転生女子高生、演劇部にハマる
妖精333年生きたりーあ (利凛雨)は、覚えた転生魔法により九ノ葉学園の女子高生に転生した。
妖精の記憶もある程度そのままだが、転生ショックにより、ときどき想い出す程度だ。
髪色が少し赤みがかり、瞳の色も少し朱色に近い。
少し長い髪に、この学園の制服を着ている。
周りの生徒たちをみて、あとでスカート丈は短くしたほうが馴染むのかもしれない。
七月一日、高校一年の転校生として紹介されたりーあは、両親も親戚もいなく、一部記憶喪失として、病院施設から、この学園に転入した。
一学期夏休みの少し前の時期、しばらく大人しくしていようと決めたりーあは、できる限り魔法を使わないでいようと決めて、この夏休み前を過ごしている。
最近、放課後図書委員会で、気になる子ができた。
図書室での本の片付けの途中で、図鑑やら辞書など重たいものを積極的に片付けてくれる男の子。
並べ替えのときにも、任せて、と前にでてくれるところが気になっている。
「ねえ、きみはそんなにいつも優しいの?」
聴いてみると
「部活では、いつももっと雑用とかしてるから、これくらい普通だよ」
「そうなんだ」
「何部だっけ?」
「演劇部だよ」
「この学園の演劇部は、人数どれくらいいるの?」
「あまり多くないよ、全員で十七人かなぁ」
「それで、部活ではもっと雑用とかしているの?」
「そうだよ。男子が少ないから、とにかく色んな用事を言われるよ。明日も部活にいくよ」
「そっかぁ、なんか観にいきたくなってきた」
本の片付けを少しずつして、元の棚に戻しながら、そんなことを考える。
まだ転校生なため、部活選びはこれからだ。
夏休みまでには決められるといいらしい。
基本的には、学園側は全員部活を決めてほしいらしい。
「いいよ。メンバー募集してるし、でも一年は役もらえないかもだから、照明とか音響とかやるよ」
「いいかもー」
そう、うなずいてみるも、りーあは実際には何をやるのかわかっていない。
妖精界のことは、長い時間をかけているから知っているが、ひとの空間である部活には、興味はあってもよく知らない。
まぁ、観るだけなら、魔法を使うこともないだろう。
「ついでに、勉強も教えてもらおうかな」
「いいよ」
「ねえ、名前教えてもらってもいい?」
「まだ覚えていないか。とおやだよ。よろしくね」
「どういう字をかくの?」
「透闇で、とおやだよ」
「わかった。わたしは利凛雨だけど、りーあって呼ばれるよ。とおやくんよろしくね!」
図書委員会、本の片付けを終えて、貸し出しカードの受付などをすませたあと、帰りとなった。
部活は明日連れていってもらおう。
帰り道、とおやくんが自転車通学なため、駐輪場所に停めてある自転車のところまでいきながら、話しかける。
「ねえ、とおやくん。部活楽しい?」
「楽しいよ。いまは照明係だけど、演技練習に参加してるし、一年だけど、特別に社会人がでる演劇講座にでて、小さい役もらえたんだ」
「そうなんだぁ。なんかすごい」
「兵士の一の役だけどね。秋に発表会あるから、それまで部活と講座の練習だよ」
「そうなんだ」
「照明はどんなの?」
「舞台を照らす照明だよ。体育館では、舞台上部にある照明室で操作するよ」
「おー、すごい。明日楽しみ」
「わかった。りーあさん明日案内するね」
「わかった」
こうして、とおやくんとはわかれて、寮まで歩いて帰ることになった。
記憶喪失で気がつくと病院にいたわたしは、学園に転入してからは、寮で暮らしている、ということになっている。
実際は、転生して妖精の記憶が薄れているだけで、家もないため、学園にお世話してもらったということだ。
もちろん、病院には定期的にいかなくてはいけない。
主に、記憶と生活に関心がある担当先生の話しを聞きにいくだけではある。
次の日。
「おはよう」
「おはよー」
とおやくんと挨拶をしたあとは、ゆっくりと学校の授業をこなしていき、まだ名前が曖昧な友人たちとの、おしゃべりを過ごしてから、放課後の部活時間とやらを楽しみにしている。
いまのところ、魔法の出番はない。
部活時間、とおやくんに連れられて、演劇部が練習場所にしているという体育館にいった。
そこで、りーあは目を奪われることになった。
始まりに、発声練習があり筋トレがあり、そのあと演技の練習がはじまった。
照明室で操作している、とおやくんから
「今日はエチュードだよ」
と教えられた。
舞台のはしから眺めていると、とたんに騎士と王女になった二人が、物語を展開していく。
妖精として暮らしていながら、こういった舞台は、ほとんど見聞きしたことはなく、とても新鮮だ。
思わず演技が終わったあと
「すごーい」
声をあげるとすぐあとに反省会がはじまり、まだまだ演技が足りないという内容だった。
これでも演技はまだまだなのか、と妖精心に驚いてしまう。
とおやくんも照明を終えて、体育館舞台上に降りてきたため
「すごいね、演劇部。やってみたくなったよ」
「りーあさんなら、歓迎だよ」
と言ってもらう。
「ええ、いいのー? 本気でやろうかな」
「ひとが増えるのは歓迎だよ。できる脚本も増えるし」
「もしかして、脚本も創ってるの?」
「そうだよ」
「とおやくん、多才なんだね」
そう言って、とおやくんの肩を叩いた。
その瞬間に、覚えている魔法スキルが発動した。
これは預言者レポートのスキルだ。
それは、とおやくんがどこかのビルから転落する魔法視だった。
思わず魔法視したことによるショックで、目眩をおこしそうになる。
とおやくんが
「大丈夫?」
と聞いてきた。
とりあえず
「え、うん大丈夫だよ」
りーあは答えるも、ショックが大きくて、変な態度をとってしまう。
久しぶりに使った魔法は、預言者レポートだった。
この魔法スキルでは、預言者レポートにかかれた映像をみてしまう偶然性が高い魔法だ。
MSPが減っているため、やはり魔法の効果だ。
でもまさか意識しないで使うなんて。
この効果は一年間だ。
つまり、一年間のどこかでとおやくんがビルから転落するのだ。
部活は、続いて次の組の演技に入るらしい。
とおやくんは照明室に戻っていく。
わたしは、ひと通り見学しているが、つい上の空だ。
部活帰り
「わたし演劇部に入ろうかな」
言うと
「わかった。嬉しいなぁ」
とおやくんが言ってくれて安心するが、その後不安にかられてしまう。
いつの未来を観たのだろうか。それがわからないのが、このスキルの欠点だ。
次の日金曜日も、演劇部の練習があった。
今日は照明室での見学にしてもらった。
部活届けはもらってきたため、提出は月曜日にしよう。
しかし、その前にやることがある。
照明室で、とおやくんと二人になったところで
「リリラリルム リミルレレルラ」
魔法を詠唱した。
転生魔法だ。
妖精言葉で発するため、とおやくんには、外国言葉に聴こえたらしい。
「いまのどうしたの?」
ときかれて、魔法だよ、といいかけたが思いなおした。
「外国語の練習してるんだ。いまのはリリィリミラ語の一つなんだ」
妖精なことをいう。
こうして、MSPをほぼ使いきってしまった。
転生魔法には、MSP (マジックスキルポイント)を999使いあと残りは1pだ。
MSPが1pになると、あとは、上限オーバースキルをいつも使う。
通常1000のポイント上限があるところ、この上限オーバースキルを使うことで、一時的に0pになるが、現時点の最大1540pまで上限魔法スキルポイントが引き上げられ使えるようになる。
あとは、MSPの自動回復待ちだ。
これでとおやくんは、いつ預言のとおり死んでしまっても、転生することになる。
転生魔法は "わがまま" だ。
そう、だから、これはわたしのわがままだ。
とおやくんには、もしいまここで死んでも、また生きて次を見つけてほしい。
「はい、これあげる!」
とおやくんにアイテムをわたした。
それは花の形をデザインしたネックレスだ。
「お礼にあげる。少しおまじないもあるから、なくさないでね」
そのあとは、照明室で部活見学をした。
月曜日、朝に部活届けを提出した。
朝のホームルームが終わったあと、とおやくんに会って、部活届けをだしたことを言ってみた。
喜んでくれたようで
「よろしくね」
と言ってくれたことで、りーあは満足した。
妖精333年を生きて、転生して、九ノ葉学園の女子高生となったりーあは、演劇部所属となった。