転生女子高生、体育のジュぎょう
この日もいつもと同じように、朝の仕度を終えて、りーあは学園にむかう。
朝、自転車のとおやくんと会い、門のところから話ししながら、教室についた。
4時間めには体育があり、女子はプールだった。
しかし、りーあはまだ記憶喪失の部分もあり、泳げるか不安で、相談してみると今日は見学になった。
今度市民プールで練習してみよう。
見学がもうひとりいた。
この前部活で相談をうけていたえみるさんだった。
「えみさんも見学?」
「そう、なんだか熱中症にかかりそうな感じだったから」
「そう、今日暑いもんね。見学でも水分はとらないとね」
「ペットボトルに水をいれて、そばにおいてあるよ」
「ねえ、そのあと部活はどう?」
「音響はたのしいよ。でも先輩たちが、大変だね」
「そうみたいだね」
プールの授業が開始される。
25mのプールを往復する生徒たち。
ビート板を使っている子もいる。
「りーあさんは泳げるの?」
「うーん、わからないんだ。あまり水の記憶ないから、もしかしたら泳げないかも」
「そうなの?」
「わたし記憶喪失なんだ。部分的だけどね」
「そっかぁ。病院から来たって言ってたかぁ。
とおやくんとは、仲良いね、この前二人帰ってたね」
「とおやくんに演劇部招待されたからね。
なんかとおやくん、演劇講座にもでていて大変そうだね」
「そうみたい」
生徒たちがプールを泳いでいる。
ときどき、ヤッホー、と声をかけてくれるひとがいて
手をふってみる。
少し建物で日陰になっている、プールサイドのこの場所からあまり動かず、水だけ飲んで、また話しを続ける。
「えみさんは、部活どう?」
「えー、まだ辞めたいって思ってるよ」
「そうなんだぁ」
「でも、まだ辞めないかも。一年生は割りとまとまってきたよね」
「そうだね」
「でもわたし、まだ他のメンバーのことあんまり知らないや。今度みんなで遊びにいきたいなぁ」
「そうだね」
また、プールで泳いでいる子がヤッホーといった。
手をふってみる。
もう少しでプール休憩時間になる。
そのあと、もう少しだけ泳げるひとは泳いで、
それで、4時間めのプールは終わりだ。
「えみさんは、どうして演劇部なの?」
「わたしは誘われたから、かなぁ。他の部活見学していたら、どうって言われて、ついていったら、演劇部だったよ」
「はじめは文芸部だったかなぁ」
「そうなんだぁ」
「文芸部も楽しそう」
「りーあさんはどうなの?
部活演劇部以外にはいかないの?」
「そうだね。興味あるけど、演劇部楽しいし、気があうからいいかも。
前は、テニスに興味があったような、そんな気もするんだけど」
「そっかぁ。テニスもいいよね」
「そう。だけど、テニスしたことないんだよね」
プールは休憩時間になる。
泳いでいた子たちがあがってきて、水を飲んだり、休憩したり。
こちらに近づいてきて、話しかけてくれるひともいる。
「ごめん。泳げるかわからないから、パスなんだ」
「そっかぁ」
えみさんがまた話しかけてくれる。
「りーあちゃんも泳げるといいんだけど」
「うん、今度試してみるね」
「わかった」
「えみさんは、今日も部活でるの?」
「そう仕方なくね」
「わかった。また話していい?」
「もちろん。いいよ」
また水を飲んだあと、立ちあがり、プールのそばまでいく。
りーあは水にふれてみるも、怖くはない。
ただ、妖精333年のなか、あまり水のなかの記憶がないため、海やプールには、ほとんど縁がなかったのかもしれない。
妖精ノートも見返しているが、あまり水の記録はない。
休憩が終わり、また少しだけ、プールに入るひとたちがいる。
どうやら、タイムアタックしているようだ。
じゃまにならないように、また日陰のところに移動すると、えみさんも来てくれた。
「とおやくんて、誰とも仲いいけど、となりのくみさんとよく話してるね」
「そうだね。図書委員会でよく会うらしいね」
「そうか」
「くみさんけっこうカワイイよね」
「そうだね」
「演劇部にこないかなぁ」
「ごめん、誘ってみたことあるけど、なんか本好きみたいで。文芸部のほうかもしれないんだ」
「なんだ、そうか」
「演劇って、やっぱり目立つほうがいいのかな」
「そうかもね」
「えみさんも、けっこう美人で目立つよ」
「えーそうかなぁ。嬉しいけど」
「ふふ、えみさんと今日話せてよかった」
「そうだね。わたしも」
チャイムが鳴って、体育の時間が終わりになる。
更衣室が混む前にと、早めに先生に挨拶だけして、すぐに廊下に戻っていく。
えみさんは、もうどこかにいってしまった。
お昼休憩時間になり、とおやくんをみつけて
「一緒に食べよ」
というと、ななちも来てくれた。
教室で三人で食べていると、プールの授業の話しになる。
話しているうちに、隣のクラスのくみさんが、手招きしていた。
廊下にでると、図書委員からのお知らせを配ってほしいらしい。
そのついでに、夏休みにはいる前に、プールにいこう、と誘ってみた。
「えー。水着がね、あまりきたくないよ」
「でも、市民プールだし、泳げるか試してみたいの」
「わかった。じゃ、土曜日に市民プールね」
「わかったぁ。やったね」
「じゃ。これよろしくね」
「わかった」
とおやくんのところに持っていく。
「図書委員だより、だって」
「わかった。ホームルームで配っていこう」
といって決めてくれた。
お昼休憩がおわり、放課後ホームルームできちっと配ってから、部活にいくことにする。
「ななちは、陸上部だっけ、頑張ってー」
「おおー」
とおやくんが声をかけて、部活にいくことにする。
演劇部の部室は照明室をかねている。
コンコンコンとノックをして入る。
「お疲れさまです!」
「お疲れー」
「あ、照明の二人きたよ」
「とおやくん、ちょっといいー?」
「何ですか?」
「今日は照明もいれながら演技してみるから、
演技はじまったら、合わせてみてくれる?」
「あと、りーあさんも。一緒にお願いね」
「はい、分かりました」
「まずは、舞台上で発声と筋トレしてからはじめるからね」
「分かりました」
先輩たちが先に下の舞台に降りていく。
「とおやくん、今日は台本あるの?」
「台本あるけど、たぶん今日のはエチュードだよ」
「そっかぁ」
「秋大会にやる台本のは、まだ照明プラン決まってないからね」
「そっかぁ」
先にとおやは、照明の機材の電源を入れて、スイッチ類を確認している。
りーあも隣でみてみるが、わからないのも多い。
まだ、覚えられてはいない。
「りーあさんは、少しは覚えてきた?」
「まだダメそう。スイッチ類とか、場所確認しながら、やっとかなぁ」
「そっかぁ」
となりでとおやくんは真剣だ。
少し横顔をみていると、思わずみとれてしまう。
妖精333年重ねてみて、カッコいい妖精や戦える妖精など、タイプがいろいろいたが、転生女子高生になって、とおやくんの横顔をよくみるようになった。
コンコンコンと音がして、別の部員が入ってくる。
「お疲れさまです」
「お疲れさまです。あ、とおやくんとりーあさん」
入ってきたのは、えみさんとめぐやんだった。
「今日は、照明あわせるみたい」
「音響は、まだなのかな」
えみさんとめぐやんは音響なのだ。
「まだみたい。先輩たちは何も言ってなかったよ」
「そっかぁ」
めぐやんがとおやにきく。
「照明は慣れてきた?」
「まだかなぁ。機材は慣れてきたけど、もう少しタイミングとか、位置みないと」
「そっかぁ」
「りーあさんは、照明どう?」
「わたしもまだわからないこと多いです。
あ、えみさん」
声をかけながら、えみさんの肩に手をのせる。
預言者レポートをつかった。
またえみさんの違う場面が魔法視される。
どうやら、駅で誰かと待ち合わせをしている。
その人とケンカして、その帰りぎわ、バイクと遭遇するらしい。
また危ないめに遭うのか。
えみさんは、もう転生魔法はかけてある。
けれど、トラブル続きのようだ。
いつのことかはわからないが、バイクのことをあとで声かけしてみよう。
預言者レポートは、絶対の未来ではないらしい。
けれど、ホンの些細なことで、そこに至るのだろう。
とおやくんは、いつ転落してしまうのか。
えみさんはいつトラブルになるのか。
わからないまでも、なんとか変えられるかもしれないのだから、アプローチをしてみよう。
考えごとをしていると、部室に残っていためぐやんが
「どうしたの、りーあさん」
呼んでくれた。
「ごめんなさい。考えごと」
「もうみんな舞台ではじめてるよ」
「ありがとう。わかった」
発声練習に、筋トレをこなして、部活時間中は、照明室で、舞台でおこなわれる演技に対して照明を操作する。
りーあも少し手伝いをした。
三年生の先輩も照明係はいるのだが、いつ部活にでているのか、わからないくらいには、部室にこない。
今日の演技をみながら、照明プランを考えているとおやくんをみる。
もしかしたら、とおやくんの未来の出来ごとが変えられないのかもしれない。
とおやくんは、いなくなってしまうのか。
けれど、頑張って預言者レポートを使いながら、方向を変えられないのかとも考える。
転生する前は、魔法に頼りきりで、便利の組み合わせを編みだしては、魔法で解決があたり前になっていた。
けれど転生女子高生として、魔法枠に限りがある。
魔法の数が限定されると、悩みも増えた。
でも、とおやくんが転生してしまうまでの間、なんとか考えてみよう。