表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/32

第22話「帝国外交」

 22.「帝国外交」ハズラ・ホナサント


 オピラダン(オピラダン星系)


 属

 スケリュゼ・イータラックJD5121‐413

 (以下、略)星系


 属

 アグルファ・ブレゲルシダDB0055‐008

 (以下、略)銀河


 属

 ザウケン・ギューザンVV8878‐118

 (以下、略)宇宙


 属

 ジァク・ヴノMZ377‐667

 (以下、略)インペリオーム


 通称〝ダストーニ・デダンタ銀河〟を統治するゼガルト帝国は約300年間にわたり銀河を二分してきたパラキア共和国と五度の星間戦争を()て、悲願であった銀河統一を()()げた。三十年の歳月をかけて、銀河に散らばる抵抗勢力を完全一掃し、もはや敵対する内部勢力も外部勢力も存在しない、ゼガルト帝国はまさに(えい)()の絶頂を迎えていた。


「ホナサント(きょう)、まもなくプラットフォームに着陸します」


 そんな中、ヴェルシタス帝国カーディナルの一人、ハズラ・ホナサントはアルヌーク・フローゲルト皇帝に代わり、ヴェルシタス帝国の使者としてゼガルト帝国の首星オピラダンを訪問した。三機の帝国主力宇宙可変戦闘機レイトアンにエスコートされて来たカーディナル専用シャトルのパラテックスは地表へと高度を落とし、宇宙船用発着プラットフォームに着陸した。

 地上にはゼガルト帝国軍が広く地上に展開し、多連装対空レーザー砲や自律機動型対空マイクロミサイルポッド、対艦用多脚式巨大レール・キャノンが多数配備されているのが確認できた。


「さて、今回は話し合いで済めばいいのだが……」


 武闘派カーディナルとは違い、ハズラ・ホナサントは自身が戦場に立つことを避け、他文明と話し合いの場、外交を重要視している。そのため本来なら必要のない、他文明への訪問を自分自身が行い、直接、相手の代表と顔を合わせて帝国の立場を伝えることを心掛けていた。パクス・ヴェルシターナを(かか)げるヴェルシタス帝国では言うまでもないが、外交に価値など皆無に等しく、このようなことを行うカーディナルは帝国内でも極めて少数派である。


 パラテックスから降りたハズラは二名のアンストローナ兵を引き連れ、ゼガルト帝国(さい)(しょう)リヒャル・フレゲーズと顔を合わせた。


「これはこれは。我らが帝国にようこそおいでくださいました」


 表向き笑顔を見せるゼガルト帝国(さい)(しょう)リヒャル・フレゲーズはどんな下等文明が使節を送って来たのかと腹の中ではヴェルシタス帝国を見下していた。典型的なゼガルト帝国高官の思考であった彼はヴェルシタス帝国という国家が帝国の名を(かん)している事に強い(けん)()(かん)(いだ)き、さらにヴェルシタス人がゼガルト人と生物学的に近しい進化を()げた人種である事が一層許されないものであるとも感じていた。

 だが、あくまでも外交を(つと)める者として、リヒャル・フレゲーズは冷静に、そして(おのれ)の中に秘めた思いは顔に出さないよう、細心の注意を払っていた。


「ヴェルシタス帝国のカーディナル、ハズラ・ホナサントと申します。本日は皇帝の代理人として参りました」


 一方、カーディナルのハズラはゼガルト帝国が銀河規模の国家であることに感謝していた。ヴェルシタス帝国としては国家規模が大きければ大きい程、(のち)(のち)の同化政策や反乱分子の掃討といった過程で楽ができる。特に領域支配が(すみ)(ずみ)まで行き届いていればいる程ヴェルシタス帝国の意志が末端まで届くことになり、こちらへの統治移行がスムーズに行える。

 逆に言えばヴェルシタス帝国にとって、一つの惑星内あるいは一つの星系内に単一の統治機構がなく、複数の統治機構や国家に分断されている方が(やっ)(かい)であった。形式上であったとしても、ヴェルシタス帝国は()()()原生知的生命体文明に対して、正確に帝国領域への編入を通達し、それに対する返答を得なければならなかった。


「もうこちらの言語を(ほん)(やく)しているとはお早いことで。あなた方、ヴェルシタス帝国が銀河外初の訪問者です」

「光栄です」


 相手がゼガルト標準語を話している事にリヒャルトは特段、何とも思わなかった。むしろそれが当然であるとすら思っていた。わざわざゼガルト帝国が相手の言語を使う必要など無かった。

 その点に関してハズラ(ヴェルシタス帝国)側からすれば相手の言語(ほん)(やく)をするなぞ()(ごく)簡単な作業であり、その方が色々と手っ取り早い。ただそれだけの話であった。もう一つ付け加えるのならば、ゼガルト帝国の(ほん)(やく)技術に期待はしておらず、最初からヴェルシタス語で会談することを想定してすらいなかった。


「それでは参りましょう。こちらです」


 重厚な(かっ)(ちゅう)タイプの戦闘アーマーを着用したゼガルト帝国()(じょう)(へい)。整列した彼らの前をリヒャルとハズラが歩いている。


「彼らのアーマーは(なか)(なか)重量がありそうですね」

「見た目ほど重くはないですが、それなりに重量はあります。ただ彼らはゼガルト帝国の精鋭ですから、重さなど大した問題ではないですよ」


(なるほど。兵士を育てるためのウェイトトレーニングを()ねた古典的アーマーなのだな。()(たい)(さら)す彼らは気の毒だが、それも兵士としての務め)


 ハズラの後ろにはアンストローナ兵が二名ついて来ているが、アンストローナ兵と比較してもゼガルト帝国兵のアーマーは一回り大きく、機動戦には向いていなさそうだ。腐食性ガスや酸といった化学耐性も低そうである。()(じょう)(よう)ながら着用者に重量負荷を掛けてトレーニングしている、肉体(たん)(れん)()ねたアーマーなのだとハズラは理解した。ヴェルシタス帝国でこのようなクラス3以下の重装甲服を着ている兵士はまず存在しない。ハズラはこれが戦闘でそのまま運用されるものだとは思いもしなかった。


(我が帝国兵の(ゆう)姿()に圧倒されたか、ハズラ・ホナサント。お前が今連れている、()けば飛びそうな兵士とは違うのだよ)


 (たが)いに考えの食い違いが生じつつも、ハズラとリヒャルの二人は通路を進んでいく。


 参考としてアンストローナ兵が着用している戦闘装備一式は想定されうる全ての環境下で機能する。生命維持装置が内蔵された専用戦闘服は材質と構造の特性上、太陽光や宇宙線、気温、化学物質といった環境因子による性質劣化が見られない。表層全体はシールドコーティングで薄く覆われ、宇宙空間、溶岩の中や深海であっても帝国標準時間で二年間は不自由することなく完璧に耐える事が可能。戦闘服自体も光学兵器、実体弾兵器、刃物、鈍器、衝撃といった様々な攻撃に対して高い防御性能を有する。当然、自己修復機能と自己環境適応機能もある上、戦闘服表面はウイルスや細菌、真菌等が付着すると瞬時にそれらの物理的構造を破壊してしまう(かん)(のう)(せい)流動ナノ立体構造を取る。なおアンストローナ兵の戦闘服は帝国軍基準でクラス5、文明別分類でクラス32に位置付けられる。


「ここから右手に見えるのが我々の主力艦ダルタ級(じゅん)(よう)(かん)になります。細かい事は軍事機密で教えられませんが、我々はダルタ級を五万(せき)ほど保有しております」


 (らい)(ひん)に自国の軍事力を()()したいのだろうか。発着用プラットフォームから宮殿に繋がる空中連絡橋のすぐ隣には軍港が見えた。


「あれがダルタ級(じゅん)(よう)(かん)ですか」


 全長はおよそ860メートル。ヴェルシタス帝国軍でいえば第二級B3()(ちく)(かん)クロラーンに相当する大きさである。ここからだと停泊しているダルク級艦が三(せき)見えた。


「ええそうです。(さい)(しょう)の身ながら恐ろしさを(いだ)きますよ」


 リヒャルは(まん)(ぞく)()に語った。


(この銀河を支配する我らの強大な帝国艦隊に恐れを()すがいい)


「そうですね。実に恐ろしい」


 安全保障上の大きな()(ねん)(そっ)(ちょく)に述べたリヒャルに対して、ハズラはゼガルト帝国指導部の風通しの良さに感心しつつ、頭の中で自分だと()()()()()()()()()という課題にどう向き合うだろうかと想像を(めぐ)らしていた。


(ふむ。たった五万(せき)だと銀河内全ての星に艦を配備できない。それが本当ならば確かに恐ろしい話だ……局所防衛態勢を敷くことが最善解だろう)


 軍艦は大きければ大きいほど良いというものではないが、ヴェルシタス帝国宇宙軍の基本的な軍艦はゼイナート(じゅん)(よう)(かん)で全長約3キロメートルの大きさを誇る。ヴェルシタス帝国では各惑星防衛として最低十二(せき)以上のゼイナートが配備されており、星系や宙域の(じゅん)(かい)警備任務にあたる(しょう)(かい)艦隊は三(せき)を最小単位とした艦隊で編成される。人口が多い惑星や戦略的価値の高い星系ではケンガラ級やハブルケート級も含めた百二十(せき)以上から編成される防衛艦隊が配備される事もある。


「ゼガルト帝国は(こう)(せい)を含め3600億あまりの星を領域とし治めています。貴国の領域はどのようなものですかな?」

「申し訳ないのですが、我が国の支配領域は(()()()()()()()()()()()()()()()()())正確にお答えすることができません。(なに)(ぶん)、こちら(()()())へ来たのも初めてですから」

「これは失敬。こちら(ダストーニ・デダンタ銀河)に来たばかりの客人に対し、少々ぶしつけな質問でしたな」

「お気になさらず」

「それはそうと今日は両国の極めて大事な将来の話についての会談とのことでしたが、どのような話でしょう?」


 ()もなくゼガルト帝国の宮殿に二人は辿(たど)り着こうとしていた。宮殿の噴水広場では守衛だけでなく政府関係者や軍関係者の姿も多く見られ、空中では単座式の機銃付き浮遊バイクの(じゅん)(かい)部隊が警備にあたっていた。


「貴国を我々ヴェルシタス帝国に編入する話です」


 この瞬間、リヒャルは(きょう)(がく)したが、すぐに笑ってみせた。


「ははっ! まさか冗談をおっしゃるお方とは思いませんでした」

「いえ、これは()()()な話ですよ。リヒャル・フレゲーズ(さい)(しょう)。貴国の皇帝に戦わず降伏するよう(すす)めるために私は来たのです」


 ハズラの期待とは異なり、ゼガルト帝国は無条件降伏を拒否した上、外交使節のハズラに対して強烈な銃撃を浴びせた。しかしながら、このような(あい)(さつ)に慣れているハズラは侵攻前の事前通達義務を果たし、ゼガルト帝国へ現地時間で二年間の(ゆう)()を与えた。役目を終えたハズラとアンストローナ兵は帰り道、ゼガルト帝国軍の(しつ)(よう)な攻撃に()いながらも負傷することなく、無事にパラテックスへ搭乗し別の星へとゲートで向かったのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ