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神々のお話

「うわあっ、素晴らしいですっ!!」

 義兄から手を離し、とてとてと本棚へ近付く私。私の興奮度を表すかのように、光球も忙しなく本棚の上を旋回していた。


 パチンッと電気が付き、私は光球を消す。煌々と照らされる古い資料や魔道具を見ながら、側にいた義兄の袖を掴む。

「お義兄さまお義兄さま、見てください!魔道具がこんなに……!しかも、古い文献もあって……ほら、これなんかとても面白そうじゃありませんか?」

 近くにあった、『世界誕生秘話 神々の真相』を手に取り義兄に見せる。

「ルナディールはこういうのが好きなのか?」

 首を傾げて尋ねる義兄に、私はこくこくと頷いて中身をパラパラとめくる。

「はい。神様のお話とか、神秘的なものは好きですわ。……わ、これにはとても素敵な絵が入っています!」

 見てください!と、長い髪を靡かせて手を胸の前に組み、天に祈りを捧げる女神のイラストを見せると、義兄は苦笑して、良かったな、と私の頭を撫でた。そして少し離れたところにある長机を指指し、

「せっかくならあそこでゆっくりと読むと良い」

 と言う。私はこくりと短く頷き、長机まですっ飛んでいった。


 長らく使われていなかったためか、机も椅子も若干埃が積もっていたので、私は闇魔法で表面を綺麗にした。

 ダークンヴェルダーみたいに一生埃が積もらないよう結界を張ることは出来ないけれど、私もものすごく集中すれば特定のものだけ消滅させることが出来るようになったのだ。

 といっても、机の上にあるものだとか、目視出来るものに限るけれど。流石に魔獣の体内にある骨だけ取り残して消すとか、そういう自分には見えない場所のところは出来ない。


 椅子に座り、さっそく『世界誕生秘話 神々の真相』を開く。

 それは、要約するとこんな感じだった。


《昔々、我ら人類が誕生するより昔のこと。世界全体を明るく照らし、溢れんばかりの力を皆に与えることが出来る太陽神と、世界全体に暗闇を生み、それを優しく照らす己が光で皆を癒やすことが出来る、月の女神がおられた。


 太陽神と月の女神の相性は悪い。共に過ごせば、互いの力が拮抗しぶつかり合い、すさまじい波動を生んだ。これでは互いに休まることが出来ないと考えた二人の神は、互いに顔を合わせることがないよう、一日を二十四時間と決め、互いに十二時間ずつ交代して起きていようと約束をした。


 最初は快適だった。己が力を削られず、心安まる時が過ごせる。しかし、それも永く続くと退屈になり、独りでいることが寂しく感じるようになってきた。

 身体が休まらなくてもいい、もう一度一緒に語らいたい。だが、互いに約束をしてしまった手前、破ることは出来ない。神同士の約束は、決して違えてはならないのだ。


 どうしようもない寂しさに襲われた太陽神は、自分のありあまる力を使い、一つの球体を生み出した。そしてその球体に、己の生命力を分けた光・火・木・水・土の命を創り出し、球体へと送り込んだ。

 己の生命力を削っても、未だ尽きない命。独りでいることに耐えられなくなった太陽神は、我が身も球体に変え、永遠の眠りについた。


 月の女神は、寂しさに耐えられず永遠の眠りについてしまった太陽神を見て、涙を流した。赤く煌々と球体を照らし、温かさをもたらす太陽神。

 こんなことになるのなら、あんな約束をしなければ良かったと後悔をした。そして、太陽神が創り出した球体に、己の生命力を分けた闇の命を創り出し送り込み、月の女神もまた、己が身を球体に変え、永遠の眠りについた。


 永遠の眠りについてもなお、約束に縛られる太陽神と月の女神。相反する力のせいで共に寄り添って眠ることも出来ず、球体は光と暗闇に交互に包まれることとなる。


 そして、永い永い時が経ち。

 太陽神と月の女神によって球体に送られた命はやがて、光の神、火の神、木の神、水の神、土の神、闇の神となり、自我を持った。そして、自分にとって住みよい環境を創るため、球体に大地を、大海原を、草木を創り出した。


 住みよい環境を整えた後は、娯楽用にと六つの神が力を合わせ、様々な命を創り出した。自分たちを創り出した太陽神と月の女神に匹敵するほどの優れた命を創り出すことは出来なかったが、動物や人間が誕生した。


 自分より命が短く、力もない彼らを見ているのは楽しかったが、神たちはすぐに飽きてしまった。手助けをするのも面倒になった彼らは、我が身の生命力を使い精霊を創り、精霊に皆を手助けし管理するよう言付けた。


 そして今度は、神の中では一体誰が一番強いのか、という話題が持ち上がり、互いに決闘をすることにした六人の神。己の生命力を使って生み出した剣を使い、互いに命を賭けて行う試合は心が震え、退屈しなかった。


 剣や魔法を使い、たまには他の神と共闘して相手を倒しに行く。神々の戦いはどんどん激しさを増していった。天からは雷が落ち、海は荒れ、風は唸り、大地は揺れる。美しかった世界は、一瞬にして荒れ地へと変わっていった。


 永い、永い戦の中。人間は必死に天に祈り、神々の戦いが収束することを願った。

 精霊たちは神の言いつけ通り、人間を手助けするために集まり、願いを叶えようと神々に話しにいった。しかし、戦いにのめり込む神たちは精霊に聞く耳を持たず、戦い続ける。


 もうダメだ、と精霊が絶望した瞬間。太陽神と月の女神の化身が現れ、神々を一掃した。

 神々が消えると、今度は荒れた大地を、天候を、海を、風を、癒やし始めた。一気に美しい世界に戻った球体。

 その様子を見届けた後、太陽神と月の女神の化身は互いに微笑み合い、手を取り消えていった。


 精霊たちは、奇跡が起きたのだと歓喜した。そして、消えてしまった神たちに代わり、我らが世界の平和を保つのだと決意し、平和な世が訪れた。》


「……」

 パタン、と本を閉じ、ふぅ、と息をつく。

 なんだか思っていた話とは全然違って、少し悲しいお話に心が重くなる。


 まさか太陽神と月の女神が永遠の眠りについて、六人の神々は壮絶な戦いをした後殺されてしまうなんて。つまり、この世界に神様はいないですよって、そういうことを言っているのかな。

 そんな。ハッピーエンドじゃないの?というか、最後の太陽神と月の女神の化身。あれってどういう意味だろう。

 永遠の眠りについたのに、化身として地上に出ることは出来たの?幽霊みたいに意思だけは存在していたとか、そういうことかな。

 それに、途中で出てきた剣。あの戦いの描写、不思議なくらいすっごく細かく書かれてたけど、私の魔剣とちょっと一致する特徴あったんだよな……ただの偶然、だよね?

 というか、これって本当の話なのかな。創作にしては妙に変なところが細かく書かれてるっていうか……でも、最後の化身登場シーンとかタイミング良すぎるから創作っぽさも感じるし……


 そういえば、マジヴィンで読んだ本……六人の神と六種のエレメント、そして精霊についての話はこの本で言うとどのぐらいの時代の話をしているんだろう。

 この本からすると、精霊を創り出してからすぐに戦闘に走っちゃってるけど、マジヴィンで読んだやつは違った。もっと平和な感じだったし、なんなら協力して世界を良くしてこう!みたいな感じだった。

 どっちかが合ってるのか、それとも両方合ってるのか、そもそも全くの想像なのか。

 やっぱり昔について書かれてる本って、ほんとかどうか分からないよなぁ……


 むぅ、と顔を顰めて本の表紙を眺めていると。

「ルナディール、そんなに難しい顔をしてどうしたのですか?その本の内容が気に入らなかったのですか?」

 こてり、といつの間にか私の前に座っていたフォスライナに問われ、ハッと現実に戻る。

「いえ……なんていうかその、思っていたより暗い話でして、少しガッカリしたと言いますか……これは本当にあった話なのかな、と……」

 未だまとまらない思考をごまかすように、笑いながら答える。するとフォスライナはくすりと笑みを溢し、

「魔法研究所にあった本とは言え、きっと創作物ですよ。大昔のことなんて誰にも分かりませんから。本気にするだなんて、本当にルナディールは可愛いですね」

 と言う。私はその言葉に笑い返しながら、そっと本の表紙を触った。


 結構年期があって、紙も黄色く変色しているこの本。ちょっと乱雑に扱えば、すぐに破れてしまいそうだ。

 これが、創作……本当に、そうなのだろうか。

 このお話の内容に少しでも真実が混ざっているのではと感じるのは、私が前世の記憶を持つからだろうか。この世界にはとんでもない設定があるのでは、と考えてしまう自分はおかしいのだろうか。

 それとも、魔剣の色や形、性能が少しだけ一致するところがあったから、これは真実だと考えてしまうのだろうか。でも、これが真実だとしたら、私の魔剣は……


「それよりルナディール、お腹は空きませんか?もうお昼を過ぎた頃だと思うのですが……良ければ一緒にお昼ご飯を食べませんか」

 本の上にある私の手を、フォスライナが優しく包み込んでにこりと微笑む。

 私はブンブンと頭の中の考えを一旦払い、にこりと笑って頷いた。

「そうですね、よろしいのでしたら是非ご一緒したいです」


 それから本を元の位置まで戻し、同じく本を読んでいた義兄とシューベルトにも声をかける。光球を出し、行きと同じような順番で階段を上り、元執務室へと戻ってきた。


「せっかく天気が良いのですから、外で一緒に食べませんか?」

 フォスライナの言葉に、ちら、と窓の外を見る私。

 確かに外は澄んだ青空が広がっていて気持ちよさそうだった。ピクニックなんて久しぶりだな、と考えながら快諾し、皆で外へ移動する。


 噴水の音が心地よく響き、花の香りが漂う庭園でのお昼ご飯。四人で丸テーブルを囲み座ると、そよそよと気持ちの良い風が身体を撫でる。

 三人の推しキャラと、スチルにでも出てきそうな美しい庭園。そして、豪華で美しく彩られたお料理。もう最高のシチュエーションだ。勝手に頬が緩んでしまう。


 にこにこと上機嫌でお料理が目の前に並んでいくのを眺めていると。不意に、近くを舞う蝶々が目に入り、私の身体は一気に硬直した。

 そういえばここ庭園、だもんね。花が咲き誇り良い香りが漂う庭園、だもんね。蝶々の一匹や二匹や三匹いるよね……


 蝶々を発見してしまったせいで、目の前の料理から蝶々へと視線が移る。恐ろしさにどうしても目で追ってしまい、絶対こっちに来るなと念じてしまう。

 せっかくの楽しい楽しい、眼福のお昼ご飯なのに。本当に蝶々とか滅んでしまえばいい。虫なんていらないよ。今だけここに結界張って侵入不可にしたい。


「それでは頂きましょうか」

 フォスライナの言葉に、慌てて蝶々から視線を逸らして目の前のお料理を見つめる。

 どうせ近くに寄ってこなければ無害なんだから無視しよう。これからもお外で食事とか普通にあるかもだし、こんなのでビビってるとこ見られるわけにいかないしね。


 すぅ、と軽く息を吸い、笑顔を浮かべる。

「では、いただきます」

 皆の動きに注意しながら、私も料理を口に運ぶ。こういう食事の場で、一人だけ食べるの遅くて取り残されたりしたら気まずいからね。


 目の前に出された料理は、どれも美味しかった。お肉はジューシーで弾力があり、それなのに柔らかく噛み切れてすっと口の中で溶けてしまう。サラダはシャキシャキで新鮮、デザートはたまたまなのか、私の好きな物のオンパレード。

 もう最高すぎて、途中から蝶々のことなんて忘れてしまっていた。

 ほっぺが落ちそうなくらいに美味しい料理を口いっぱいに頬張って食べると、それを見て三人がキラキラと素敵な笑顔で笑う。

 お腹も目も幸せだなんて、最高すぎる。


 皆で楽しく料理を食べていると、あっという間にお皿は空になってしまい。夢のような時間は終わってしまった。


「はふぅ……ご馳走様でした」

 お腹いっぱい、幸せいっぱいにそう溢すと、フォスライナはクスクスと楽しそうに笑う。

「本当に夢中になって食べていましたね。見ていてとても可愛らしかったですよ」

「あぁ、ルナディールは幸せそうに食べるからな。こっちまで幸せな気分になる」

 にかっと太陽のように笑い、フォスライナに続くシューベルト。その言葉になんだか恥ずかしくなって、あははと笑って誤魔化す。

「それは、皆さんと食べるお料理がとても美味しかったものですから」

 お義兄さまも、美味しかったですよね?と聞けば、あぁ、と笑って返す義兄。


 そんな、幸せムードに包まれていると。

「ぐぅ~~」

 どこからか盛大にお腹が鳴り、すぐさま、すいませんっ!と声が飛ぶ。声の主を確認するために後ろを振り返ると、顔を真っ赤にしたムルクリタがお腹を片手で押さえていた。

 幸せムードが霧散し、皆の視線がムルクリタに集まる。

「そ、その、我慢、出来なくて……」

 皆の視線が集まり緊張したのか、目を彷徨わせながらそう言うムルクリタ。その言葉にハッとし、まさかと目を見開く。


 目の前で美味しそうな料理が食べられていくのを見たら、絶対お腹空くよね。なのに、私がいるせいで護衛任務につかないといけなくて、ご飯が食べられない。

 すっかり護衛のこと忘れてた!ご飯中くらい自由にさせてあげれば良かった!こんなのもうイジメだよ、地獄だよ!


 私は慌てて立ち上がり、三人に向かってぺこりと頭を下げる。

「すみませんでしたっ!お料理に夢中になっていて、皆さんのことを忘れてしまい……お腹空きましたよね、是非食べてきてください。もし今後も同じようなことがあれば、すぐ私に言ってくださいませ。ご飯が食べられないなんて地獄があってはいけませんから」

「そんな、謝らないでくださいルナディール様。護衛任務中にご飯にありつけない事は普通にあります、ムルクリタの修行が足りないだけですから」

 私の言葉に、すぐさま顔を上げてくださいとライアンが発し、恐る恐る顔を上げる。修行が足りないだけと言われたムルクリタは、気まずそうに下を向いていた。


「そうですよ、ルナディール。貴女が謝ることはありません。これから一日中ルナディールの護衛に付くことが多くなるんですから、多少食べる時間が変わってもそれに適応していくだけです。少しお腹が空いたくらいで抗議するなんてもってのほかです」

 サラッと厳しいことを言うフォスライナに、義兄もこくりと同調する。なんだか、護衛に対して少し冷たい気がする二人に苦笑する。


 お腹が鳴るのは修行でどうこう出来るようなものじゃないだろうに、なんて過酷な。それとも、本当にこれが常識なのだろうか。護衛任務中ってご飯も食べられないの?ブラックすぎだよ。

 私だったら絶対に無理だ。お腹空きすぎて死んじゃうかもしれない。


「えぇと……とにかく、わたくしは今日これで帰りますので、後できちんとご飯を食べてくださいね。皆さまには明日、魔法研究所でもお世話になるのですから」

 とりあえず笑ってそう告げる。私がここからいなくなれば、きっと皆もすぐにご飯を食べられるだろう。


 私の言葉に、なぜかムルクリタは驚いたように私を見た。何をそんなに驚くことが、と尋ねようとしたら。

「もう帰るのか?」

 シューベルトに尋ねられ、私は聞くのを諦めて振り返った。

「はい。午後は家で、剣術の練習と読書をしようかと思っています」

「そうか。……にしてもルナディールが剣術か。強いって噂だが、本当のとこはどうなんだ?」

 面白そうに口の端を上げて問うシューベルトに、

「それはただの噂ですわ。わたくしなんかよりも、お義兄さまの方が強くて凄いですよ。わたくし、お義兄さまに剣術を教えてもらえて幸せですもの」

 私もにこりと笑顔で返す。


 ここで義兄の方が強い、と言っておけば、きっと私が強いっていう噂は穏やかになるはずだ。

 実際、私は義兄に勝てないし勝てるとも思わない。技術も力も全てが格下の私が勝てる見込みなんてゼロだ。

 もちろん、ここにいるフォスライナとシューベルトにも勝てないと思う。三人とも主要キャラだったからか、チート並に強いのだから。


「なるほどな。だが、剣術なら俺も得意だぞ。今度暇な時にでも一戦交えてみるか?」

 にやり、と不適に笑うシューベルトに全力で首を振りながら、

「それは結構です!どうせなら戦うよりも技を教えて欲しいです!」

 と拒む。その様子に吹き出しながら、分かったよ、今度教えてやる、と頷いたシューベルト。

「ルナディール、剣術なら私も得意ですよ。手取り足取り教えてさしあげますから、今度一緒にどうでしょうか」

 そして、仲間外れにされたからか、会話に割ってくるように話し出したフォスライナは、なぜか怪しげな笑みを浮かべていた。どういう表情か読めなかった私は、とりあえずよろしくお願いしますと頭を下げる。


 それからしばらく他愛ない話をした後解散となり、私と義兄は一緒に家へと帰った。

 ラーニャは予定より早い帰還に驚いていたけれど、剣術の稽古がしたいと言えばすぐに服を用意してくれた。本当に出来るメイドさんだと思う。


 義兄と一緒に久しぶりのきっちりした稽古をし、汗を流し、お風呂に入った後は、至福の読書タイム。本を読んでいると飛ぶように時間が過ぎ、気付けば夜ご飯の時間となり、すぐに寝る時間になってしまった。

今回読んだ本の内容は、真実か否か。一体どちらなのでしょう。次回は専属護衛とともに魔研へゴーです。

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