転生女子高生、演劇秋のたいカイ(中編)
「九ノ葉学園、演劇部二年生オリジナル脚本による、奇妙な森に住む兄妹が幸福をつれてくるといわれる緑の翼をもつ鳥を探しにでかける旅」
「開演です」
(幕があがる)
「この森は、いつ入っても不思議な森だなぁ」
「そうね。なんていうか、不思議パレード」
「とりあえず、いつもの通り、休憩できる場所を探そうか」
「そうね、兄さん」
妹のリーデルと兄のミカニルは、日課である食料探しと、幸福の緑の翼をもつ魔法鳥を探しに、この森に入ってきた。
街にいけば食材が買えるが、遠いうえに、この兄妹は、あまり食費につかえる資金はない。
いつものように、食料になりそうなものと、それに休憩場所を探して、妹が話しかける。
「いい木ノ実をみつけたよ」
「あ、こっちは、奇妙な形だけど、食べられる草だね」
「光る苔も忘れてはいけないよ」
「そうだね、スープになるからね」
二人はしばらく、森の探検をしている。
三十分は歩いてきただろうか。
広い開けている湖にでた。
「わあ、キレイな景色!」
「暗い森のなかからでたね」
「ここの芝で、休憩していこうか」
芝の隅に、ゴツゴツしているが、座れそうな岩がある。
「ここで、休憩だね」
リーデルが言って、岩に座る。
兄のミカニルも座ろうと手をつくと、横からなにか動く気配がした。
「なんだ」
コソっと、顔をみせたのはリスだった。
「リスだ。リーデルみてみな」
「ほんとーかわいい」
「でも、このリス変わってるぞ」
みると、手には木ノ実を持っているが、
くびのところに、小さな石のついたネックレスのようなものをつけている。
さわろうと手を伸ばすミカニル。
しかし、岩影にリスが隠れてしまい、
さらに手を伸ばすと後ろに転がってしまった。
リーデルが笑う。
すると、ふいに岩影にできた水面に、何か光るものがキラっと見えた。
「なんだろう」
ミカニルは、起き上がりつつ、しゃがみ込み、水面に手をつけた。
なかに、コインのようなものがある。
お金かな。
と思い、拾おうとすると、コインが回転をはじめる。
あっという間に、水面が高くたかくなり、コインの回転にあわせて渦ができている。
さっきのリスは高くあがる水のなかに入っていく。
「あ!」
ミカニルは手をつけているため、どんどん吸い込まれていく。
「兄さん!」
リーデルは手を伸ばして、ミカニルを捕まえたが、二人一緒に高くあがる水のなかに吸い込まれてしまった。
(暗転)
回転する水のなか、リスが華麗に泳いでいき、何か道案内のように、光る方に、進んでいく。
リスのネックレスがくびのうしろに向き、かがやく石が、水のなかにきらめく。
その石を見失わないように、リーデルは、兄のミカニルの手を捕まえながら、必死に泳いでいく。
(暗転)
気づくと、はてしなく大きな水面が拡がる、湖の、近くの草むらに、二人して横になっていた。
近くにさっきのリスがきて、頭をつついてくる。
「ほら、起きて」
「うーん、なに、夢?」
指をかまれる。
「痛い。夢じゃない」
「兄さん起きて。夢じゃない!」
「うーん、何、リーデル。まさか湖に落ちる夢でも見てたの。仕方ないなぁ」
「違う、いいから起きて。ほ、ら!」
ようやく起きて周りを見渡すミカニル。
「なにここ。ほとんど湖じゃないか」
「ここは、緑の鳥が住む、通称、緑遠湖。少しの林と、湖と、この草むらしかない、楽園だよ」
「わ、リスが話してる!」
「わたしは、リスの翠六」
「コイン見つけてくれてありがとう」
「おかげで、ここまで戻ってこられたよ」
「コイン?」
ミカニルは、右手に持っていたコインをだしてみる。
「それは、王家の紋章が入った特別なもの。失くしていたから、探していたんだ」
「そうなんだ」
「じゃ、はい」
一度スイロクに渡すが、すぐに返してくれる。
「ここにくるための入り口を探していたから、もう大丈夫。コインが必要だったけど、もう済んだから、あげるよ」
「わかった」
「それで、これか、ら」
と話しをしようとすると、
「キューイ、クルル、ピピ」
「え、何?」
「シー、緑の鳥がでてくるよ」
ピキピキ、ヒューン。
まるで、弾丸のように、一羽の鳥が、木の隙間からでてきて、湖を横にぬけて、草むらに降りていった。
「一瞬でわからなかったけど、あれが、噂できく緑の鳥?」
「そうだよ」
「あんなに素早いなら、捕まえられないね」
「さぁ、これから、王の塔まで案内するよ。
服も乾かさないとね」
こうして、リスに連れられて王の待つお城とその塔までいくことになった。
リスは、ピィーと鳴くと、草むらからウサギがでてきた。
「このウサギは軽早ウサギ。すぐにお城につくよ」
「けど、わたしたちは、ウサギには乗れないよ」
ウサギは腕にチェーンを巻いている。
「事情はわかった。大丈夫、君たちの乗り動物があるよ」
今度はウサギが、ピィーと鳴く。
すると、とてもおおきなワシとタカが下りてくる。
トンと、目の前に降り立つ。
「二人は、これに乗るといいよ」
「でもなぜ、乗せてくれるの?」
リーデルがきくと、
「お城につけば、わかる」
ワシとタカが答えてくれる。
二人は、首に鈴をつけたワシの背中、首にお守りをつけたタカの背中につかまると、タカとワシはフワっと、羽を動かして、空中にあがる。
「ウサギが道案内するから、ついてきて」
「わかった」
塔のあるお城まで、駆けていくウサギと、空をいくワシとタカ。
(暗転)
お城につき、門の前にウサギが止まり、
その次にワシとタカも降りていった。
門の前には、兵隊のひとりが、立っていて、声をかけてくる。
「今日は王の対応が忙しい日です。約束などはおありですか」
するとリスが、自身のくびにつけたネックレスの石をみせる。
「これは、王家の紋章がはいった石だ。失礼しました」
リスと二人は、塔へと続く門を通される。
ワシとタカ、ウサギには、ここで待っていてもらうことにした。
「その紋章すごい効果だね」
「これは、前に第二王女と遊んだときにもらったものだよ。コインもそう」
「今日ここにくるのも、王女の頼みなんだ」
「そうだったのかぁ」
ずっと歩いていくと、正面に高い塔がある。
「この塔がお城の王の間に続いてるよ。
残り二つの塔は、それぞれ個室がいくつもあり、王女たちの寝室や、使用人室、客間や図書館など、いろんな施設が塔のなかに収まっているんだ」
やがて、塔の長い階段を登ると、
およそ五階だてほどの高さの部分に王の間がつくられていた。
王の間には、たくさんのひとが集まっている。
「みなさん。近くに住む普段はおとなしい
魔物たちがこのごろ、街を壊したり、モノを奪ったりすることが起こっている」
「どうやら、城や街をまもっている、魔除けの結界陣が、効力がうすまっているようだ」
「とにかく、魔物たちを追い払うのに、緑の鳥の鳴き声が必要になる。
この回転するレコード石に音声を録ってきてほしい。できるだけたくさんの音があれば、それだけ街のまもりにできるだろう」
「そうか、それで王女は、声をかけてくれたんだね」
「どうして?」
「あの湖は、わたしたち動物の楽園だから、できれば荒らさないでほしい。でも魔物のことがある」
「緑の鳥を捕まえに、ひとが湖に集まってしまうよ」
「王女にも話しをきこう」
王女はどこにいるのか、と兵のひとりにきくと、隣の塔の図書館にいるらしい。
リスと二人は、塔と塔をつなぐ渡り廊下をとおりぬけ、図書館にいくことになった。




