迷宮第四層タンタジラート
扉の前、よりかかって寝ていた。
起きて、扉の文字をみると
妖精文字で、タンタジラートと読める。
他の文字は、ほとんど読めないが、絵柄だけ観ると、砂漠のような風景と森と、ペンギン? だろうか、鳥みたいな妖精が描かれている。
リリアは、回復アイテムでMSPを回復する。
また扉の前から、進むと妖精タンタジラートの試練の空間になるだろう。
扉の横の壁には、武器や防具、アイテムなどが並べて飾ってある。
上に描いてある文字を読んでみる。
夏は、こちら
冬は、こちら
となっている。
夏の装備品をみると、
水着種類ビキニ、水着種類ワンピース形、
Tシャツ短パン、薄い上着、水鉄砲、手持ち花火、バケツなどがあるみたいだ。
水着の種類まであるのは、親切心だろうか。
冬の装備品には上着、コート、マフラー、手袋に、スコップ、シャベルなどがある。
夏の装備品を選んで、Tシャツに短パン、上着を羽織る。靴も変えてみる。
軽い素材の靴だ。
とりあえず水鉄砲も持ってみる。
腰には、水筒も提げる。
水筒のなかには、まだ新しい水が入っているようだ。
容器は、プラスチックだろうか。
バケツをもち、さぁ、とこの扉の前から、一歩進んでみる。
砂漠のなかに、オアシスがある。
砂の広がる風景と、ポツンと深い森がある風景は、なんとも不思議な空間だ。
どこからか、水の気配も感じられる。
しばらく、ジリジリする砂地帯を歩いていく。
日差しはきつい。
バケツを持っている手が、カーとなっていく。
手袋もほしかったな。
いや、かえって暑いか。
ひたすら歩く。
途中どこからか、鳥の鳴き声がする。
砂漠にも、鳥はいるか。
またひたすら歩く。
そういえば、今回の試練は、歩く場面が多くないかな。
前には、乗りものとか、準備してあったような。
でも、試練なんだから、みずから進んで、てことかな。
汗かきながら、顔に日差しをうけ、帽子もほしかった、と思う。
ようやくリリアは、砂漠から森に進んでいき、森の中心に向かっていく。
ようやく木の影になり、汗をふきながら、水筒で水を飲む。
「ふう。はぁ」
「森があって助かる」
「タンタジラートは、何の妖精だったかな」
今度は、少し木の影ができているなかを歩く。
汗だくになりながらも、寒い地方よりは、大丈夫、と思ってみる。
郵便でも、寒い地方は苦手だ。
手が動かないし、身体も重ねて着るから、モフモフする。
暑いなかは、身軽ではあるから、汗にだけ気をつける。
やがて森のなか、小さい湖のような、水が広がる風景のなかにでる。
「うわ、綺麗な場所」
バケツで水を汲み、水筒のなかも補充する。
水鉄砲のなかにも水をいれる。
さっそく水筒の入れたばかりの水を飲む。
「はー、いい感じ。冷たい水だ。おいしい」
ちょうど、石で段差ができているところがあり、そこに腰かけて、靴をぬぎ
水をいれたバケツのなかに足をいれた。
森の木陰がここまで、届き、日差しをさえぎってくれている。
そのまま水鉄砲で、水をとばしながら、少しの間休憩してみる。
砂漠の間は、ずっと暑い、やける、熱い、のどかわく
だったけど、ここに来たら今度はまるで、居心地がいい。
少しの時間、足を冷やしたあと、
バケツから足をだして、少し乾かして、靴をはいた。
バケツの水を流して、もう一度、水汲みをした。
湖面に、何か浮いている。
丸くドーナツ形の浮き輪にのった何かだ。
ペンギンにみえる。
サングラスをかけている。
手を振っている。
それは、灼熱の湖のなかに漂う、メロウペンギンだった。
何故、ペンギン、て思うのと同時に、
いや、いるからには、タンタジラートなのだろう、とあまり回らない頭で考えてみる。
ペンギンに、声をかけてみる。
「もしかして、タンタジラート」
「えっと、しゃべれるのー?」
ペンギンの鳴き声のようなのがしたあと、
「うん、しゃべられるよ」
と返事が返ってきた。
やっぱり妖精タンタジラートだ。
「あの、砂漠越えてきたんだけど」
「あ、待ってて、泳いでそっちいくから」
「はい」
少し待っていると、浮き輪を置いたまま、こっちに向かって、湖を泳いでくる。
けっこうスピードは速い。
パシャと、音をしつつ、陸にあがる。
トテトテと、そばにきた。
「や、リリア」
「タンタジラート、きたけど、メロウペンギンだよね。変身してるの」
「そう、この湖で泳ぐのに、最適かとおもってね。どう。かわいい?」
「かわいい」
「ありがとう」
「それで、砂漠越えはどうだった」
「大変だったけど、うまく戦闘もなく、来られたよ」
「そっか」
「それで、この試練は、どういうの?」
メロウペンギンの姿のタンタジラートが話す。
「そうだね、ここ四層は、レジーカからの区切りで、クリアできれば、ここからは、一層ずつ脱出できるわけだけど」
「それは、いい。わたしはリンヤに会いにきたから」
「そっか。それでは試練だね」
「うん」
「真夏のメロウペンギンと競争」
「競争?」
「砂漠、森、水のなかを駆け回って、わたしより先に、湖の浮き島にクリスタルのペンダントを置くこと」
七色にかがやくクリスタルのペンダントを渡される。
「スタートしたら、ここから、ダッシュして、森と砂漠をいって、砂漠のテントにある魔導石にタッチして、戻ってくること。
石に触れると、ペンダントの色が変化するから、その状態で浮き島にあるフラッグにかければ、おわり」
「魔法は、どれくらい」
「魔法は使えるけど、転移と転送は利用できないから、ペンダントだけ移動とかできないよ」
「わかった」
「じゃ、休憩したら、開始だね」
そういって、準備にとりかかる。
わたしは、泳ぎはあまり得意ではないけど、走るのは好きなほうだ。
郵便でも、ワシックルやタカッチルに会う前は、自分の足でけっこうな距離のを届けていた。
タンタジラートは、何故か、装備アイテムをかっちりつける。
わたしは、水鉄砲やバケツは置いておくことにする。
もつのは水筒くらいだ。
なかに水を入れておく。
「妖精の名タンタジラートにおいて」
「妖精の名リリアにおいて」
「ここに、勝負を開始する」
「いざ、レディー」
わたしは拳を、ペンギンは手をつぎだして誓う。
スタートだ。
メロウペンギンなら、足は速くない。
とは言い切れなかった。
湖から、森まで走っていく、タンタジラートのメロウペンギンは、けっこうすばやい。
森のなかは、木々で囲まれて走りづらいが、ペンギンはサイズが小さいため、ぴょんぴょん跳ねながら、器用に走っていく。
わたしは、森のなかは、少し道ができている遠周りをしていく。
森を抜ければ、砂漠だ。
砂漠なら、ペンギンに追いつくだろう。
森のなかを必死に走る。
木の上で、鳥の鳴く声やなにかが、飛んだりしているが、観ている余裕はない。
ようやく森を通りぬけたところで、ペンギンが座りこんでいた。
よくみると、足にスキー板のようなものを装着している。
それで、すべっていく気らしい。
「ずるい、砂漠をすべっていくの」
「足が熱くなるからね。ずるくない」
わたしは、少し息を整えて、水筒で水を飲む。
すぐに頭を切り替えて、ここは風の魔法を使おうと決めた。
わたしは風妖精だ。
すぐに、わたしの後方から、おもたい風が吹いてきて、軽くジャンプするつもりが、だいぶ砂のなかを飛んでいく。
眼は痛いし、呼吸があまりできないが、なんとかテントのあるフラッグのあるところまで、ジャンプしながらたどり着く。
テントが風ではためくなか、魔法をとじて、テントのなかに入りこむ。
かがやく魔導石だ。
それにタッチする。
ペンダントの石の色が変わる。
すぐにペンギンもくる。
わたしは、テントに水筒を置き去りにすることにした。
すぐにわたしはテントからでて、再び風を呼ぶ。
風が今度は逆向きにふきはじめた。
ペンギンがテントからでてきたが、わたしはジャンプすると、風にのり、運ばれていく。
ペンギンは風にのりそびれたみたいだ。
森のある場所まで飛んで、転げて、なんとか着地した。
遠くにペンギンが、スキー板のようなもので、すべってくるのが観えている。
わたしは靴のなかの砂をだす。
そして履き直して
そのまま森のなかを走る。
ペンギンも森のすぐそばまでくるが、スキー板のようなものをはずすぶんだけ、でおくれている。
わたしは森のなかを走る。
鳥の鳴き声がきこえる。
木のざわめき。
わたしの荒い息。
それでも走る。
また遠周りの道を選らんだ。
ペンギンが少しずつ追いついてくる。
森を抜ければ、もう湖まですぐだ。
青い空と、湖の反射、が見えて、少しの風の音もする。
ペンギンは、そうだ泳ぎが得意だ。
追いつかれる前に、湖を泳がないと。
フラッグまでは、そんなに遠くない。
着ていた上着をぬぐ。
湖に飛びこむ。
ペンギンが湖に姿をみせたのがわかった。
そうだ、泳ぎは不得意だった。
ルーレ師匠に、もっと泳ぎ覚えるように言われていたのに。
泳いで、もう少しのところで、
ペンギンがすぐそばにいることに気づく。
タッチの差でフラッグをつかみ、ペンダントをかける。
ホンの数秒で、ペンギンもそれをかける。
「ふう。きみの勝ちだね。惜しかった」
浮島にあがり、なんとか息を整えると、
近くにボートが流れてきた。
ペンギンがそのはしをつかんで、浮島につける。
「ありがとう」
「いい勝負だったよ、リリア」
「これ、持っていっていいよ」
ペンダントをもらう。
魔導石でできている。
「まぁお守りかな」
タンタジラートがいう。
「ありがとう」
「リリアは、四層クリアだけど、記憶をセーブして、元の世界にかえるかい?」
「いいえ。わたしには、かえる所はないもの。分身して、リンヤに会いにきたの」
「そっか。少しだけ話しできるかい?」
「じゃ、服を乾かす間ね」
転移を使えるようにしてもらい、
ジャンプして、湖のふち、森のところまで、移動する。
木の枝に上着や、砂だらけの靴をかけて、
服を乾かしながら、話す。
「それで」
「五層から先は、クリアするごとに、記憶と経過、スキルをセーブする機会ができる」
「うん」
「もし、脱出したいなら、早いほうがいい。深く潜るほどに、戻れなくなる」
「わかった」
「それから、第十三の層は、とにかく注意すること。スキルが跳ね上がる代わりに、おおきな代償がくる」
「わかったわ。でも、リンヤをみつけるまでは、帰れないよ」
「そっか。でも、ここが異世界だということは、忘れないようにね」
「ありがとう、タンタジラート」
次元の転移陣の渦ができて、移動できるようになる。
転移陣に、吸い込まれていくリリア。
「そうだ、最後に」
「なに」
風景が変わっていく、そのなかで、
メロウペンギンの姿が変わっていく。
タンタジラートの現在の姿なのだろう。
青い瞳に、長い青い髪。
少し模様の入った青いローブとマントを着た
タンタジラートの姿が観えたところで、
第四層の風景が見えなくなる。
あれが、タンタジラートの本来の姿。




