迷宮第六層ミラル
扉の前、また寝ていたらしい。
リリアは、起きあがって、周りをみる。
封印扉には、雨と雷のマーク。
それに、よくは読みとれないが、翼を持った姿の形がみえる。
妖精とは、違うシルエットな気がする。
そして、何だろう。
妖精とは、違う文字で描かれている。
きっと、この扉の前から、歩きだすと風景が変わるのだろう。
体力は、どうか、MSPは足りてるか。
レイラにもらった服はまだあるが、まだ深い層が残っているため、できれば数は残しておきたい。
次は、どんな試練だろうか。
考えていても仕方ないか。
リリアは、起きあがり服装を確認しながら、先に足を進める。
風景が変わった。
けっこうな雨のなかに、リリアはいた。
途端に、着ている服もバッグも、
靴も髪も濡れていく。
「天候を操るのかなぁ。それとも、地形や気候かな」
できれば雨に濡れない場所を探したい。
近くを見回してみると、ビルや家、お店のような建物、広い敷地など観えるが、ところどころ壊れていたり、傾いていたり、湖のようなものまで観える。
近くの屋根つきの建物までいき、雨よけにつかう。
ザーー、とか、ポツとか、パシャとかいろんな音がする。
リリアは雨の音は、そんなに嫌いではない。
でも、濡れるのは困る。
バッグに入っている妖精ノートは、魔力で雨耐性はあるが、それでも、あまり濡らしたくはない。
この迷宮は、道案内も矢印もお知らせもなにもないようだ。
歩き回ってみよう。
水没している建物の上をいき、飛んだり、ビルを上って、上から眺めたり、平地になっている場所では、少し走っていき、次の屋根を探した。
そのうち、空の一角が晴れている場所もあるようだ。
歩き回って、一時間ほどすると、影が見えた。
背中に羽があり、羽にはブルーの模様が入っていて、ロングスカートに、お腹が露出している上着だ。
ジャケットをかけている。
少し背が小さいかも。
「あの」
「しーー。もうすぐ、雨が止むよ」
「え、うん」
すると、日差しがななめに入ってきて、
雲が移動して、そして辺りが晴れてくる。
「また一時間前後には、降り出すだろうね」
「あの。ここの迷宮の主ですよね?」
「あぁ、よくきたね。リリア」
よくみると、その迷宮の主はほとんど濡れていない。
ずっとここにいたのだろうか。
「わたしはミラル。未来視悪魔だよ」
「未来視。預言者ノートですか?」
「違うよ。悪魔のスキルで、しっかりと未来が視えるんだよ」
「妖精、じゃなくて、悪魔」
「少し歩こうか」
その悪魔は、羽があるのに飛ばないで、歩いてくれる。
よく観察すると、かなり若くみえる。
わたしより歳が若いのだろうか。
背が低く、顔は少し幼い感じで、でも化粧はしているようにも見える。
いきなり、手をつかまれる。
「えっ」
「いま、未来視してるよ」
「はい」
「そっか」
パッと手を離すと、今度は抱きついてくる。
「あ、あの」
「あぁ、これは趣味だよ。イヤ?」
「あ、あの、その」
今度は顔を近づけてくる。
「や、やめてください」
「ふふっ。冗談」
離れてくれた。
わたしは、服がかなり濡れていて、少し肌寒い。
「透けてるよ。着替える?」
「あの、着替えますけど、ここのどこで」
すると、少し傾いている、ビルの一階の一室が、洋服関係のお店だったらしい。
「ほら、ここなら、中で着替えられるよ」
「わかりました」
室内に入り、転送でレイラにもらった服をだすと、着替えるスペースで、濡れた服を脱ぐ。
着替える。
「ふぅ」
でると、その悪魔は、フロアにあるイスに座って、外を眺めていた。
「着替えましたよ」
「そう。ここの街は廃墟でね」
「はい」
「何十年も前に、大雨で浸水して、そのまま放置された。湖に観えるのは、そのときに、陥没して沈んだあと、水がたまりビルや建物がなかにあるんだ」
「そう。それで、今回の試練は?」
「いま教えてるよ」
「えっ」
「リリア、きみはやってくれるだろう。そう、さっき視たからね」
「え、うん」
「これから、水の魔法を教える。新魔導書で、覚えたあと、一緒にこの水没都市の水を引かせるんだ」
「えーー!」
ふふっ、と笑う。
「大丈夫。このひと区画だけ」
「え、うん」
「飛べるにしても、歩きにくいし、わたしだけじゃ、手が足りなくてね」
「あの。リンヤは来ましたよね」
「リンヤは、向こうの」
と言って、別の方向を指す。
すると、日差しの明かりさす方向の公園やら、学校のようなところが、たしかに水があまりない。
「わかりました。でもひとつ聴いても?」
「なに?」
「誰もいない、住まない封印されたこの街を少しずつ戻しても、悪魔なあなたには、なにも関係ないんじゃ」
すると、悪魔ミラルは、キレイに笑う。
「ふふっ。ははっ」
何だろう。
「あぁ。水を引かせればわかるけど、リリアは知りたがりだね」
また、ミラルが近くにくる。
今度は、抱きつかれないように、身構える。
「そんなに、イヤかぁ。残念ね」
すると、ミラルはバッグから、新魔導書をとりだして、唱える。
「ウォーラーリング アセンラーミュラージン」
「水の魔法」
「ほら、リリアも魔導書読んで、覚えて」
「じゃ、戦ったり殴ったりは、なしですね」
「リリアじゃ、わたしには勝てないよ。未来には、そんなことはでてこない。さっき抱きついたときに、もうわかってるんだ」
「はぁ」
「ふふっ」
「ウォーラーリング アセンラーミュラージン」
リリアの身体に、水の輪のようなものができて、それが頭の上まであがり、弾ける。
「これで覚えたね。じゃ、全開でいくから。しっかりと、都市の水を移動するよ」
「はい」
さっきと同じ魔法を同時につかうと、
目の前の傾き水につかっていた部分や、商業施設だろう、広い敷地、そばに立ち並ぶ住宅街の水が少しずつ空中に集まる。
「あの。この集まってきた水は」
「あぁ、少しいった先にある河まで移動」
「はい」
集中して、水を弾けこぼさないように、河まで移動させること何往復。
「はぁ」
「まだまだ、たくさんあるね」
目の前に拡がる水たちは、少し嵩が減っているが、たくさんだ。
「魔力がだいぶなくなってきて」
「はい」
ミラルは魔力回復アイテムをバッグからだしてくる。
アイテムで回復させて、
再び、同じ動作をして、水を移動させていく。
「もう、これじゃ、修業ですよ」
「やめてもいいよ。そのかわり、いつまでも、ここに居残ることになる」
「はぁぁぁ」
観ていた景色が、夕暮れになる頃、ようやく水の引いてきた都市の姿が観えてきた。
ミラルがみたかった景色はこれだろうか。
光の粒子たちが、まだまだ引いていない先のほうにある水の都市の上空で渦をまいていて、それは、日の光を浴びて、まるで、光の花ばたけのように、キラめいている。
きっと、水がすべて引いてみると、都市全体に魔力がいきわたり、光の都市となるのだろう。
「これくらいかな。ありがとう」
「ようやくですか」
「あとは、また次の挑戦者にさせることにするよ」
「ふぅ」
最後に、新魔導書と回復アイテム、それに高魔力結晶の宝石の指輪を渡される。
「まるで、告白されたみたい」
上空に陣が現れて、リリアを転移させる。
転移するとき、上から観た水没都市は、それはそれで綺麗な都市に観えた。




