迷宮第ニ層レイラ
リリアは、気づくと、封印扉の前にいた。
扉に描かれた妖精文字をみると、レイラとなっている。
どうやら、第一層はクリアできたようだ。
歩きまわった成果で、食料と回復アイテムが見つかったため、まずは、食事にしよう。
封印扉には、キレイな模様が施されている。
妖精文字もたくさん描かれているが、読める文字は少ない。
きっと古代の妖精文字もあるのだろう。
古代妖精文字が、読めないため残念だけど、
それほど、扉は古くから存在しているのだと想うと、驚きもある。
第一層は、単純な試練が多いが、これから階層が深くなると、だんだんとクリアがしにくくなる。
レイラ扉には、花の絵柄があるため、おそらくは、次は花咲くエリアだろう。
リリアは食事をして、ゴミを、ひとまとめにして、試しに、
「ゴミ箱」
と言ってみた。
扉の前に、ゴミ箱が姿を見せる。
ゴミ箱に、きちんと捨ててから、振り返って、一歩足を踏み出す。
リリアが次に観たのは、深いけれど明るい花の咲く丘だ。
どこかで、水の音がしている。
レイラはたしか、ひとから妖精に転生した珍しい妖精だ。
ひと時代はとてもキレイだったらしく、妖精になってもその可愛さとキレイさは、そのままだ。
前回も花のエリアだったから、レイラは花好きで、この空間が気にいっているのだろう。
花をあまり荒らさないようにしながら、
道を進んでいく。
知っている花もあれば、観たこともないような花もたくさんだ。
いい香りもしてくる。
ここで、寝転んだら、きっとずっと深く寝てしまうだろう、と思う。
「レイラ」
呼びかけるも、花が揺れているだけだ。
「レイラ、どこにいるの」
花が揺れて、一瞬レイラかと思って、その方角をみるも、違うようだ。
少し慎重にすすんだ先に、湖がある。
水の音がしている。
湖のふちに立ち、座って、水をすくってみる。
とてもキレイな色だ。
ブルーのなかに、グリーンとピンクの感じだ。
一口飲んでみると、おいしいことがわかった。
「どう、おいしいでしょ?」
突然レイラの声がして、ふり返ると
後ろに立っていた。
レイラは、妖精のなかでは小柄だが、見た目がとにかく、キレイで整っている。
黒い長い髪で、淡い青い瞳。
ブルーのドレス姿で、ドレスの胸に花飾りをつけている。
イヤリングには、なにかのキャラクターがいる。
かわいい感じも備わり、魅了耐性がなければ、すぐにでも魅了されて、その場から動けなくなってしまう。
「レイラ、ここの試練を教えてほしい」
すると
「一緒に花を探しましょう」
「花探し?」
「そう」
「でも、ここには、何千ていう花の種類があるよ」
「そう、だから、貴女には新魔導書で、魔法を覚えてもらうわ」
「魔導書がないよ」
「わたしが持ってるわ」
よくみると、レイラの左手には、本がある。
渡してもらい、レイラがここの花咲く場所に用意したベンチに座り、さっそく読みはじめる。
「ねえ、そんなことより、一緒に遊ばない?」
「うーん」
「ほら、花たちキレイでしょ。もっと観てましょ」
「うーん」
「コールドタイムした花たちは、ここにはないのよね。ここにあるのも完全じゃない」
「そうなんだ」
「貴方たちが、見守ってくれたおかげで、ここにいずれ撒けるかも」
「そうなんだ」
「ねえ、それより、わたしのドレスいいでしょ」
「うーん」
「もう、さっきから、うん、ばかりね」
「うーん」
「ねえ、ほら、いいことしよ」
「うーん」
「少しは、こっち向いたら」
「えー。うーん」
レイラが、だんだんと不機嫌になっていく。
「ねえ、わたしって魅力ない。やだー!」
ノッてはいけない。
すべて企みだ。
前にわたしの預言者レポートをグレードアップしようと、わたしの封印空間でレイラに会ったときも、なかなかひどかった。
(以前はたしか)
「ねえ、髪てどう整えてるの」
「いつもの通りので、ときどきオイルを使います」
「うわ、髪サラサラ」
「あまり触らないで、いただけると」
「リリアて、モテるでしょ」
「あまりわからない」
「ほら、わたしわかるから」
「歌うたいましょ」
「向こうまで走ろう」
「ベンチに寝ちゃうよ」
三時間もしゃべったあと、
レイラは勝手に寝てしまい、
結局、二十五時間以上レイラの迷宮をクリアできずにいた。
(そうだった)
「ねえ、魔導書ばかりみて、うなってないで、周り花だよ。キレイー!」
「うーん」
「ねえ、ほら、みてみなよ」
「うーん、あ」
「あ?」
「あー違う、これじゃない」
「ねえ。ほら、花の髪かざりー!」
「うーん」
「もう、わかった」
「え、なにかわかった?」
「リリアがいじわるしてた、てリンヤに言うから」
「え、リンヤと連絡とれるの?」
「ふふふ、どうでしょー?」
「いや、いいです。うーん」
「く、このー」
今度は、くすぐってくる。
「あの、やめてもらっていいですか」
「笑うまでだめ」
「やめて」
「いや」
魔導書を一度ベンチに置いた。
「じゃ、話しましょ」
「やったー」
レイラがくすぐるのをやめた。
「あ、やっぱいいです」
「えー」
また魔導書をとると、レイラはとうとう泣きはじめた。
「えーずるい」
「だって、リンヤもリリアも相手してくれない。もう泣くしかないし」
「ごめんなさい。ひとついいですか」
「はーい、なにー?」
「レイラって、わたしよりも強い魔法使いのはず。なんでそんなに、その、相手ほしいんですか?」
「迷宮にいるのはいいけど、寂しいもの」
「それだけ?」
「そう。だから、ずっと一緒」
「それは、困るので」
「ねえ、ほら、湖案内するわ」
ベンチに置いた魔導書が風でパラパラとめくれて、ひとつの魔法の文をみつけた。
「これ、これよ」
「え、なに、どれ」
「みつけた」
「え! もうみつけたの」
「花を探す魔法、ルミパス クラッタ
ヤミタミーニ トッテンタ」
「ふふ、みつけたかぁ」
「じゃ、この魔法の取得を手伝ってください、レイラ」
「えー、やだ。自分で覚えたら?」
「花の妖精、レイラじゃないと、ダメなんでしょう」
「そっかぁ、わかった。いいよ」
「はい」
「じゃ、湖まで」
ようやく湖につくと、ボートが一艘あった。
「乗って」
ボートにのると、湖の真ん中までいく。
すると、風にのって、水が空中に舞いはじめ、それが水の花となる。
そしてレイラの手から、合図されると、
水たちが細かくなり、霧のような粒がはじけていく。
そして、光の粒子が一か所に集まっていく。
「わたしが指定した、花があの場所にあるの。ほら、次は貴女の番よ」
「ルミパス クラッタ
ヤミタミーニ トッテンタ」
こうして、光の粒子が二か所めの花の場所を指す。
次つぎにみつけて、全部で合計五か所。
これで集まったはず。
ボートをおりて、まだ魔法の効果で、花の周りが光る場所をつきとめていく。
「これで、五か所め。どう、レイラ」
「えー、すごい。リリア魔法トクイ」
「なんで、カタコトで話すの?」
「リリア、わたし、もういらないのね。またわたし。置いていく」
「レイラ、わたしも寂しいよ」
「ほんとー!?」
「はい、なので、スキルアップをお願いします」
「リンヤのほうが、やっぱ可愛かったなぁ」
「はい、お願いします」
ようやくレイラが、運命をさらに上の段階へと引き上げる。
「花探しの魔法も、自由につかって」
「わかりました」
「それから、リンヤの運命のことなんだけど」
「はい」
「まだ、進化中なんでしょ。まだ迷宮にいると思う」
「やっぱりレイラもそう思うんですね」
「じゃ、またね」
言いながら、レイラは湖にそのまま飛びこんでしまう。
ボートのはしにつかまって
「ふふ、このまま泳ごうーと」
「うん、自由な妖精だぁ」
「はやくー、一緒に泳ご!」
花咲くこの空間の上に、転移陣がすでにできている。
「もういくね。じゃ、レイラ」
えーー
という声を聴きながら、転移していくリリア。
「リリア、楽しかったよ。リンヤによろしくね」
ぽつりと、水のなか、浮いているレイラは言った。




