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檜山志堂の黙示録  作者: 山犬
プロローグ 
3/11

第3話 家を叩き出された志堂はファミレスで早百合からグーパンチをプレゼントされる。

「ーースイマセン、ドリンクバー二つにカルボナーラパスタとサラダを一つ。 

 んで、後なんだっけ?」


「エスカルゴの塩バターボイルと、ソーセージ盛り合わせ一つお願いします。」


「ご注文は以上でよろしかったですか?」


「お願いします。」


家を叩き出された志堂は仕方なく、早百合を連れて近所のファミレスに行った。

それにしても飲み屋のオッサンかよ。

塩っ辛いものばかり注文する早百合に思わず志堂は怪訝な表情で見つめた。


「え、なに?」


「いや、塩分高そうなもんばっか食べるんだなと。」


「高血圧の心配してる?」


「そんな訳ねぇよ。」


早百合は家に着た時とは対象的に、至って普通の感じになっていた。

先程までの塩らしさは料理に吸い込まれたのだろうか。

などと下らない疑問が志堂の中に芽生える。

最も早百合とは友人と呼ぶほど仲が良い訳ではないので、平常運転時の彼女のことなど

志堂は知らないのだが。


「それより檜山くんはとてもサラダも頼んでとっても健康的だね。」


「サラダ頼んだぐらいで健康的ってのはどうなんだ?」


「私ファミレスでサラダ頼む人って、筋肉信仰主義の運動部か、病弱で健康主義の文化部か

 動物愛護主義のベジタリアンのどれかだと思っているんだけど、檜山くんは

 どのカテゴリーの人なの?」


「偏見にも程があるだろ。

 俺は健康的で文化的な最低限度の生活を営む日本国民だ。」


「へぇ。真面目なんだね。」


そう言いながら、早百合はデザートのページを熱心に見始めた。

そんな姿をまじまじと見つめ、志堂は現在の状況に困惑を覚える。

相手はあの狭間 早百合だ。

透き通るように白い肌、くっきりとした大きい二重の瞳、きっとお高いシャンプーやリンスで

長年手入れされてきた、綺麗な黒髪のロングのストレート。

学校一の美人とも称される早百合と、よもや自分が二人きりでファミレスに来るなんて。

一体どこの神様がこんな風を運んできたのだろう。

そんな風に思っていると、早百合と視線が合った。


「ちょっと、見すぎ。」


「すまん、学校とは雰囲気が違ったからな。」


「あ〜。ちょっとラフすぎたかな。デニムにパーカーって。」


「注文するものも塩分高めだし、てっきりパスタとか頼むのかと思ってた。」


「檜山くんって女の子がおトイレに行かないって思ってるタイプじゃない?

 今日日の女の子は肉食だよ。例え勉強できても、先生からの信頼が厚くても

 いつも笑顔で笑っていても、それって全部私のほんの一部。

 つまり今日デニムにパーカーっていう女の子っぽくない普段着も、塩っ辛い

 お酒のつまみみたいなものを頼むのも私のほんの一部ってこと。ちょっと幻滅した?」


「まぁハイキックで側頭部蹴り飛ばされたから、もう幻滅しようもないんだけどな。」


しかし見事なハイキックだった。未だに蹴られた側頭部が少し痛む。

若干の怒りを感じなら今日のハイライトを志堂が思い出しているその刹那だった。


「ーーあの時はごめんなさい。 」


狭間 早百合が深々と頭を下げた。

一瞬なにが起きているのか理解するために、志堂の側頭部の痛みは一瞬で引いた。


「友達が檜山くんに傷つけられたと思って、冷静じゃない時にあんなものを見て

 気が動転したとは言え、私、あなたを傷物にしてしまった。

 本当にごめんなさい。」


「いや傷物とかお前が言うな。」


早百合は頭を下げたまま動かなくなった。

学校一の美人というレッテル越しにみていたその背中は、とても大きく見えていたのに、

今背中が見えるほど塩らしく頭を下げるその姿に、先程までの怒りはすっかり霧散した。


「あの後円華から話聞いたの。

 亡くなったお母さんに変わって、お家のこと頑張ってるって。

 あの娘も悪気があって聞いたわけじゃないから許してほしい。」


「お、おい。もう顔を上げてくれ。

 周りの視線が痛いから頼む。」


傷物。謝罪する女の子。そして徐々に弱々しくなる声。

その3点セットの登場に、周囲から志堂に疑惑の視線が飛んできた。

なんだか今日は本当に厄日らしい。せっかく向こうが謝ってくれているというのに

志堂の心があまり晴れた気にならなかった。



「ーーちょ、狭間。俺は。」


「お待たせ致しました。

 ご注文のパスタとサラダ。エスカルゴにソーセージ。

 それとこちらのパンケーキの生クリーム添えはサービスになります。」


早百合に返事をしようとするタイミングで、注文を持ってきた店員に遮られてしまった。

おまけに気を使われたのか、パンケーキまでこしらえての登場に、志堂は頭を抱える。


「と、とりあえず飯にしよう。腹減ってるし。」


「う、うん。」


志堂は急いでパスタを啜った。正直パスタの味は全く分からなかったし、

サラダはドレッシングも無しにかきこんだ。

早百合はまだ食べている様子なので、ドリンクバーに行き、二人分のコーヒーと

一人分のミルクと砂糖を持って戻った。


「檜山くん食べるの早くない?」


そう言うとようやく早百合はデザートのパンケーキにかぶりついた。

口元が生クリームでベットべとで、唇が妙にテラテラして艶めかしい。

視線を外しながら、志堂は返事をする。


「そ、そうでもない。

 それより食べながらで聞いてくれ。」


「う、うん。」


「俺はもうそんなに気にしてない。

 母親のことを聞かれたことも、こっちから言い出したことだし。

 竹千代にもそういう風に行っておいてくれ。

 それにハイキック喰らった時に狭間の下着が見えてたから、この件はそれで相殺ということで。」


「下、着……?」


その瞬間大地が揺れた。

ゴゴゴゴゴ。いや大地が揺れているのではない。

志堂の前に居る早百合が大気を揺らしているのだ。


「あ、いや。俺も下着の色は忘れるから、お前も俺を蹴り飛ばしたことは忘れろっていう。」


「へぇーーーーーーーーー。

 あんな破廉恥なものを見せられて凄くショッキングだったけど、それを水に流して

 謝りに来たのに。私の下着をしかも色を覚えるぐらいガン見してたんだーー。」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!


「い、いや待て、狭間。

 あのアダルトビデオは……!!」


その瞬間、早百合の拳が志堂の顎にクリーンヒット!

会心の一撃、志堂はブザマに倒れた。


「グッハ!!」


「この一発はぜーーたい謝らないから!

 これから檜山くんのことはそういう目でみる!

 晩ごはんごちそうさま!!」


そういうと足早に荷物をまとめて早百合は去っていった。

前言撤回。絶対下着の色だけは覚えておく。

そう心に決めた志堂の元に、先程注文を渡してきた店員が近づいてきた。


「お客様。先程のサービス分。

 やはり注文分にさせていただきますね。」


「お、おう。」


そのまま机に突っ伏した志堂にとっては、もうどうでもいいことだった。

帰宅後、顔を晴らした息子をみた志士雄は、死ぬほど笑ったらしい。



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