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バッドエンドまっしぐら?

「お義兄さま、そんなに怖い顔をしないでくださいませ。ニュイランドさまはただ、わたくしたちの仲の良さについて尋ねたかっただけですわ。そうですわよね?」

 義兄をたしなめながらソルユアに聞けば、ソルユアはこくりと小さく頷いた。私はそのままにこりと笑みを浮かべ、

「別にお話するのは構いませんが、どうしてニュイランドさまはわたくしたちの仲が気になるのですか?」

 と、とりあえず私が質問に答えるまでの時間を稼ぐ。


 本当に不思議だった。わざわざこれを聞くためだけにレティーナに仲介役を頼むだなんて、私と義兄の仲が良い事になにかあるのだろうか。

 それに、きっとソルユアは勘違いをしている。だって、私は別に優秀さを隠していた訳でもないし、暴露した訳でもない。

 本当に勉強から逃げるような駄目な令嬢だったし、全属性になれたのも肉体改造しまくったからだ。しかも、私が全属性だと公開したのは家族だ。私は家族以外に自分が全属性だと言ったことはない。

 だから、どうして今まで隠していたのかと言われても答えられないし、どうして暴露する気になったのかと言われても、ただ家族が魔研へ行くためにそうした方が良いと思って勝手に暴露しただけだとしか答えられない。

 でも、きっとこれはソルユアが求めている答えじゃない。下級貴族であるソルユアが、わざわざ仲介役を頼んでまで実現させたかった私とのお茶会。いつもの毒舌を封印して、高そうな服を着てきて、失礼が無いようにと気を遣ってまで開いたお茶会。

 ソルユアの欲している答えはなんだ。そうまでして知りたかった事とはなんだ。考えろ、私。

 せっかくの可愛い推しとの初対面、少しでも彼女にとって良いものにしたい。


 ぐるぐると頭の中で最適解を探していると。ソルユアは私の質問に少しだけ表情を曇らせ、視線を私からテーブルの上に置いてある紅茶へと下げた。

「……それは、姉と少しでも仲良くなりたいから……です」

 消え入るような小さな声でぽつりと溢したその言葉を、私は、姉?と首を傾げて繰り返す。ソルユアは紅茶に移る自分の顔を眺めながら、こくりと小さく頷いてゆっくりと話し出した。

「はい。……私には、四つ上の姉がいるんです。桃色の長い髪が美しい、素敵な姉。……姉とは仲が悪く、いつも避けられていて。でも、今度姉は結婚するんです、中級貴族の男性と。だから、もう会えなくなる前に、もう少しでも距離を縮められたら、と……」

 弱々しく紡がれた言葉を聞き漏らさないよう、しっかりと耳を澄ませてソルユアの言葉を聞く。しかし、ソルユアが話し終わった直後、私は鈍器で頭を殴られたかのような錯覚に陥り、つい、

「なんですって!?」

 と声を上げてしまった。衝撃的すぎて声が裏返り、一気にその場はシンと静まり返った。

 急に素っ頓狂な声を出した私に、驚いたような顔をしてみんな見つめてくる。でも、私はそんなことに構っていられず、いそいでソルユアに質問を投げかけた。

「それはいつのことですか!?いつ姉が結婚するのですか!?」

 急に前のめりになり、声を大きくして尋ねる私に若干引きながらも、

「結婚式の日取りはまだ決まってはいませんが……お見合いをしたのが二週間前なので、もうすぐかと」

 と答えるソルユア。

「二週間前!?」

 また私は素っ頓狂な声を出し、そこから思考の海へと飛び込んだ。


 ソルユアの姉が二週間前にお見合いをしたというのなら、一ヶ月後……つまり、あのイベントは三週間後にやってくる、ということだ。それはつまり、ソルユアがハッピーエンドに行くか、バッドエンドに行くかはこの三週間で決まるってこと。

 あぁ、なんてことだろう。まさかソルユアがもう分岐点にさしかかっていただなんて。まだ猶予があると思っていた。

 だって、ソルユアが運命の出会いを果たすのは十七歳になってからで、姉の結婚イベントはまだ先だったはずだ。だから私は気にせず魔研ライフを楽しんでいたというのに。二週間も出遅れてしまうだなんて。この二週間はでかい。


 しかし、もうイベントがスタートしているということは、とりあえずソルユアはアリステラとくっつくことはない。流石に残り三週間で、ソルユアからの好感度を姉以上に上げるのは無理だ。

 義兄のハイスペックとイケヴォがあればどんな令嬢でも即恋に落ちる自身はあるけれど、真の主人公はそう簡単に落ちない。それに、義兄もソルユアに好印象を持っていないみたいだし、ソルユアの生死がかかっている以上、危ういルートは選択出来ない。

 となると、あとソルユアを救える可能性があるのはフォスライナ、シューベルト、リューク、ラグトルの四人だ。


「ニュイランドさま。フォスライナさま、シューベルトさま、リュークさま、ラグトルさまに会ったことは?」

「え……ありませんが」

 私の急な質問に、怪訝な顔をするソルユア。でも、ここで止まってはいけない。ソルユアの生死がかかっているんだ、変な奴だと思われようが、構うもんですか。

「では、好きな方は?この人素敵だなと思った方はいますか?」

「はい……?いません、けど」

「では、今一番仲良くなりたいのは、貴女の心を占めているのは、姉一人ですか?」

「……はい」


 うわああああ、なんてこった!!!

 私は最悪の回答に、思わずそこがお茶会の席であることを忘れて、テーブルに肘をつき頭を抱えてしまった。

「ルナディール!?」

「ルナディールさま!?」

 義兄とレティーナが驚いて声を上げるが、放心状態の私には届かない。私の頭は今、どうしよう、で埋め尽くされていた。


 つまり、ソルユアは誰とも運命の出会いを果たさずに分岐点まで来てしまったということだ。このままだと、姉が自分の婚約者をソルユアに奪われるかもしれないと誤解し、ソルユアを嵌めて家から追い出してしまう。そんなことしようだなんて、姉大好きなソルユアが思うはずがないのに。

 しかし、姉が誤解するのも仕方がない。だって、ソルユアはこの世界の主人公にふさわしいほどの優れた能力を持っているのだから。


 ソルユアは光魔法に優れた天才少女だ。万物の傷や病を癒やすことが出来る力を持ち、さらには闇属性以外の魔法も難なく扱えてしまう。きっと私より魔力量は多いし、魔力の扱いに長けている。

 それに、万物の傷や病を癒やす、だなんて並大抵の人間に出来る事じゃない。私だって多分無理だ。多少の怪我なら私にも治せるけれど、流石に出血多量で死にそうな人間を完璧に癒やすことなんて出来ない。そんな神がかったことが出来るのが、ソルユアなのだ。

 作品では語られていなかったけれど、今同じ世界にいて、魔法の勉強をした私になら分かる。きっとソルユアは、私の使いたい魔法……神聖魔法を使える、選ばれた人間だ。私もいつかは、とは思っているけれど、その道のりは長く険しい。

 きっと、光魔法の最終形態的なものが神聖魔法なんじゃないかなと私は勝手に考えている。だから私は、ソルユアが使っているのは光魔法なんかではなく、神聖魔法なのではと予想している。もちろんまだこの目で実際に見たことがないから分からないけれど。


 とりあえず、ソルユアはとても優れた天才少女なのだ。そんな妹がいれば誰だって不安になる。

 しかし、ソルユアは姉大好き故にその自分の力を偽っていた。自分が天才だと分かれば、きっと姉の立場はなくなる。そう考えたソルユアは、その膨大な魔力を制御出来ずに暴走させるという演技をし、自ら化け物だと呼ばれる環境に身を投じた。

 膨大な魔力を持ち、いつ暴走するか分からない娘。両親はソルユアを恐れ、気味悪がった。姉だけを可愛がり、ソルユアはいない者として使用人と同等に扱った。それでも姉だけは密かに彼女を心配し、可愛がっていたのだが……


 ある日、見てしまったのだ。ソルユアが自分の魔力を完璧に制御している姿を。それは、ソルユアが魔法の練習をしている時だった。複数の魔法を同時に使い、完璧に制御している。その姿を姉が見たとき、悟った。この子は今まで自分たちを騙し、化け物を演じていたんだ、と。

 そしてすぐにこう思った。どうして?と。自ら過酷な状況に身を投じるソルユアのことが分からなくなり、それが姉の中で一気に恐怖心へと変わっていった。それから二人は関わらなくなり……


 姉が婚約者を得て、自分の愛する人を見つけ。あとは結婚式を挙げるだけというところまできて。姉がソルユアと婚約者が二人で話す場面を見てしまい、姉は一気に不安に駆られた。

 もし、ソルユアが化け物じゃないと分かったら?もし、自分の能力をさらけ出したら?婚約者は、自分より優れたソルユアの方へ行ってしまうかもしれない。私が初めて愛した人を……ソルユアに、奪われるかもしれない。


 そう思ったら、もう不安でしょうがなくなった。だから姉はソルユアを陥れる計画をし、婚約者が奪われないようにと抵抗するのだ。

 そして、姉がお見合いをしてから丁度一ヶ月後……ソルユアは姉に陥れられ、家を追い出される。そしてソルユアは大好きだった姉に陥れられたショックで心を病み、自殺してしまうのだ。

「姉のために化け物を演じ、姉のためにひっそりと生きていたのに、どうして……どうして、私を信じてくれなかったの。どうして……姉に、ただ、幸せになって欲しかっただけなのに……」

 そう言って涙を流し、自らの魔法で死んでしまうのだ。


 これが、ソルユアのバッドエンド。それを回避するためには、この分岐点にさしかかる前に五人の誰かと運命の出会いを果たし、恋に落ちる必要がある。

 ソルユアが相手の心を解し、相手がソルユアに惚れ、アタックしていくうちに、ソルユアもだんだん心を許していく。そして、分岐点である姉のお見合いイベントが始まると、その人との愛を更に深め……追い出されて絶望しても、恋仲となったパートナーが彼女を支え、絶望から救い出す。そして、二人で手を取り合ってこの先の人生を歩んでいく。これがハッピーエンドだ。

 しかし、未だ誰とも出会っていないソルユアはたいへん危険な状況にある。だって、絶望から救い出してくれる人が存在しないのだから。

 あの幼馴染みとかいうトーヤって人に託すのも心許ないし、これはどうすれば良いのだろう。今から五人に出会ったとしても、ソルユアの性格を考えて一気に距離を縮めるだなんて出来そうにない。


 これは詰みなのか?ソルユアはこのまま死んじゃうの?いや、それは嫌だ、駄目だよ!!ソルユアは私の推しだもん、絶対に死なせない!

 これから毎日会ってソルユアとの友情を深めていければ、ソルユアが追い出されても、もしかしたら助けられるかもしれない。

 いや、でも追い出されたらソルユアはどこで生きていくの?さすがに私の家は無理だろうし……

 パートナーがいないんじゃ、例え心を救ってもソルユアが住む場所がないんじゃ……?

 うそでしょ、どうすれば良いの!?


 頭を抱え、ぐるぐると考えても考えても良い案は一向に思いつかず、私は助けられないかもしれない、と焦りだけが募っていく。

 頭がパンクしそうになっても良い案が思いつかず、私がぷはあっ!と勢いよく顔を上げると、ソルユアの後ろに控えていたトーヤが目に入り、私はつい顔を顰めてしまった。


 もし、あそこにいるトーヤがソルユアの心を射止めていたのなら、こう悩まなくても済んだかもしれない。だって、パートナーがいるということになるのだから。

 というか、どうして幼馴染みっていう知らない役職が増えたんだろう。トーヤは一体どこから出てきた。それに、幼馴染みで護衛という立場を貰っているのなら、もっとソルユアを守ってよ。こんな状態で分岐点まで進ませて……

 姉の陰謀ぐらいどうにかしてよ!ソルユアが追い出されないようにしっかりと護衛を……


 そこまで考えて、私ははた、と動きを止める。


 そうだ、そうだよ!トーヤなんて知らない人がポッと出てくる世界線だ、もしかしたら姉の陰謀だって止められるかもしれない。ソルユアが追い出されて助け出せる人がいないのなら、そもそも追い出されないようにすれば良いんだ!

 姉がソルユアを追い出そうとするのは、ソルユアが婚約者を奪ってしまうかも、という思い込みからだ。つまり、ソルユアにそんな気はなくて、ソルユアが姉が大好きなことが伝われば……バッドエンドは回避できるかもしれない!!


 ソルユアが自殺せずに済む希望を見いだせた私は、ぐっと思いっきり拳を握った。それからにっこりと笑顔を浮かべ、ソルユアに笑いかける。

「ニュイランドさま。わたくし、絶対に貴女と姉の仲を取り持ってみせますわ。今日わたくしと出会ったのも何かの縁。わたくしが必ず貴女を幸せにしてあげますから、心配しないでくださいませ」

 絶対に貴女を死なせないから、と強い決意を持って話すと、ソルユアは目を大きく開けて驚いたような顔をした。

「おいルナディール、本気か?ただでさえ忙しいのに厄介事を増やしてどうする。こいつの姉妹間の問題をどうにかするよりも先に、やることはたくさんあるだろう。お前の魔法研究所での身の安全の確保が先だ」

 義兄はすぐ私の言葉に反対し、顔を顰める。ニュイランドを見る目は厳しく、やはりアリステラルートはないなと確信しながらも、私はふるふると首を振る。


「いいえ、お義兄さま。姉と仲良くなれるかどうかは私なんかよりも遙かに大事な案件です。私は二人の仲が良くなるまで、それ以外の事は一旦全て放置します。二人の仲がどうやったら縮まるのか、これから必死に考えなければなりませんから」

 真っ直ぐと義兄の目を見つめ返しそう言い切ると、義兄は小さく息を呑んだ。どうして、と呟く義兄に、私は僅かに目を伏せる。

 パッと脳裏に浮かんだソルユアの悲痛な顔と叫びに軽く唇を噛むと、止められなかった言葉がぽろっと溢れた。

「……ソルユアが姉を大切に想っているのに、それが届かないなんて……そんな悲しい未来を、私は見たくない。……ソルユアが苦しむ姿を、見たくないよ。ソルユアと姉には、笑っていて欲しいもの」

「……」


 私の言葉は、静寂に満ちた空間にぽとりと溢れ、ゆっくりと消えていった。しばらく誰も言葉を発さず、沈黙が漂う。


 どうしてソルユアが、今になって私と出会ったのかは分からない。トーヤっていう謎の人物もいるし、誰とも運命の出会いを果たさなかった理由も気になる。それに、姉のお見合いイベントが予定よりも早く発生したことも謎だ。

 でも。もう現実では、ソルユアはバッドエンドかハッピーエンドへ行くかの分岐点まで来てしまった。誰とも出会っていない今、ソルユアの未来はバッドエンド一直線だ。


 もし、運命の出会いを果たせず、トーヤという人物が出てきたのが、私が前世の記憶を取り戻したからだったとしたら。過去の私の行いがそうさせたのだとしたら。

 それは、きちんと私が償わなければならない。姉と和解させて、作品では存在しなかった、姉と仲良くなるハッピーエンドにしてみせる。この世界があの作品通りにいっていないのだとしたら、新たなエンドを作ることは可能だと思うから。

 とりあえず今は、残り三週間でソルユアの未来を変える。

 それからゆっくりと自分の立ち位置や、ソルユアがどうして誰とも出会えなかったのかを知っていけばいい。


 私は顔を上げ、テーブルの上に置いてある紅茶を一口飲んだ。淹れてから結構時間が経ってしまったため、紅茶はもう冷めてしまっていた。

 私は冷えた紅茶を全て飲み干し、ことりとテーブルの上に置く。それから、戸惑った表情を浮かべるソルユアににこりと微笑んだ。

「では、ニュイランドさま。作戦会議を始めましょうか」

 私の言葉に、戸惑いながらも小さくこくりと頷いたソルユア。レティーナと義兄は、何も言わずにただ黙って成り行きを見守っていた。

想定より早く始まっていた、姉のお見合いイベント。何故か誰とも出会えないままさしかかった分岐点。ルナディールは突然の事態にとても困惑しますが、推しを救うために奮闘します。次回は作戦会議です。

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