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第18話

 広い宿で快適に過ごしたい旅人は、まずこのような宿を選ばないだろうが、私と兄さんは、中継地点としてこの町に寄っただけであり、雨風をしのいで眠れればそれでいい。明日も大いに頑張ってもらう予定の馬たちを、最高の環境で休ませてあげる方がよっぽど重要だ。


 兄さんも私の考えに賛成のようで、宿の主人に話をつけると、すぐ馬小屋に馬を入れて、水を飲ませてあげた。そうこうしているうちに太陽は完全に沈み、街灯の明かりの中、ごくごくと美味しそうに水を飲む二頭の馬を眺めながら、兄さんは言う。


「さて、俺はこの後こいつらに飯をやって、ブラッシングとか、色々とケアをしてやらなきゃならない。ローレッタ、お前はどこかで遊んできてもいいぞ。まだ寝るには早い時間だからな」


 まるで、小さな子供に言うような『どこかで遊んできてもいいぞ』という言葉に、私は苦笑しつつも、昔を懐かしんだ。兄さんは大きな体を活かして、子供の頃から人の倍働き、仕事の邪魔になる小さな私に対して、よく『どこかで遊んでこい』と言っていたものだ。


 ……いや、そんな優しい言い方じゃなかったかな。『邪魔だからあっちに行ってろ』だったかしら? それとも、『危ないから近くをウロチョロするな』だったかな?


 当時の私は、そう言われるたびに頬を膨らませて怒っていたが、今となっては良い思い出だ。私はしばし追憶を楽しみ、それから兄さんに返事をする。


「とてもじゃないけど、遊ぶ気分じゃないわ。もともと騒がしい場所は嫌いだし、この馬小屋の方がよっぽど落ち着くわ」

「そうか。じゃあ、馬の餌を運ぶのを手伝ってくれ」

「うん」


 こうして、二人で馬の世話をしながら、私は、なんとなく尋ねてみる。


「ねえ、兄さんって、随分優しくなったわよね」

「なんだよ、いきなり」

「いや、その、帰ってきた頃から思ってたんだけど、兄さん、昔はこんなに優しくなかったでしょ? 子供の頃から、けっこう私の面倒を見てくれたけど、私のことを鬱陶しがって遠ざけるようなこともあったし、父さんと同調して、……ううん、時には、父さん以上にガミガミ私を叱ったことだってあったわ」


 兄さんは白馬の美しいたてがみにブラシをかけながら、「はぁ」と溜息をもらした。


「まったく、人の気も知らないで。……あれは、お前のためだよ」


「ガミガミお説教するのが? そりゃまあ、当時の私にも悪いところはあったんだろうけど……」


「違う、そういう意味じゃない。……覚えてないか? あの頃の親父は、レダ母さんがいなくなってすぐなのもあって、精神的にかなり不安定になっていた。だから、一度怒りに火がつくと、感情の暴走がなかなか収まらず、ずっと怒ったままになって、大変だった」

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