロメオ)。全セキュリティ要員は侵入者を排除せよ。各セクションを緊急封鎖。プロテクション・コンディション、チャーリー』

『まずい、連中は囚人データにアクセスしている。敵はサニスだ。並のスティグレイではないぞ』

『ランバラスとイアームがやられた! 死傷者多数!』



『こちらズォーク2‐4、パッケージを確保』

「了解。フェーズ3へ移行せよ。素早くいけ。こちらももう少しで目的地に着く」


 私兵を引き連れてルガは通路を突き進む。


「はあ、()はセクション3に収監されているのか……まったく」


 凍り付いた通路は実に静かだった。リィナー・アンストローナ兵であってもカーディナルに(かな)うはずもなく、新たなリィナー・アンストローナ兵が出てきても一瞬で氷の中に閉じ込められ、そのまま空間圧縮の(へい)(よう)で亡き者にした。


「後方を見張れ」

「イエス、マイロード」


 目的地にたどり着いたルガ。目の前の監房を(こぶし)の一撃で破壊し、中にいる囚人を助けだした。


「ウィバー4‐0、こいつの記憶を修復してやってくれ」

「お待ちを」


 スティグレイが触れた相手はツゥケァル・ゲウス・ゲルタックその人である。


「ルガか。待ちくたびれたぜ。いや、そんなに待ってもないか」

「フォーラスンの座標特定に時間が掛かった」

「ま、結果オーライだ。ただ時間感覚が変なんだ。気持ちわりィ」

「天の牢獄で経験した()()()()()は消してある。その副作用もあるんだろう。時間感覚はいずれ戻るはずだ。さっさとずらかるぞ」


 ゲルタックに護身用の銃を手渡した。


「で、この俺がわざわざ捕まった意味はあったのか?」

「大きな収穫だ。ロウィグ博士を手中に収めた」

「いいねえ。これから先、もっと面白くなりそうだ」



 ルガ達はエントランス・ホールでもう一方の部隊と合流した。こちらは大切な客人を連れている。


「はじめまして、アステレド・ホラル・ロウィグ博士」

「君がリーダーか。私を連れ出すからには何か目的があるはずだ。そうだろう?」


 サニスの目的はエディア人の元ハイペリウム(じょう)(せき)研究員アステレド・ホラル・ロウィグ博士。

 軍主体によるゲート技術独占に反発しただけでなく、天の遺産に関する国家機密情報を故意に流出させたため、彼は国家反逆罪となった。歴史的に見てもエディア人が国家反逆罪となった例は他にない。フロアドネス粒子、ゲート・ジャミング技術、広域意識共有ネットワーク、対シールド兵器といった高度技術の実用化に深く関わっていた天才である。


「話が早くて助かります。我々の組織に力を貸してもらいたい。もちろん貴方に拒否権はありません」


 サニスは博士を含めた囚人らとともにフォーラスンを後にした。



〈フォーラスン特別監房(セクション4)〉


 警報が鳴り響き、ホログラムで非常事態コード7Rの表示が空中に映し出されている。


(…………)


 この中にある監房は一つだけ。天の牢獄は収監されている者を永遠に捕らえ、決して内から逃げ出すことはできない。監房全体が九層のシールドで覆われ、外の通路とはシールドコーティングを施された五重の分厚い装甲隔壁で(へだ)たれている。外には常にリィナー・アンストローナ兵八名が見張りに立ち、持ち場から離れることはない。


(…………)


 コードネーム〈ミアギ〉と呼ばれる正体不明の存在。それは今でも()()()()()として広く認知されている。事件当時の記憶を持つ者はもうあまりいないが、帝国データベースには詳細な記録が残されている。

 3138年前、ミアギは(とつ)(じょ)として帝国領域に姿を現し、様々な惑星、銀河、宇宙を行き来しながら破壊の限りを尽くした伝説的存在であり、ミアギとの戦いで帝国は二千万以上の艦船、千か所の軍事基地を失った。

 ミアギ鎮圧任務に動員されたアンストローナ兵はのべ人数で約十(じょう)、ミアギとの直接戦闘でカーディナル十名が(じゅん)(しょく)した。最終的に皇帝アルヌーク・フローゲルト(みずか)らが前線に立ち、ミアギと衝突。惑星ダトで二週間にわたる激闘の(すえ)、ミアギを(こう)(そく)、無力化することに成功した。


(……声が聞こえる。行かなくては)


 ミアギが目を見開くと次元のゆらぎが生じ、天の牢獄は砂のようにさらさら崩れていった。()(ぞろ)いの両翼を広げ、監房の出口へと歩き出す。


『警告。コード(ミュート)(ブラボー)

『警告。シールド層消失』


 異変に気が付いたリィナー・アンストローナ兵八名。彼らが動き出す直前、胸部に黒い(やり)が突き立てられ、もやのように消えていった。ミアギの右手から放たれた赤色のビームは防壁を貫通し、()()は堂々とその道を歩いて出て行った。


『コード(ミミック)。対象がセクション4を突破。プロテクション・コンディション、エコー。特別対応部隊を展開、全セクションに抑制ガスを放出。惑星封鎖を実施』


『最高司令部より全軍へ通達。デフコン2・デルタへ移行。繰り返す、デフコン2・デルタへ移行。全軍、高(きょう)()との接敵に備えよ』


 ミアギは解き放たれた。

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