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第12話

 それから父の寝室で、私たちは少し話をし、おおよそのことを理解した。


 半年ほど前、父は馬から落ち、大怪我をしてしまったそうだ。それ以来、足が不自由になって、車椅子での生活を余儀なくされているという。


 元気だった人が、治る見込みのない病気や深刻な怪我で気落ちしてしまい、性格がまるで変わってしまうことは珍しいことではないそうだが、父もまさにそれだった。


 すっかり気が弱くなり、喧嘩別れ同然になっていた私が帰って来たことを、涙を流して喜ぶ父を見ていると、同情心が湧いてきて、過去のわだかまりなど、どこかに消えていくようだった。


 そして今私は、実家の自分の部屋――そのベッドで、横になっている。


 ……この部屋で寝るのは、本当に久しぶりだ。

 前に帰って来た時は、父さんと喧嘩になって、日暮れ前に家を飛び出してしまったから。


 色々なことがあり、疲れているが、なんとなく寝つけず、私はぼおっと天井を見る。


 明かりはついていないけど、窓から月明かりがぼんやりと差し込み、古ぼけた天井を淡く照らしていた。……そこで、はたと気がついた。……この部屋、ずっと使っていなかったはずなのに、とても綺麗だ。


 床やベッドはもちろんのこと、天井のホコリまで、きちんと払われている。鼻を鳴らすと、掛け布団からはお日様の香りがし、ちゃんと干されていた、清潔なものであることがよく分かった。


 もしかして……いや、もしかしなくても、私がいつ帰って来てもいいようにと、ハーキース兄さんが、毎日掃除してくれていたのだろう。


 それなのに私ときたら、この一年間、顔を見せに行ったのはルドウィンのところだけで、兄さんに対しては、遠目に挨拶することすら一度もしなかったのよね……


 自分でも薄情だと思うが、実を言うと、以前は兄さんのこと、それほど好きじゃなかったのよ。父さんが私を叱ると、それに同調するようなところもあったし。


 でも、今の兄さんは、なんだか昔と違う。頼もしいところは変わらないが、前よりもずっと柔和で、包容力があるように思える。


 一年間会わない間に父さんが変わったように、兄さんにも、何か心に変化を及ぼすような出来事があったのかしら。瞳を閉じ、少しだけ考えてみるが、何があったのか、私には想像がつかなかった。


 まぶたを閉じ、答えの出ない疑問について考え続けていると、自然と眠気が体中に広がっていき、いつしか私の意識は、まどろみの中に落ちていった。実家での、久方ぶりの安らかな眠りだった。

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