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第13話

 翌日から、実家での新しい生活が始まった。


 疲れはすっかり取れていたので、朝から牧場の仕事を手伝い、朝食も私が作った。兄さんと私、そして父さんでテーブルを囲み、食事をすると、なんだか昔に戻ったような気分だ。……いや、昔はよく、食事中も些細なことで父さんに叱られたので、今の方が穏やかな食卓である。


 父さんは、足が不自由になったと言っても、基本的に自分のことは全部自分でできるので、特に介護をする必要はなかった。朝食後に、改めて私が戻って来た理由を話すと、父さんは小さく「そうか」と呟き、それから、次のように言葉を続けた。


「しばらく休んで、気持ちが落ちついたら、やりたいことをして、好きなように生きなさい。牧場の仕事も、無理をして手伝わなくていい。泥まみれになるし、年頃の娘がやるには、少々きついだろう。牧童も何人かいるから、手は充分足りている」


 それは、私への気遣いに満ちた、優しい言葉だった。

 昨日のことで、頑固だった父が変わったことは分かっていたつもりだったが、それでも、これまでとのギャップで、素直に返事をしていいものか、しばらく固まってしまう。


 そんな私の反応を見て、父は苦笑した。

 自嘲的でありながら、どこか寂しそうな笑みだった。

 父は小さく息を吐き、静かに語り続ける。


「怪我をして、以前のような生活ができなくなってから、一人で考える時間が増えてな。ワシなりに、自分の人生について思いを巡らしてみたんだよ」


「…………」


「先祖代々受け継いできた牧場を大きくするため、一家の長として、その場その場で最良の決断をしてきたつもりだったが、思えば、すべては身勝手な自己満足だったのかもしれん。ローレッタ、お前にも、随分嫌な思いをさせたことだろう」


「い、いえ、そんなことは……」


 正直に言えば嫌な思いは沢山してきたが、それをわざわざ口に出し、今の弱った父さんをなじるほど、私の根性は曲がっていないつもりである。


「特に、お前の婚約について勝手に決めてしまったことは、いつか謝ろうと思っていた。この地域でそこそこの力を持っているアルフェス家とつながりができれば、一族は安泰だし、結局は、お前にとっても幸せな結果になるだろうと、当時のワシは真剣に思いこんでいたのだ。しかし……」


 父さんは、そこで一度言葉を切り、俯くと、深く、長いため息を漏らす。

 再び顔を上げた父さんの顔には、明らかな憂慮の色があった。


「あの、アルフェス家の次男坊――ルドウィンは、駄目だ。気品ある態度と柔らかい物腰にすっかり騙されていたが、あの男は良くない。何度か会う機会があって、愚鈍なワシでも、やっとわかった。奴には裏表がありすぎる。あれは、妻を愛し、家族を幸せにする男ではない。……ふふふ、女房に逃げられたワシが言うのもなんだがな」

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