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第6話

 私の話を聞いているうちに、兄さんの朗らかな顔が、明らかな怒りで赤くなっていくのがよく分かった。


「そんな馬鹿な話があるか! よし、俺が抗議してきてやる。明日の朝一番に馬で出発すれば、数日で都に……」


 こぶしを固く握り締めて激昂する兄さんの腕に、私はそっと手をやり、首を左右に振る。……私のために怒ってくれる人が一人でもいる。それだけで、もう十分だった。


「いいのよ、兄さん。その気持ちだけで十分嬉しいわ。抗議したところで、あのエグバートが聞き入れてくれるはずがないし、下手に機嫌を損ねたら、適当な罪状をでっちあげられて、兄さんが反逆者にされかねないもの」


「しかし、『聖女』としてずっと頑張ってきたお前が、正しいことを言ったせいで聖騎士団を追放されるなんて、あんまりじゃないか……」


「ううん、本当に、もういいの。ふふ、私も父さん譲りで気の強いところがあるから、たとえ今回はクビにならなかったとしても、いつかはエグバートと衝突して、聖騎士団を去ることになってたと思うわ。きっと、こういう運命だったのよ」


「そうか……お前が納得してるなら、俺も納得するしかないが、それにしても、そのエグバートとかいうのは、嫌な男だな。お前の後任として選ばれる新しい『聖女』さんも、きっと苦労することだろう」


「それについては、私も同情するわ。でも、新しい『聖女』は、案外私よりずっと優秀で、この国を魔物たちから完璧に守ってくれるかもしれないわ。自分で言うのもなんだけど、私、魔法も剣の腕も、そこまで凄いってわけじゃないから」


 自嘲気味に笑う私に、兄さんは大きく肩をすくめる。


「何言ってる。お前が『聖女』になってから三年間、一度も国の中に魔物は入って来ていない。お前は、誰よりも完璧にこの国を守ってくれていたよ」


「ありがとう兄さん。お世辞でもそう言ってもらえると、なんだか救われるわ」


「お世辞なんかじゃないって。ヘンリアム聖王国の長い歴史の中でも、こんなに平和なのは初めてだって、隣村の爺さん婆さんたちもよく話してるよ。お前はもっと、自分のやってきたことに誇りを持っていいんだ。少なくとも、俺はお前のことを誇りに思うよ」


「うん……」


 これほど率直に、聖女としての活動を人に褒められたのは、どれだけぶりだろう。


 聖騎士団の仲間たちは頼もしい味方ではあったが、あまりベタベタと馴れあうことはなかったので、当然、互いに褒め合ったりもしなかった。


 短い間に色々なことがあったせいで、少し卑屈になっていた私だが、兄さんの、飾らない言葉での素直な励ましが、弱った心に、大きな力を与えてくれるようだった。

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