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檜山志堂の黙示録  作者: 山犬
プロローグ 
2/11

第2話 突然表れた早百合に志堂は渋い対応をすると、父親の志士雄が志堂をぶん殴った。

「ーー全く今日はエライ目にあった。」


スーパーで買った卵でオムライスを作りながら、志堂は今日あったことを思い出していた。

狭間 早百合。無論その存在は志堂も知っていた。

学校一の美人で容姿端麗。頭脳明晰。上品華やか。いつも華やかに振る舞い、

誰に対しても笑顔を絶やさず、常に成績上位。美人の優等生というイメージしかない

存在の女の子がアレだけブチギレるとは。

まぁそれだけのことをしてしまったということなのだが。


「ていうか話ぐらい聞けよな。」


炒め終わった米にケチャップをかける。

確かに思いにもよらない嘘で円華に変な気遣いをさせてしまったのは自分だが、

誤解をしたまま突っ走ってきた挙げ句、より大きなものを暴いてきたのは

早百合のせいだった。

最も悪いのはあのロクデナシ共4人なのだが。


「たでぃまーっと、うぉー志堂。今日オムライスか。」


只今絶賛傷心中の志堂の元に父親である 志士雄が帰ってきた。

志士雄はトラックの運転手で、昼夜問わず走り回る仕事人で、

この時間の帰宅はとても珍しいことだった。


「おうおかえり。

 ってか早いんだな今日は。」


「おう、息子が女の子に左側頭部を蹴り飛ばされて帰宅しましたって

 学校から連絡があったからな。」


おい親父まで伝わってるのかよ。

志堂は思わずオムライスを作る手を止めてしまった。


「まーったく、女の子にKOされるとはな。

 心配やら面白いやらで、仕事サボって帰ってきちまったよ。」


「っち。なんでそんな連絡よこすんだよ学校も。」


「そりゃ連絡ぐらいよこすさ。

 お前30分気絶してたらしいしの。」


部屋着に着替え終わると、志士雄は早々に仏間へ向かった。

これは志士雄の日課である。朝仕事に向かう前に線香を上げ、夜帰ってきてから

再び線香を上げる。

曰く死んだ母さんへの行ってきますと、ただいまらしい。

その後ろ姿を見ることが、志堂は少し苦手だった。

トラックの運転手で、自分よりも遥かにガタイの良い父の背中が

何故か小さく感じるからだ。

「母さん。ウチの息子、女の子にKOされたそうな。」


「んな報告するんじゃねぇよ!」


その背中に文句を言うと、志士雄は凄く笑っていた。

そんなに面白いか、自分の息子が教室でavをばらまいた末に女の子にハイキックをもらい

ノックアウトされて早退した事実が。

思わず睨むと、志士雄は悪びれることなく言うのだった。


「いやな、父ちゃん嬉しいんだよ。」


「はぁ?」


「お前は手がかかんねぇ子だったからよ。

 小さい頃から何も言わんでも家事こなすし、勉強もそつなくこなすしな。

 誰か弱いものをイジメたり、親に反抗したり、学校のモンぶっ壊したり、

 店の品物パクったりとか、そんなこと一切しない。

 でも子供は子供なんだ。少しも曲がんないことがちょっと心配でもあってよ。

 だからそんなお前が初めて学校から連絡くるようなことがあったって聞いて、

 志堂もやっぱちゃんと人間なんだなって、ちょっと安心してよ。」


「ったく、訳分かんないこと言いやがってよ。」


「まぁおめぇも子供が出来りゃあ分かるってもんよ。

 んで、今日の出来事は痴話喧嘩だったんか?」


「いや全然ちげーっての。

 なんだ。俺もよく分かんねぇんだよ。」


「そっか。じゃあしょうがぇな。

 手あげてねぇんだな?」


その瞬間だけ、志士雄の瞳は真剣さを帯びた。


「……あぁ。俺が勘違いでボコられただけだ。」


「そっか。じゃあしょうがぇなぁ。」


それだけ言うと再び志士雄は仏壇に手を合わせた。

そのどこか満足げな表情に、志堂は少し安心をした。


「さぁて。もうちょい頑張るか。」


父親の姿を視界から外し、

再びフライパンに向かい合ったその時、家のインターフォンのベルが鳴った。

タイミング悪いなぁ。そう思いながら、志堂は玄関へ向かった。




「ハイ。セールスなら間に合って……。」


志堂は硬直した。

そして同時に怒りがこみ上げてきた。


「あの、檜山くん。」


玄関に立っていたのは、あの狭間 早百合だった。

いつもにこやかで明るい美人の表情が、この時はもの凄く暗く、一見でも落ち込んでいるのが

志堂にも伝わってきた。


「なんで家知ってんだよ。」


「学校の先生から。」


個人情報もクソもないな。まぁあの狭間 早百合が相手で、その先が檜山志堂ならば

仕方がないものか。

思わず志堂はため息をついた。


「優等生ってのは、こんな時も優遇されるのか。」


「へ?」


「いやなんでもない。

 今俺は晩飯を作るのに忙しくて、お前に構ってる暇はない。

 悪いけど明日にしてくれるか?」


そう言って志堂は玄関を閉めようとすると、後ろから志士雄にぶん殴られた。

ゴン。鈍い音が部屋に響く。


「おいバカ息子。別嬪な嬢ちゃんが困ってんだろうが!!」


「痛ぇよバカ親父!!

 俺は晩飯を作るのに忙しいんだ!!

 後ちょっとでオムライスが出来る寸前なんだよ!!」


「オムライスぐれぇ後でなんとでもなるわい!!

 いいからとっとと行ってこい!!

 込み入った話なんだろ?」


志堂は首根っこを掴まれると、そのまま部屋の外へ放り出された。


「お嬢ちゃん、ウチのバカ息子が待たせてすまねぇな。

 女より我が家の晩飯を作りを優先するような大バカに育てちまって。

 俺の教育方針が悪かった。今日は遅くなっても大丈夫だから、このバカを

 こき使ってやってくれ。」


「おい親父! 何勝手なことを言ってんだ!!」


「志堂! ちゃんとその娘を家まで送るんだぞ!

 途中で帰ってきてから、俺達の愛の結晶は不甲斐ない育ち方しちまったって

 仏壇の母さんに報告するからな!!」


そう言うと志士雄は玄関の戸を閉めてしまった。

なんて脅し文句してくれるんだ。

志堂はどっと疲れがたまった。


「檜山くん家。なんか面白いね。」


「はぁ。」


どこかだよ。そうツッコむ気さえ、今の志堂にはなかった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「母さん、志堂のやつにとびっきり可愛い女の子の友達が出来おったぞ。」


笑いながら、志士雄は仏壇に手を合わせるのだった。


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