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利凛雨退院日

 お昼、病院の日常のとおり、本棚に並べられている、本をひとつ手にとった。


 その小説を読んで過ごしていると、斎藤看護師が呼びにきた。


「はーい」


 ときどき、本の表紙に電話番号がかいてあったり、しおりが挟まっている本があったり、表紙が寄れている雑誌がある、この本棚もだいぶ見慣れたもの。


 でも、これも最後となる。


「それじゃ、病室の荷物まとめてね」

「はい」

「一時間くらいしたら、また呼びにくるから」

「はい」


 りりあは、荷物をまとめていく。


 一度扉をしめて、着替える。

 学生の制服に、上着にダウンジャケットだ。

 まだ外は寒いといわれて、くみさんに持ってきてもらった。


 扉をあける。


 すると、病室の開けた扉の前で、さちさんと、他の何人かのひとが、わかれを惜しんでくれる。


「もう退院なんだね」

「寂しいね」

「わたしたちのことわすれないでね」


 りりあは返事をするが、荷物をまとめたりするので、忙しい。


「はい、しっかり覚えてます」


 すると


「次はわたしの番だね」


 さちさんが自信あり()に話す。


「そうだね」



 病室で立ち話しをしていると、もう退院の時間となる。


「じゃ、荷物はこれと、これね」

「はい」

「わかれは済んだ?」

「はい」

「もう、学園のひとが、扉の前で待機してるから」

「はい」


 遠くから、ラウンジ広間のテレビの音楽が聴こえてくる。

 この時間は、フロアの多くのひとはテレビをみている時間だ。


「じゃ」


 さちさんに話すと


「寂しい。わたしもすぐでるからね」

「わかった」

「もし、電話つながらなかったら、怒るからね」

「わかった」


 看護師のあとをついていくと、

 廊下の真ん中に二重扉がみえた。

 看護師が、鍵でそれを開ける。



 さちさんとは、この扉の前で、一時のお別れだ。


 わたしは、廊下に向かって、ペコリと頭を下げた。

 他の入院患者の何人かが、拍手してくれた。

 一つめの扉のなかに入り、

 扉がしまる。

 二つめの扉を看護師が開けて、その先にエレベーターがある。

 角を曲がるときに、さちさんに手をふった。


 さちさんが、涙していて、こちらも瞬間的に涙がこぼれそうになった。


「もう、そんな泣かないでよ、さちさん」


 もう聴こえていないのは、知っていたけど、言ってしまう。



 エレベーターで一階まで。


「フロントで、お会計待っててね」


 りりあは、入院で病院にきたときの様子を覚えていないため、ここのフロントはとても久しぶりだ。

 お会計のところに、持ってきた書類をみせると、すぐに学園のひとが、みつけて近づいてきた。


「お待ちください。それと、これにも目を通して、ください」


 看護師さんに言われ、ソファに座る。



 荷物を渡すと、学園の寮の管理人が受け取り、学園の担任が、段取りを教えてくれた。

 お会計が終われば、そのまま帰っていいらしく、車移動して、寮まで行ってくれる。



 学園は、もう残り数日で春休みに入るため、部活以外は連絡や許可は済んでいるため、でなくてもいいらしい。


 次に授業にでるのは、春休み明けてからだ。


 呼ばれている。


 お会計のところにいくと、


「先ほどの書類は、次に入院するとき、すぐに入れるようにする、入院セットとその予約なんですが、名前を書いて入れておきますか?」


 すぐ入院する予定はまだないけど、書いておいた。


「はい、お願いします」

「わかりました」

「お会計ですね」


 こうして、支払いをすませて、

 病院をでる。



 久しぶりの病院の外だ。

 ふり返ると、二階のフロアのラウンジが目に入った。

 たぶん、いまごろ椅子に座って、さちさんたち患者さんは、テレビをみたり読書したり、といった時間だろう。


「いくよ。りりあさん」

「はい」


 一度観ていないだろう、窓に手を振ってから、歩きだし、車に乗った。

 車の窓から空を見上げると、緑の羽をした緑羽鳥が、空中で待機しているのが、観えた。


 きっと、妖精クイーンの指示で、様子を見ているのだろう。

 帰ったら、妖精ノートを書き込まないと。

 それに、記憶の整理をしないと。


 まだ想い出していないことが、ある気がする。



 春休みまで、残り数日という、よく晴れた三月だった。


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