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第18話「トタッチャの夜」

18.「トタッチャの夜」エエエ・アスアスト・ビリルル・ララー・エ・バオブ


 フォラフォン・スターナ(スターナ星系)


  属

  ハーブケート・オグゼアHH5387‐225

 (以下、略)星系


  属

  アグルファ・ユーヤナAB0655‐542

 (以下、略)銀河


  属

  ザウケン・ガヨートZQ1023‐000

 (以下、略)宇宙


  属

  スケリュゼ・ヴノAT309‐887

 (以下、略)インペリオーム


 スターナ星系に属するフォラフォン・スターナは帝国による近代化が行われていない緑(ゆた)かな星である。(じゅ)(れい)千年を超える巨木ブルゥナ、気温によって樹皮や葉の色が変わる樹木ラガスロ、外敵からの刺激に反応するボウッツといった木々が大地にひしめいていた。この星の原住人はトタッチャと呼ばれる()(びと)族。身長20センチメートルほどの大きさで、丸顔、それぞれの個体が自分用のとんがり(ぼう)()を被っている。


「今日はハズラの日なのです!」

「みんなでお祝いだ」

「お祭りの準備するです」

「ハズラ・ホナサント、ばんざい」


 彼らは平和を愛する(おだ)やかな性格の持ち主で、(うそ)という概念すらない。帝国が初めて訪れた百年前は使節団を率いていた外交派カーディナル、ハズラ・ホナサントを外の世界から来た神様と信じて疑わなかった。これはトタッチャ達の身体が小さかったことも関係しているだろう。神様ではないと分かった現在でもホナサント(きょう)は新たな世界から来た特別な人物として、トタッチャ達に(した)われている。彼らトタッチャは色々な記念日を設定し、お祝いを楽しむ文化があるのだ。


「お祝いの日は(せい)いっぱい楽しむのです」

「祝うことはいい事、いい事は祝うんだ」


 トタッチャの住処(すみか)は木。()(もと)をくりぬいて住居を作ったり、大きな木の実に他の実を組み合わせて連結住居にしたり、とにかく大地に()える木がトタッチャの家となった。枝とツルを加工して階段やはしご、橋も作ることができ、文字通り木とともにトタッチャは生きていた。


「外に机を用意するです」

「えっほ、えっほ」


 木を簡単に加工して作った机と椅子が並べられていく。自然の材料をそのまま活かした()(ぼく)な家財は木々の優しさと温もりを感じさせ、心を落ち着かせる。地球人にも共通する(かん)(せい)だ。(かど)を丸め、(てい)(ねい)にやすり()けされた彼らの作品は多くの帝国臣民に(ちょう)(ほう)されている。


「おーい、バオブ。もうちょっとこっちを照らして欲しいです」

「わかった。ラティカをここに増やすです」


 バオブが(あか)りを持ってきた。この(とう)ろう流しに使われる(とう)ろうのような(あか)りはラティカと呼ばれ、トタッチャが好んで用いる(がい)(とう)である。中には発光性の(しん)(きん)〝ルノー・クラテス・ボチホトコラ〟が栽培されており、夜になると(あわ)(だいだい)(いろ)の光が中から出てくる仕組みだ。非常食としてもルノー・クラテス・ボチホトコラは利用できる。


 ラティカは(ちゅう)に浮かんでいるものがほとんどで、バオブが持ってきたラティカを手放すとその場で浮かび上がり、周囲を照らし始めた。


「オグー、これでいいです?」

「ばっちりです」


 トタッチャが住処(すみか)としている木々の一帯にはラティカが浮いているため、すぐにトタッチャの存在を知ることができる。自らの住処(すみか)を教えているようなものだが、これはこれで捕食動物から身を守る自衛手段の一つでもあった。トタッチャを捕食する(きょう)(ぼう)な肉食獣〝ヴァアンヴァ〟はルノー・クラテス・ボチホトコラを苦手とし、ルノー・クラテス・ボチホトコラの光を()()する習性があった。このため、ラティカで覆われているということはヴァアンヴァに対する結界とも言える。


「あ、兵隊さんだ。兵隊さん、こんにちは」


 武装したアンストローナ兵二人がパトロールのため、たまたまトタッチャの村を通りかかった。


「やあ、バオブ。今日もお祭りかい?」

「今日はハズラの日なのです!」

「ホナサント(きょう)が初めて来た日だね」

「そうです。みんなでお祝いするです」

「ホナサント(きょう)も喜ばれるはずだ」


 帝国内においてハズラ・ホナサントは自身の訪問と(こう)(しょう)による段階を()てから武力侵攻を正式に通告するという、外交派カーディナルの筆頭として広く知られている。ただし、外交派といってもカーディナルとしての実力は本物であり、敵国の中心地にいたとしても冷静さと立場、カーディナルとしての誇りを崩さない(たん)(りょく)も持つ。


「また来ないかな」

「ホナサント(きょう)は今、外交任務に出ているはずだから、すぐには難しいかもしれない。でも、ホナサント(きょう)は優しいお方だからみんなが来て欲しいといったら来てくれるかもしれない」

「ほんとうです?」


 目を(かがや)かせるバオブを見てアンストローナ兵はハズラ・ホナサント(きょう)にメッセージを送信することにした。


「ホナサント(きょう)、突然のメッセージ申し訳ございません。トタッチャのみんながホナサント(きょう)に会うことを心待ちにしています」

「お待ちしているです!」


 バオブがアンストローナの左肩に上り、メッセージに割り込んだ。


「兵隊さん、この後、時間あるです?」

「何か用事でもあるのかい?」


 この星の知的生命体はトタッチャの他におらず、他の星からの観光客も移民もいない。これは帝国保安局がトタッチャの()()()()()()()(はい)(りょ)したためで、トタッチャが外の星へ行くことがあっても、他の種族がフォラフォン・スターナに来ることは基本できない。

 フォラフォン・スターナに犯罪はなく、種族間の(あつ)(れき)や帝国への反乱活動もない。アンストローナ兵やアンスケルが(にち)()パトロールを行っているが、(どう)(もう)(けもの)による襲撃以外に異常は何もなかった。ちなみにこの星のシタデル・タワーは他の星のものより小さく作られており、外見もブルゥナの木に近いものに変更されている。


「お祭りにおいでおいでです」


 バオブはお祭り会場へと(ゆび)()し。会場への道はラティカが目印になっていた。


「その(さそ)いを断るわけにはいかないな」

「ああ。ぜひとも参加させてもらおう」


 アンストローナの二人はラティカの道しるべに沿()ってバオブとともに歩き出した。

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