とんでもない失態
「あぁ~~~、やっちまった……」
ルナディール様専用の部屋のソファに腰掛けながら、頭を押さえて嘆くと。
「一気に空気が重くなったな」
と、隣に座るトヴェリアが苦笑した。
「なんで俺、怖いなんて言っちまったんだろ……」
まぁ、ムルクリタだからな、と慰めにもならない慰めを受けながら、俺は先ほどあったお茶会を思い返す。
「それでは、皆さんお好きな席へ。わたくしと皆さんの仲を深めるため、ささやかながらお茶会といたしましょう」
急にルナディール様が発したその言葉の意味が分からなくて、つい固まってしまった俺。
「さぁ、皆さん座ってくださいまし。早くしないと紅茶が冷めてしまいます」
ほらほら、と急かされ、どうしようかと戸惑っていたら。ライアン様がおずおずとルナディール様の隣に座ったので、それに習って俺もゆっくりとルナディール様の正面に座った。
部屋に置かれていたソファは信じられないくらい柔らかくて、ぼふんと軽く身体が弾み、つい緊張してしまう。
こんなに良いソファに座ったのは初めてで、一体どれほど高い物なのだろうと考えたら、気軽に動けなくなってしまった。なんかの拍子で汚したり傷を付けてしまったら、絶対に弁償なんて出来ない。
皆が座ったことを確認し、紅茶を手に取って一口飲んだルナディール様。お菓子も一口食べ、にこりと俺たちを見回した。
俺は貴族のお茶会の礼儀なんてものは知らないが、それでもルナディール様が、俺たちのために気を遣ってくれていることは何となく分かった。
「わたくしが急にお茶会を開いたのは、皆さんともっと仲良くなるためですわ。さっきみたいに変な誤解を生むのは避けたいですからね」
さっきみたいに、と言われ、身体が反応してしまう俺。
そう、俺はついさっき、ルナディール様を怒らせてしまったと思い謝罪したのだ。実際は怒っていなかったらしいが、それでもルナディール様に意見してしまったことは事実。格下の俺が、意見していいはずなんてないのに。ライアン様に軽く睨まれた時は、本当に終わったと思った。
ルナディール様は俺なんかより身分がもの凄く高くて、雲の上のような存在の方だ。そんな俺が、この人の専属護衛に選ばれたのは奇跡と言っても良い。
ルナディール様を危うく傷付けるところだったのに、何でもないと笑って許してくれたルナディール様。さらにはカリフストラ様にも口を利いてくれ、厳しい処分は免れた。俺はあの時、マジでルナディール様が女神のように見えた。
それから時が経ち、ルナディール様が専属護衛を選ぶという話が騎士団内で持ち上がり、皆どうやって自分を売り込もうか必死に考えていた。専属護衛に選ばれれば、追加報酬も得られ名誉も得られるので、もの凄い盛り上がりようだった。
それに、ルナディール様は王子様二人に好かれていたため、未来の王妃候補と密かに囁かれていたのだ。ルナディール様は優秀な方で、王子様のどちらかと結婚すればその方が王位継承に一気に近付く。
よって、そのルナディール様の専属護衛に選ばれるということは、ルナディール様が王妃となった時も専属護衛を続けられるということなので、皆の熱意は凄かった。
もちろん俺は騎士団の中でも下の方だったし、選ばれることはないと思っていたから期待していなかった。ただ、もしまた会えたのならば、きちんと謝りたいと考えていた。あの後謝れなかったことが、ずっと心残りだったのだ。
その後、たまたまルナディール様が見学に来ている時に自主練だった俺たちは、揃って謝罪しに行った。そうしたら、なぜか二人で打ち合うことになり、後にはライアン様も加わり、気が付いたら専属護衛となっていた。
全てが急すぎて頭がついていかなくて、魔法研究所に護衛として来た時も、なんだか夢見心地だった。そして、そんな気持ちのまま俺が失言をし、お茶会が始まってしまったのだ。
「皆さん、是非とも楽にしてくださいませ。別に敬語ではなくても怒りませんし、何かあれば好きに言ってください。あ、このお菓子も是非。サクサクしていてとても美味しいですよ」
お菓子を食べながら、優しく笑ってそう言うルナディール様。その言葉が衝撃的すぎて、どうすれば良いかまた分からなくなる。
また変な行動をして不興を買うのは嫌だったので、俺は静かに成り行きを見守った。さっきは見逃してもらえたみたいだけれど、今度もそうとは限らない。
俺は先輩騎士たちが言っていたように、運が良くてたまたま選ばれただけだ。実力で言えば絶対に選ばれることはなかった。せっかくのこのチャンスを逃さないように、これ以上ヘマをしないように気を付けなければ。
緊張した空気が漂い、ルナディール様一人だけがお菓子を食べる中。
「……あの、ルナディール様。我々に楽にしてくださいと言うのならば、それはルナディール様もですよ。専属護衛の私たちに、そんなにかしこまらなくても良いのです。敬語が不要なのは、貴女様の方です」
不意にライアン様が話し、ルナディール様は驚いたようにライアン様を見つめた。
ライアン様の言葉は本当にその通りだったので、俺も続いて言葉を発す。
「そうですよ、俺なんかに敬語は必要ありません!」
俺が話すと、ルナディール様の瞳が不思議そうに俺を見つめた。俺が急に話したからか、ライアン様も俺の方を見た。
ルナディール様は、初めて会った時から俺たちに丁寧に接していた。ライアン様みたいに強くて偉い立場の人になら分かるけれど、平民出の俺にまで敬語で話してくる貴族様は初めてだったので、正直言ってとても萎縮していた。
だいたい貴族様は、騎士団といえど平民出と分かると見下したようにつっかかってきたし、騎士団内でも平民と貴族様で扱いは違ったので、まるで俺が貴族であるように接してくるルナディール様には驚いた。
立派で優秀なルナディール様に敬語を使われるほどの身分じゃないし、むしろ俺が粗相をしているのではと思い緊張せずにはいられなかった。俺は勉強が苦手な為、貴族様の暗黙のルールや失礼のない話し方などよく分からないのだ。
それに比べてトヴェリアは、平民の中でもそこそこ裕福な所生まれだからかその辺は上手くやっていた。ルナディール様と話すときも気後れしていないようで、凄いなと思った。
俺を見つめた後、しばらくしてルナディール様は、はぁと深くため息をついた。その様子に、また俺は何かやらかしてしまったのだろうかと焦る。
しかしルナディール様は、何事もなかったかのように、
「……ありがとうございます。それでは、皆さんには敬語無しで話すことにしますね」
と言い、一つ息を吸ってにこりと笑った。
「じゃあ、改めて。お茶会を始めよう、ライアン、ムルクリタ、トヴェリア」
どこか壁を感じるような、萎縮してしまうような雰囲気はもうなく、まるで友達のように優しく話しかけるルナディール様。
その雰囲気に絆され、俺はそこで初めて自然と笑えた。
壁が取り払われたようで、一気に親しみやすさが出たルナディール様に、この人は凄いなと尊敬してしまう。
「そういえば、前々から気になっていたんだけど、どうして私のことをルナディール・ロディアーナ様ってフルネームで呼ぶの?長くて呼びづらくない?」
敬語を無くしたルナディール様は、気軽に俺たちに声をかけてくれる。俺とトヴェリアは互いに目を合わせ、なんて言ったものか、と少し考える。
「勝手にルナディール様とお呼びするのはどうかと思いましたし、先日声をかけた際にはお義兄さまもいらっしゃいましたから。フルネームを呼んだ方が良いのでは、と」
「あぁ、そういわれてみればそうだったかも。でも、これから長い付き合いになるのだし、ルナディールって名前で呼んで良いわよ」
俺の返答に、そう微笑んだルナディール様。
いきなり名前呼びで良い、と言われるとは思わなくて、つい驚き固まってしまう。
貴族様にとって、名前とはとても大事なものだと先輩騎士から聞いたことがある。よほど親しい者でない限り、呼ぶことを許されないもの。だから、ただの専属護衛でしかも平民の俺が許されると思わず、戸惑う。
「この魔法研究所に来てからより一層強く感じましたが、ルナディール様はお優しいですよね」
俺たちが戸惑い、何も言葉を発せずにいると、ぽつりと言葉を繋いでくれたライアン様。お陰でルナディール様の注意がライアン様へと向き、俺は少しホッとする。
「優しい?」
ライアン様の言葉に、不思議そうに首を傾げるルナディール様。
「はい。先ほど会った受付の方で、ルナディール様に敬語を使っていない方がいたでしょう?それなのに、貴女様は特に気にした様子もなく接していた。私たちにも敬語は不要だと仰った時は本当に驚きました。普通、ルナディール様のような身分の高いお方に敬語を使わないのは不敬罪で処罰されるのが当然です。王族の皆さまに気に入られているお方なら尚更。それなのに、私たちのような下の身分の者に気を遣い、心を砕いてくださいます。これほどまでにお優しい方は見たことがありません」
ライアン様の言葉が信じられなかったのか、ルナディール様は目を丸くしてじっとライアン様を見つめていた。
でも、その言葉は紛れもない事実だ。ルナディール様は女神のように優しい。こんな俺にも気を遣ってくれるし、身分が下の人に敬語を使われなくても怒らない。
普通、敬語を使われなかったら、お前は舐めているのかと怒る人が多いのに。ルナディール様は怒らず、そんな相手にも丁寧に接していた。
最初は舐められているんじゃないかとも思った。ルナディール様が優しいことを良いことに、つけあがっているのではと。
でも、ルナディール様と話していたあの男性は、ルナディール様が怪我をしないよう心配していたし、見下している感じは一切しなかった。
とても身分が高い人なのに、奢らず優しく、気遣いが出来て、なおかつ慕われる。ルナディール様が素晴らしい方だと噂が立つのは、当たり前だなと思った。
「それは言い過ぎよ。私より優しい人なんてゴロゴロいるだろうし、私はそんな大層な人間じゃないわ。それを言うのならば、ライアンの方が優しいと思うわよ」
少し経ってから、ライアンの言葉を否定し苦笑するルナディール様。
「最初に会った時、わざわざ私のところに声をかけに来てくれたでしょう?馬車に戻ろうとする際には護衛をしてくれたし、私が段差で躓かないよう気を配ってくれた。昨日、私が急にムルクリタたちと試合をするよう頼めば、笑顔で了承してくれたし。さっきだって、敬語は不要だと教えてくれた。私からしたら、ライアンの方が優しい良い人よ」
そしてライアン様のことをベタ褒めしたので、その姿にまた尊敬してしまう。すらすらと淀みなく相手の良いところを述べられるルナディール様に、ルナディール様が慕われている理由を垣間見た気
がした。
それから楽しくお茶会が進み、お菓子が残り半分になった頃、
「ルナディール、いるか?」
ノックも無しにいきなり訪問者が現れ、何者だと俺たちは立ち上がり警戒する。専属護衛として、危険そうな人物はルナディール様に近づけないようにと強く言われているので、気を引き締めなければならない。
しかし、それも杞憂だったみたいだ。
「三人とも、この人が先ほど話したサタンよ。彼はこの部屋に出入り自由だから、警戒しなくても良いわ」
ルナディール様から説明が入り、なるほどこの人がと注意深く観察する。
サタンという人は、ルナディール様がこの部屋の出入りを自由にさせる辺り、とても仲が良い人なのだろう。それが男性だということが少し引っかかるが、俺のような人間がルナディール様の人間関係にまで口出しすることは許されないので、黙って成り行きを見守る。
彼はジャラジャラと鎖の音を立てながら部屋の中に入ってきて、皆の視線を受けながらも堂々と立っていた。黒色の服を身に纏う男性は、眼帯も相まってどこか独特な雰囲気を醸し出している。ルナディール様とは反対の、人を寄せ付けない雰囲気だ。
しばらく俺がルナディール様とこの男性の会話を聞いていると、つい口を挟みたくなってしまうような言動が多く、堪えるのが大変だった。
「それじゃあ、これからこいつらは常に貴様と一緒ということか?とんでもない足枷を付けてきたな」
顔を顰めながらはっきりと言うこの人に、なんて上から目線で偉そうな人なんだと俺まで気分が悪くなる。
「えーと、サタン。この三人は皆お城で騎士団として働いているの。特にこのライアンはかなり上のクラスのリーダーで、とても強いわ」
「この俺にかかれば、騎士団だろうと軽くあしらえる。それよりルナディール、貴様は今日何をするのだ?用がないのなら、特別な力を持つ者同士森にでも行ってみないか?この前森に行ったと聞いた。一度行ったことがあるのなら大丈夫だろう」
ルナディール様の言葉を鼻で笑い、俺たち専属護衛を馬鹿にした男性。ルナディール様を貴様呼びするのも不敬極まりないのに、上から目線の物言いに不快感が募る。
「その誘い、とっても魅力的だけど……ついさっき、ビーヴィンの依頼を受けてきたところなの。だから今日はビーヴィンで魔獣のお世話をしてくるんだ、ごめんね。また今度行こう?」
それなのに、特に気にした様子もなく親しげに話しかけるルナディール様。
誘いを断られた男性は何やら少し考えた後、やはり偉そうに言葉を放って退室していった。マントをバサリと翻しながら帰る姿は、まるで自分の威厳を示しているかのようで少し気に障った。
「ルナディール様、先ほどの者とはどういうご関係ですか?ルナディール様を貴様呼ばわりするなんて、とんでもない不敬ではありませんか。態度も大きかったですし、あの者がこの部屋に出入り自由だなんて……どうぞお考え直しください」
ライアン様が、俺の心をそのまんま代弁してくれたので、俺もこくこくと心の中で頷く。
どう考えてもあの人はルナディール様を見下していた。お咎めがないからとつけあがりすぎている。
「サタンは、私が始めて魔法研究所でお友達になった人よ。私がこの部屋の出入りを許可したのは、ここが元々サタンの居場所だったから。魔法研究所での居場所を奪ってしまったのだから、ここも自由に使えるようにするのが礼儀ってものでしょう?それに、サタンはああ見えて結構優しいし良い人だから大丈夫よ」
それなのに、あの人を庇うルナディール様。ルナディール様には悪いけれど、俺にはどうしてもあの人が良い人には見えなかった。優しさだって感じない。
それに、居場所を奪ってしまったからここの部屋を出入りにするのが礼儀、だなんて俺は思わない。だって、あの人よりもルナディール様の方が身分が高いのだから、例えそこが居場所だったとしても、黙って従うのが当然だろう。
どう考えてもルナディール様が良いように使われているような気がして、納得いかない。
「ルナディール様は、人を簡単に信用しすぎではないでしょうか?その、お言葉ですが、ルナディール様が悪い人に騙されてしまわないかとても心配です」
きっと同じように思ったのだろう。ライアン様もルナディール様に注意をし、心配する。
しかし、その言葉がどうやらルナディール様の気に障ったらしく、
「ライアンは人を疑いすぎです。お義兄さまもフォスライナさまもシューベルトさまもそう。私だってちゃんと警戒心を持っています。私が心を開くのは、相手がきちんと信頼出来ると思ってからですから心配しないでください。そんな、誰にでもほいほいくっ付いていくようなダメな令嬢ではありません」
少しむすっとした顔で言い返した。口調も敬語に戻っていて、いかにも不機嫌という感じだ。ギスギスとした雰囲気が漂い始め、俺は静かに息を潜める。
「別に私はルナディール様をダメなご令嬢だと言っているわけではなく、ただ心配しているだけなのです」
ライアンもルナディール様が不機嫌になったことに気が付きながら、そう言葉をかける。
しかしルナディール様はそれに返さず、ひたすら目の前にあるお菓子を食べまくる。その様子に、完全に怒ってしまったと分かった俺は、そっとトヴェリアと目を合わせた。トヴェリアは小さく首を振り、身動きせずじっと座っていた。
しばらくルナディール様を観察していると、お菓子を全て食べ終わったルナディール様と目が合ってしまった俺。俺は気まずくなりサッと目を逸らしたが、それがいけなかった。
「なんですか?」
じとっと睨むように言われ、身体がビクついて、反射的に、
「い、いえ……」
と言葉を濁す。それから恐る恐る顔を上げると、まだ俺の顔を見つめていたので、俺はパニクってしまいつい、
「怖いな、と……」
と本音を言ってしまった。
しまった、と思ったけれどもう遅い。俺の声は、完全に皆に聞かれてしまった。
一気に部屋の温度が下がり、俺は頭が真っ白になった。
俺の言葉を聞いたルナディール様は、はぁと大きくため息をつき、俺は死んだとすぐに思った。これは絶対に怒らせた。解雇で終わればまだ良いが、処刑なんて言われたらどうしようか。
下町で暮らす両親や弟の顔がよぎり、俺は拳を握り締めた。
紅茶を飲み干したらしいルナディール様は、ゆっくりとカップをテーブルに置く。ことり、という音が嫌に響き、ビクリと身体が反応する。
「別に怒ってません。ただ、私が皆さんが思うような優しいご令嬢ではなかったというだけではないですか?」
顔を顰め、不満たっぷりにそう言うルナディール様。優しさからか、怒っていないと告げるが声のトーンは完全に冷たかった。
さっきまで一緒に笑顔を浮かべて談笑していたのが遙か昔のことに思え、俺はなんて馬鹿なんだろうと一人しょげる。
昨日のお昼もルナディール様に庇ってもらったのに、今日もやらかすなんて。ルナディール様に会ってからやらかしてばかりな気がして、俺はルナディール様を直視出来ない。
はぁ、とまた一つ重いため息をつき、ゆっくりと立ち上がるルナディール様。
「私はもうビーヴィンへ行きます。ムルクリタとトヴェリアはこの部屋で留守番をお願いします。くれぐれも扉の前で護衛をしないように。他の人の目につくと厄介ですから」
その言葉に、はいと返事をすることしか出来ずに、俺は拳を握った。
「なぁ、あれ絶対怒らせたよな。俺、解雇かなぁ。いや、それならまだ良い。死刑だったらどうしよう……俺の人生はここで終わりだ……」
はぁ、と大きくため息をつき、顔を覆う俺。トヴェリアが優しく肩を叩き、大丈夫さと言ってくれるがなんの慰めにもならない。
「君がルナディール様を殺しかけた時も、笑って許してくださっただろう?今回も、時間が経てば許してくださるかもしれない。魔獣のお世話が忙しくて、さっきのことを忘れるかもしれないし」
「そんなわけないだろう。昨日今日と俺はやらかしすぎている。……あぁ、もうこのまま時が止まってしまえば良いのに。またルナディール様と顔を合わせるのが怖ぇよ……」
はぁ~、と長くため息をつくと、トヴェリアは肩を竦めてソファに深く腰掛けた。そして背もたれによしかかり、そっと目を閉じて黙ってしまった。
さっきのやり取りに介入せず、ひたすら沈黙を貫いていたトヴェリアは、直接怒りをぶつけられていないから気楽なのだろう。普通に寛いでいて少し癪に障った。
「よく寛げるな」
苛ついたのでギロッと睨むと、トヴェリアはゆっくり片目を開けてちらりと俺の方を見た後、
「ま、僕は直接ルナディール様の機嫌を損ねた訳じゃないからね」
と軽く返し、すぐにまた目を閉じてしまった。そんなトヴェリアをもう一睨みしてから、これからまた訪れるであろう地獄に思いを馳せ、一人落ち込むのだった。
ムルクリタ目線でした。次回はビーヴィンでお仕事です!




