第7話 朝早く来た志堂はロッカーの中で早百合の温もりを感じます。
4人集まれば卑猥の知恵。
監禁、Mプレイ、使用済みコンドー○等々。
様々な研鑽された学習発表会となった、志堂への嫌がらせ話は
ロクな成果を上げらなかった挙げ句、
早百合にしばき倒される結果に終わり、そのまま数日が過ぎた。
「その間に花瓶は増えやがるし。」
それ以降も志堂への風当たりは変わらない。
そればかりか少し強まったまであり、菊の花の量は増えていないものの
花瓶の本数が3本まで増えた。
沢山置けば効果があるというような物か、アレ。
志堂は疑問に思ったが、それを見た早百合と円華は非常に苛立った様子。
まだ何か考えていないのか、という厳しい視線を送られる日々。
「まぁ誰にも気づかれないように花瓶を置くっていうのは、
恐らく朝早く来るか、遅くまで残ってる人間だろう。」
志堂が来る頃には毎朝置かれているそれ。
早百合も円華もそれを誰が置いているかはわからないらしい。
どこの誰かは分からないが、取り敢えずそれを止めれば、
あの厳しい視線から逃れられると思った志堂は、取り敢えず朝イチで
学校に来て、教室の様子を観察してみることにした。
「おはよーございますーーってまだそりゃ誰も居ないな。」
誰も居ない教室からいち早く自分の席を見る。
まだ花瓶は置かれていないらしい。
ということはこれから犯行現場が始まるということだ。
「まぁテンプレート通りならここだよな。」
志堂はカバンを教卓下に隠すと、自分も身を隠せて尚且つ
教室を観察出来る場所を探した。
それは教室の一番後ろの角。掃除用具がしまってあるロッカーである。
まさか学校生活で○タルギアごっこをするはめになるなんて。
青春生活の一部にこんな所に入ることに対し、若干の後悔や気の引ける思いを
ため息に吐き出して、志堂は躊躇なくロッカーを開けた。
「……お、おはよう。」
偉い美人がそこに居た。
それも見覚えのある美人だった。
落胆、疑問、失念、無念。様々な思いを取り敢えず抑えて、
志堂はロッカーの扉を閉めた。
「失礼しました。」
「なんで閉めるの!?」
「まさか掃除ロッカーを
開けてしまったことをこんなに後悔する日が来るなんて。
そんな気持ちにさせるお前はスゴいぞ。」
「ちょ、いいから開けて!!
檜山くんは誤解をしてる!!」
「よし、狭間早百合入ってますって張り紙しとくから。
存分によく分からない趣味を楽しんでくれ。」
先程まで自分が入ろうとしたことを棚に上げ、
志堂はノートとセロハンテープを探し出したその時、廊下から足音が聞こえた。
まずい、誰か近づいてくる。ここで見つかったら犯行現場を抑えられない。
どこか隠れる場所を必死に探すものの、すぐに見当たる場所はこの目の前の
ロッカー(先住民入り)だけだった。
志堂は覚悟を決めるのだった。
「はぁ、ようやく開けてくれた。
取り敢えず説明をーー。」
「話は後だ。中入るぞ!!」
「え、ちょ!?」
肯定とも否定とも聞こえない台詞を無視し、
志堂は狭いロッカーの中に入り込んだ。
「近い近い近い近い!!
なんで入ってくるの!?」
「仕方ないだろ!
他に隠れる場所がなかったんだから!」
「あ、やっ!
変な所に手を回すな!!」
「うるさい。誰か近づいてきた!
黙って大人しくしててくれ。」
「ーーんっく!
後で覚えててよ!!」
掃除ロッカーはそもそも人を入れるために作られていない。
そんな中に二人で入るということは否が応でも密着せざるをえない。
まるで抱き合うような形で固唾をのまなければならないこの状況。
早百合の柔らかい肉体の感触や温もりが志堂の煩悩を刺激。
志堂は何とか歯を食いしばりながら我慢をした。
「クッソ。【ドMの優雅な日常 哲学編】は最高のオカズだが
濡れ場まで時間がかかるのがネックだ。眠たくて仕方ない。」
お前かよ。
志堂はガッカリと声にならない声を上げた。
浩二は野球部である。大抵どこの学校もそうであるように野球部に朝練は付き物だ。
浩二が朝練のために朝が早いことを志堂は思い出した。
「あ、荒木くん?」
「あぁ。アレがあのバカの正体だ。
野球部の真面目な部員って皮に騙されてたろ?」
「まぁ騙されてたというか、知らない一面ってだけ。なんか意外。」
おいおいギャップ萌えか。
しかしそれはギャップという言葉でフィルターがかかるほど
浩二が真面目に部活をやっている証拠だろう。
「まぁ俺も学校一美人で真面目な女の子が、
思っているより暴力的だという一面を知ったばかりだし。」
その瞬間志堂の首に早百合の指が食い込んだ。
頸動脈ダイレクトアタック。志堂はその殺意満々の細腕を握って何とか脱出した。
「バレルだろうが!」
「ごめんなさい。つい手が滑ったの。
出来ればもう5分程滑りたいんだけど。」
「死ぬから止めろ。」
そんなやり取りをしているウチに、浩二は部室へと向かっていった。
ふーーと二人して息を吐き出した。
「そう言えばなんでこんな朝早く学校に来てるの?
檜山くんいつも遅いよね?」
「花瓶を不法投棄するバカを発見するためだ。
どっかの誰かがまだ作戦出ないのって視線送ってくるからな。」
「早く作戦練らないから、そのどっかの誰かがもう檜山くんに期待しない
ってなって、朝から掃除ロッカーに立てこもってたんだど。」
どうやら早百合の結論は志堂と同じ答えに達したらしい。
何故そこまで自分に関わってくるのだろう。
志堂は不思議でならなかった。
「なぁ狭間。明らかにやり過ぎだ。
なんでここまでしてくれるんだ?」
「花瓶の数が増えたの見て腹が立ったの。
見てて不愉快だし、アレ見てから円華も余計に凹んでる。
私、結構突発的に行動しちゃうタイプなの。」
プリプリと怒りながら早百合は言った。
「友達思いのいいやつなんだな。」
なるほど、余程円華のことが大事らしい。
志堂は今後円華を怒らせないようにしようと心の中で思っていると
早百合は不機嫌そうに続ける。
「一応その中に檜山くんだっているんだよ。」
「は?」
「まぁ未だに檜山くんのことは理解できない部分多いけど、
それでもカテゴリー的には私の中ではもう友達だよ。」
早百合の大きな瞳にじーーっと睨まれる。
志堂は思わず頭をかいた。
過ぎたる言葉を。
しかし反論は出来ない。
「そ、そりゃどうも。」
何かを誤魔化すように志堂は呟いた。
全く人たらしだ、この女は。
そんなことを思っていると、教室に1人の男がやってきた。
「狭間。来たぞ。」
二人は息を殺した。
その息はピッタリだった。