転生女子高生と自身をタイセつにしない猫
まだ慣れていない九ノ葉学園の朝の時間。
りーあは徒歩で通学していた。
寮からさほど遠くはない距離だが、それでも楽しみをみつけようと、庭先に咲いている花をみつけたり、知らない道を選んで歩いたり、出くわした友人と朝の会話をしたりと、朝の通学を楽しむようにしている。
学園の門の側の道路を歩いていると、とおやくんがかがみこんで、建物と建物の間で手招きをしている。
「おはよー」
「どうしたの?」
きくと
「猫がいるんだけど、でてこないんだ」
「え、ネコいるの?」
薄暗闇のなかにまぎれているが、確かに建物の隙間に子ネコがいる。
「なんかケガしてるかもしれない。さっきから鳴くけど、でてこないんだよな」
「そうなんだ」
ジーとみてみるが、動く気配はない。
妖精333年生活していたが、ネコはかわいい。
妖精 界隈でも、ネコは飼っていた。
もちろん、妖精ネコではあるけども。
しかし、もう少しすると、朝のチャイムが鳴ってしまう。
仕方なく、二人はあきらめて学園のなかに入っていく。
けれど、一時間め、二時間めと授業を進めてみても、どうにも気になる。
三時間め休み時間に廊下から様子をみていると、とおやくんとくみさんがでてきて、廊下から門の辺りをみている。
「くみさん、今日は体調いいんだね」
「そうだね」
「朝猫いたね」
「そう、気になるぅ」
四時間めが終わり、昼食時間に、我慢できなくて、門の前辺りを覗きにいくと、朝みた建物の隙間から、まだ動いていない。
仕方なくりーあは、手を伸ばしてみたり、手招きするが、動いてくれない。
よくみると、やはり右前足をケガしているようだ。
事故にでもあったのかもしれない。
さらに心配になるも、昼食時間が終わってしまう。
放課後、図書委員会があったが、とおやくんにきいてみると、終わってから、二人でみにいこう、という話しになった。
図書委員会が終わってすぐ、門の前からでて、建物の隙間をみてみる。
「もういないかも」
「一応念のため」
見てみようと、二人して建物を周りこむ。
マンションがあってその駐車場をウロウロしてみると、自動車の下の辺りから鳴き声が聞こえる。
「にゃー」
「いた」
あの子ネコだ。
ケガの手当てもされずにだいぶ弱っている。
とりあえず、マンションの隣にあった公園に連れていき水で前足を洗ってあげる。
「どうしようか?」
「でもわたしのとこ、寮だから飼えない」
「そうだね」
「自分のところも、そうだな。飼えないかも」
「でも、このままじゃ、子ネコだし」
「親猫が迎えにきてくれればいいかもしれないんだけど」
しかし、子ネコは懸命に歩いて行こうとする。
きっと何かを探しているのだろう。
「もう、あんまり動きすぎると痛むよ」
あまりみてられなくてりーあは魔法を詠唱する。
「リリラリルム リミルレレルラ」
転生魔法だ。
「どうしたの」
とおやくんがきいてくる。
「リリィリミラ語の念のためのおまじないだよ」
「親猫みつかるといいね」
「明日もみに来ようよ」
「そうだね」
こうしてとおやくんと帰ることになった。
次の日、朝少しだけ早めに寮をでて、りーあは遠周りして、公園までいくことにする。
つい考えてしまう。
追加で回復魔法を取得してしまおうか。
けれど、回復魔法は使いどころが難しい。
おおきなケガまで治してしまい、それが運命を変えることになると、魔法でこの現代の形を歪めてしまう。
妖精333年、転生してからはゆっくりひと生活を楽しみたかったから、回復魔法はすぐに取得しなかったが、まさかこうなるとは。
マンションの隣にある公園につくも子ネコの姿はみえない。
少しベンチの下をみたり、植え込みの影をのぞいたりするもみつからない。
仕方ない。
学校に登校する。
だれかに見つかって、飼われていればいいけど、あの子ネコのことだ。
親ネコを探し歩いて、違う場所にいったのかも。
ケガがひどくならないといいけど。
三時間めの休み時間、少し門のところまでいってみたが、周りにネコの姿はない。
お昼休み、二階の廊下の窓ぎわを歩いて、外をぐるりとみて周る。
やはり学校近くにはきていない。
とおやくんとすれ違うと
「もしかして、猫探してるの?」
ときかれて、
「そう」
「放課後また探してみよう」
ということになった。
放課後は、演劇部の部活がある。
今日は部活時間、照明室に入り、照明の機材の説明を聞いたり、ライトの名前や操作を教わる。
部長から、照明を覚えてきたところで、演技練習にも参加してもらうから、といわれてしまう。
部活終わりにとおやくんと帰り、またマンションの隣の公園にきた。
公園をぐるりとみてみるが子ネコはみつからない。
あきらめて違う場所に移動していると、途中、中学生の子たち何人かが、しゃがみこんで、泣いていた。
近くを通りすぎるときにみると、あの子ネコだった。
衰弱して死んでしまったようだ。
「きみたちが見つけたの?」
「数日前から、近くの公園とかにいて、様子みてたの」
「ウチ飼えないから」
「そうだったの」
「可哀想なことしちゃったよ」
「そっかぁ。自分たちも見かけたから、いま探してたところだったよ。見つけてくれてありがとうね」
「いいえ。ちゃんと供養しようね」
中学生の子たちが、話している。
「いこうか」
「うん」
りーあととおやはそこから離れていく。
帰り道、別の公園にたちよる。
「ごめんね。昨日もう体力がなかったんだね」
「やっぱりウチに連れて帰ればよかった」
くびをふる。
「きっと、助けられなかったよ」
「最後にあの子たちがいてくれて、よかった」
「そうだね」
こうして、とおやくんとわかれて、寮まで帰る。
きっと転生魔法は発動しただろう。
きっとあの子ネコはいまごろ、選ばれた魔法スキルとステータスで、転生していくことになる。
昨日の帰りぎわ、子ネコの足くびにアイテムをつけた。
りーあが使うアイテムは、りーあがかけた魔法アイテムで、これは転生したあとの状況をサーチできる魔法アイテムだ。
次の日の朝、 試しに、子ネコの転生した先だけみてみようかと思う。
「リリィララミーラ」
アイテムシンクロスキルだ。
すると、りーあの手元の空間に鏡のような窓ができた。
そこには、キレイなショート髪で、少し短い丈の上下を着こなして、外を歩く女の子がいた。
右の手首には、あのアイテムをつけている。
緑色で伸縮性のある小さめのシュシュだ。
少しだけ回復効果もある。
あの子ネコは、小さな女の子に転生して、きっとこれから美人に成長していくのだろう。
りーあは魔法アイテムの効果をとじた。