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利凛雨目覚め

「おはよう、利凛雨(りりあ)さん」


 カーテンをあける。


「今日も朝から、友だちが、様子聴きにきたよ。

 何ていったかなぁ」

「そう、たしか来美(くみ)さん。

 くみさん、毎日、様子聴きにくるのよ」


「今日もダメかなぁ。

 おはよう、利凛雨さん」


 ひと通りに、体調チェックをしていく。


「そろそろいきますね。

 また様子見にくるから」


 扉を閉めて廊下にでようとして、斎藤看護師は、もう一度、利凛雨(りりあ)を見た。


 すると


 利凛雨は、少し眼をあけている気がした。


 実に、四ヶ月ぶりの意識回復だった。

 すぐに、ナースコールをする斎藤看護師。



 斎藤看護師が、慌ただしくしてるなか、

 利凛雨は考えていた。



 見たことある天井。


 でも、いつ観たのだろう。

 看護師の名前は、たしか斎藤看護師だったかな。


 あれ、でも、わたしは。


 名前


 名前は


 リリア。


 ラルンカ ナリリミ

 リリア ルード リルルンロ。


 妖精のはずだ。

 でも、それなら、看護をしてくれるのは、ひとではなくて、妖精回復士のはず。

 それとも、ヒトの世界に迷ったままだろうか。


 ボーとしていると、看護師が医師を連れてきて、検査を始めた。

 まだ、話すことはできないため、

 その姿をひたすら眺めていた。


 検査がおわり、説明をきいて、医師と看護師が、部屋からいなくなる。


 すると


「おはよう、リリア」


 声がきこえた。

 でも、ひとは誰もいない。


「魔法の効果が消える前に、伝えるね」

「転生魔法が完了したから、自動段階に移行するよ」

「これより、リリアの転生魔法により、リリアに転生魔法をかける」


 あ、話せる、と思ったと同時に、転生魔法が詠唱された。


「リリラリルム リミルレレルラ」


 意味は、妖精の丘、再び咲く花たち。


 こうして、リリアの周りは、光りがかがやきだして、それが、虹色になり、やがては、透明な空気となって拡散する。


「そっか。わたし、転生したのか」


 利凛雨は、見知った天井を見ながら、そう思った。


 でも、何故知っている場所なのだろう。

 その記憶は、まだ戻ってはこないようだ。



 仕方ない。



 ベットから降りて、ロッカーにしまってある服で、着替えをすませる。

 女性物で、どこかの制服のようだ。

 まだ新しい。


 鏡がないため、洗面台のあるトイレまでいくことにした。


 鏡をみると、そこに映るのは、

 人間の女子高生だ。


 顔をみると、妖精の面影(おもかげ)もあるが、ヒトであることは間違いない。


「そっか。わたし、女子高生なんだ」

「そうだ。名前、利凛雨って任意でつけたんだったかな」


 部屋に戻ると、ひとりの女の子がいて、

 利凛雨が部屋にはいると、すぐに、はしってきて、抱きついてきた。


「よかった。目が覚めたんだね。

 ほんと、よかったよ」

「ごめんなさい。ありがとう。でも、

 あの、貴女の名前は」

「え、覚えてないの、りーあ」

「ごめん、その、えと記憶混乱していて」

「そっか、無理しないで。

 いえ、大丈夫。わたしは来美(くみ)

「そっか、くみさんか」

「うん、大丈夫だよ。前も記憶喪失って言ってたね。きっと思いだすよ」

「ごめんね」

「あやまらないでよー!」

「あ、荷物、九ノ(ここのは)学園、寮の管理人から預かってるものあるから、渡すね。ホントは、管理人から直接わたすらしいけど、わたし毎日来てるから」

「そうなんだ。わかった」

「ちょっと待っててー!」


 かけて、いってしまうくみさん。

 ベットにかけて、少し頭を整理する。


 わたしは、学園の高校に通っているらしい。

 荷物が、管理人預かりなのは、事故のとき、荷物の行き場がなかったのだろう。


 そういえば、ジコのとき、誰かいた気がするけど、誰だったろう。

 くみさんが、駆けて、廊下から病室に入ってきた。


「おまたせ」

「くみさん、いまいつなの?」

「えと、いま、秋通り過ぎて、もう冬だよ」

「あ、そうだ、明けましておめでとう、りーあ」

「え、えと、おめでとう」

「いまは、冬で、二月のはじめだよ」

「そっかぁ」


 とっさには、どれくらい時間が経ってしまったのか、わからない。


「そうだなぁ、事故あったのが、秋だから」

「そんなに、経つんだね」


 まだ、なにか思いだして、いないことがあるような、そんな気がする。


「あ、そうだ。寮の管理人と、先生とには連絡しなきゃだね」


 サッと、スマホをとりだして、

 病室から、廊下にでていく、来美さん。


 なんだろう。


 なにを想い出していないのだろうか。


「う、頭痛い」


 まだ万全ではないみたいだ。

 くみさんが、再び病室に入ってくる。


「おまた、せ。りーあ大丈夫?」

「うん、頭痛い」

「そっかぁ、待って、看護師さん」

「大丈夫だけど、少し休むかな」

「わかった」

「あ、待って」

「なに?」

「なにか、いま、伝えることがあったような」

「あ、そうだ。その荷物のほかに、これ」

「え」


 それはノートだった。


「なんか、大切そうに、いつも描いてたから。預かってたよ」

「ありがとう」


 手に持った途端に、思い出す。


 妖精ノートだ。


 記憶が、渦巻き、風となり、

 一瞬閃光のような文字が観えた。


「リンヤ」

「え、なに、りーあ」

「ううん。なんでもない」

「わかった。今日は、ゆっくり。また明日くるね。必要なのあったら、メモに残しておいてね」

「わかった。じゃね。ありがとう」


 病室の扉がしまり、そして、深呼吸をする。


 そうだ。

 リンヤ。


 リンヤはどうなったろう。

 わたしは、転生して女子高生になった。

 でも、コインを預かり、わたしにも使えるようになった運命のスキルにより、迷宮に分割された妖精のわたし自身を置いてきたんだ。


「リンヤ。まだ迷宮内にいるのかな」



 だんだんと、利凛雨は頭痛がひどくなる。


 仕方なく、ロッカーに先ほどかけた服に着替えて、ベットに入る。

 ひどく眠くなり、看護師が再び入るころには、もう眠っていた。


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