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第31話

 あまりの愚かさに、私は少々の憐みを込めて、一度だけ振り返ると、諭すように言った。


「そんな戯言を吐く暇があったら、あなたのくだらない野心の犠牲になった少女を、弔ってあげたらどうですか」

「なんだと? 何の話だ? 待て、おい、待て!」


 呼び止められても、私はもう二度と振り返ることはなく、地下倉庫を出た。


 数秒して、背後から「ひいぃ!」とエグバートの悲鳴が聞こえた。……現任の『聖女』の死体を見つけたのだろう。さすがのエグバートも、親戚の少女の無残な死に様を見るのは、ショックだったに違いない。


 これで、少しは自分のやったことを省みてくれるといいのだけれど……



 地上に戻ってから、はや数時間。

 私たちは、町に散り散りになっていた聖騎士団員と合流し、とにかく、戦って、戦って、戦いまくった。


 日が暮れても、燃えゆく建物の明かりに照らされながら、私たちは戦い続けた。


 魔物たちとの死闘は夜通し続いたが、騎士たちの士気は少しも衰えることがなかった。……どういうわけか、魔物たちが明らかに弱体化し、面白いように討ち果たすことができるようになったからだ。


 そんなわけで、聖騎士団は快進撃を続け、翌日の夜明けには、王都ガストネスにはびこっていた全ての魔物を駆逐することができたのだった。



 私たちは、疲れた体を引きずるようにして、聖騎士団の本部に戻った。

 隣を歩く兄さんが、私の肩に手をやり、疲労困憊ながらも、満ち足りた顔で言う。


「お前が聖女として皆を指揮する姿を初めて見たが、本当に、大したもんだな。まさに英雄だ。陥落寸前だった王都ガストネスを、一晩で救っちまうなんて、俺も兄として鼻が高いよ」


 後ろを歩いていた他の聖騎士たちも、兄さんに同調し、口々に私を褒め称えた。嬉しかったが、それ以上に気恥ずかしくなった私は、戦いの最中からずっと不思議に思っていたことを、口に出した。


「でも、途中からは私の指揮がどうこうって言うより、魔物たちが、明らかに弱体化してなかった? 一晩で、一気に倒すことができたのは、そのせいだと思うんだけど……」


 私の疑問に、一歩下がってついてきていたライリーが、答える。


「一説によると、魔物たちは『聖女』が近くにいるだけで悶え苦しみ、弱体化すると言われています。神の啓示を受けた『真の聖女』であるローレッタ様が陣頭に立って戦ったことで、彼奴等の勢いが急激に落ちたのでしょう。おっとっと」


 長い戦いの疲れからか、ふらつき、倒れそうになるライリー。兄さんは「おっと、大丈夫か」と言い、ライリーを慌てて支え、肩を貸してあげた。

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