切なさと心強さ
さっきまでの嫌な気持ちが収まらなくて、廊下でひとり、窓から外を眺める。ちょうど、学校の目の前の桜並木が見えて綺麗なんだ。外の静けさと廊下の賑やかさは、まるで正反対。ひとたび風が吹くと、桜の花びらが舞う。その風景がなんだか儚く見えて、少し切なくなった。周囲の賑やかさが、余計に切なさを募らせる。
私、ひとりになることを自分で選んだのに、本当は寂しいのかもしれない。ひとりは、気楽なはずなのに。あの時あんな決断をしなければ、今頃は誰かと笑っていたの?色々な考えが頭の中をぐるぐると巡って、訳が分からなくなる。自分の本心が分からない。
腕時計に目をやると、もうすぐで予鈴の鳴る時間だったので教室の中に戻ることにした。けど、最初に入った時はすんなり入れたのに、もう一度戻るとなると、なぜか躊躇ってしまう。さっきまで、イライラのおかげで収まっていて、忘れかけていた緊張や不安が、一気に押し寄せる。このクラスで、うまくやれなかったらどうしよう。ひとりでいることで、クラスから孤立した人だと思われたらどうしよう。誰かに話しかけるにしても、そんなの無理だよ。だってみんな友達がいるから、私の入る余地はない。中3にもなって、新しい友達なんか無理。というか、友達なんかいらない。このまま逃げ出したい、と思った時だった。背後から、聞き慣れた穏やかな声がして振り向いた。
「おはよう、幸ちゃん」
私と教室に入ろうとするのと同じタイミングで登校してきたのは、中2でも同じクラスだった野田誠奈ちゃんだった。
「誠奈ちゃん。おはよう」
「どうしたの、教室入らないの?」
「なんか、みんな友達がいるから…私だけひとりな気がして、怖いの」
問いかけてくれる声が優しくて、ぐずぐずした返事しかできない。誠奈ちゃんは、そんな私より一歩前に出た。そしていきなり、私の左手を掴む。穏やかの中に力強さのある口調で、こう言ってくれた。
「じゃあ、あたしと一緒にいよう。それなら、ひとりじゃないでしょ?」
答える間もなく、誠奈ちゃんは躊躇わずに扉を開け、座席票の貼ってある黒板まで進んでいく。その間に、何人かの中2から同じクラスの子たちが声をかけてくれて、緊張が溶けていく。
「おはよう!」
「今年もよろしく」
「また同じクラスだね」
その声を聞いているうちに、中2のクラスでうまく立ち回れたことを思い出し、自信を取り戻していった。大丈夫。今年もきっと、うまくやれる。
誠奈ちゃんが、私の席まで連れていってくれる。ずっと握っていてくれた手があたたかくて、私の心もじんわりとあたたまっていく。
「いい1年に、なりますように」
私自身を励ますための小さな呟きが、聞こえたみたいだった。
「大丈夫だよ、絶対」
優しく笑いかけてくれる。どこまで仲良くなったら「友達」なのか、正直分からない。でも、この1年を誠奈ちゃんと過ごせることに、心強さと安心感をおぼえている私がいた。