第6話 志堂は作戦を練るものの、結局早百合にしばかれます。
時間は悠然と過ぎて放課後。教室に残る志堂は浮かない顔をしていた。
「まぁやりますか、なんて威勢の良いこと言っておきながら、
一体どうすりゃいいんだよ。」
クラスに蔓延る雰囲気を変える、即ち民衆の心を揺り動かす王様の真似事。
そんな先導力やリーダーシップを持ち合わせなければ出来ない所業、
勿論志堂には不可能だった。
「まぁ見せしめっきゃねぇだろう!」
最も簡単な案を、楼は提案してきた。
志堂に嫌がらせを行っている人間を見つけ出し、晒し者にする。
極めて単純で効果がありそうな案である。
「向こうも反撃してきたら死ぬほど面倒臭いな。」
「そりゃ反撃出来ないぐらいの一撃をかますんだよ。」
「反撃出来ないぐらいの一撃?」
志堂は思わず聞き返した。
楼には何か考えがあるらしい。
「ここに俺の使用済みのコ○ドームがあってな。」
「頼むから捨ててくれ。お前と俺の人間関係に亀裂が走る前に。」
速攻魔法発動! こいつの口を黙らせる。
なぜ恥ずかしげもなく使用済み○ンドームを持ち込めるのだろうか。
志堂は思わず頭を抱える。
「悪ぃ悪ぃ、お前の気持ちを考えれてなかったぜ。」
「理解してくれたか?」
「おう。やっぱ復讐するには、自分のじゃなきゃダメだよな。」
徐に郎が差し出したうすうすパッケージの箱を
志堂は受け取らずにそのままゴミ箱へ捨てた。
ダメだコイツ。早く何とかしないと。
「お前こんな復讐してみろ。教室中に白い目で見られるわ。」
「ちぇ、だめか。いい案だと思ったんだけどな。」
流石歩くアダルトコーナー。異名に違わぬロクデナシの案だ。
志堂が呆れていると、次なる思想が飛び込んできた。
「ひーやん、そういうことなら僕に任せてよ。」
「あぁーー。優かぁ。」
今週一番の笑顔で、童顔小僧がやってきた。
鬼畜美少年、ハードSMモノの貴公子、
2−Bのサディズム担当こと朝比奈 優だった。
コイツが満面の笑みとか、本当にろくでもないことしか言わないからな。
志堂は一抹の不安を覚えながら、取り敢えず話を聞くことにした。
「んで、優は具体的に何をするんだ?」
「まずは犯人と一番仲の良い人を監禁するんだけど。」
「うん、もうアウトなんだけどな。取り敢えず最後まで聞こう。」
「いいかい、人っていうのは自分を傷つけられるより、親しい他人を傷つけ
られる方が精神的に来るんだよ! ntrとかntrとかntrとか!」
そこから優は具体的にどう責めるかを嬉々として語りだした。
「まずは手始めに、目隠し正座だね!
視界を奪って固い地面に正座させるんだ!
自分たちは出ていったフリをしてその様子を見守っておいて、
少しでも正座を崩した瞬間、バラ鞭でびしーーっとお仕置きするの!
そうすると相手は見えないから、いつまでも理解できない状況の中で
苦しい思いをするんだ。そこからーー」
「誰かコイツに人権を教えてあげて下さい。」
「あぁー! まだ僕のSMフェイズは終わってないよ!」
「八○烏を使ってでもスキップさせたいぜ。」
このままだと本当に可愛い顔してずっと僕のターンを続けてきそうな
優をなんとか抑えて志堂は話を止めた。
なんでしれっとSMの話になってるんだよ。
こうして第2の案が消えた所で、次なる刺客が表れた。
「呼ばれた気がしてな。部活をサボってきてしまった。」
「呼んでないから部活に帰ってくれ。」
もう絶対話とか分かっていなのにやってきたのは、野球部次期部長候補、
生粋の被虐願望者、白球のドM球児こと荒木 浩二だった。
野球部のユニフォーム姿にて肩で息をしながらやってきたこの男は、
本当に部活を抜けてきたのだろう。顧問の先生、コイツに次期部長を
任せることだけはやめてくれ。志堂は心の底から願った。
「そもそも犯人を締め出そう、懲らしめようという
コンセプトが間違っているのだ貴様ら。
女はSもMも産めるが、争いや憎しみは同じものしか産まんのだ。」
「まぁ比較対象がおかしいけど。
なんだか真っ当な意見を言ってるな。」
「志堂、騙されんな。
アレは頭がおかしい。」
「お前に言われたら身もフタもねぇよ。」
建設的な意見が出てくるか否かは、さておき、志堂は続きを促した。
「志堂、貴様の不満はよく分かる。否! 俺にしか分からないだろう。
ハッキリ言ってくれ、あんなものでは物足りないんだろう!!」
「誰かコイツの頭を金属バットでかち割ってくれ。」
「貴様は学園のMガンディーになるのだ!
非暴力! 不服従! 右の頬を殴られたのなら、
左の頬を恍惚とした表情で差し出せ!
さすれば楽園が導かれん!! by 荒木浩二。」
「歴史的偉人も信仰対象イエス様も浩二を前にすると型無しだぜ。」
志堂が無言で鈍器のような物を捜索し始めると、
新興宗教家球児は颯爽と消えていった。
早々に熱心な信者に抹殺されますように。
志堂は念入りにお祈りをする。
「なんか知らねぇけど、取り敢えず濃厚でベトベトな案は一杯出たな!」
「卑猥な比喩表現止めろ。」
それとなく今の話をノートにまとめだす志堂。
花瓶を置いた相手へ、自分の種入りコンドー○を渡し、
相手の一番大事な人間を監禁し、正座を崩したらバラ鞭でぶっ叩き
右の頬を殴られたのなら、左の頬を恍惚した表情で差し出せ。
「これのどの辺が案なんだ?」
カオス過ぎる中身に、楼も優も思わず苦笑いで反応した。
それはまるでサイコパスが書いた世紀末小説のプロットである。
やはり志堂とロクデナシ達は性癖を間違っている。
呆れながらノートを閉じようとしたその時だった。
「おーー檜山!
なんか良い解決方法見つかっ……」
コンドー○、バラ鞭、恍惚。思わず女子高生が目を見張る文字の羅列。
ノートを目にした円華はそれは石像の如くガチガチに固まった。
瞳は完全にゴミをみるそれ。
違うんです、竹千代さん。それは悪い解決法を書き出しただけなんです。
そう志堂が言うよりも。円華のが早百合を召喚する方が早かった。
「……檜山くん。
歯を食いしばって。」
「ちょ、ちょは、狭間!」
「あ、志堂、後は若いモン同士任せるな!」
「ひーやん。また会おうね、生きてたら。」
「お、お前ら逃げるんじゃねぇ!!」
「檜山くん!!」
屠殺前の鶏によく似た悲鳴が放課後の校舎に響き渡った。
楼と優は背後から聞こえる声に、アイツもあんなふうに叫ぶんだ。
と後に述懐している。
逃げ惑う志堂、追いかける早百合。後にのたうち回る志堂。
パイプ椅子を持ち出す早百合。さながら阿鼻叫喚の地獄絵図。
されどその様を、まるで濁った視線で見る者もいたのだった。