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専属護衛になるのは

 模擬戦は、本当に瞬殺で終わってしまった。

 私の合図とともに、最初すぐ仕掛けにいったライアン。あまりの速さに対応出来ず、ムルクリタもトヴェリアも、為す術無く吹っ飛ばされてしまった。これじゃ共闘も何もない。二人の実力が見たかったのに、ライアンの凄さが分かってしまっただけだ。


 にかっと爽やかな笑みを浮かべ、どうでしょう?と私を見つめるライアン。あまりの戦力差に心の中で二人に謝りながら、お強いのですねとライアンに声をかける。私が褒めたら、ものすごい嬉しそうに笑っていた。

「私はルナディール様の専属護衛になれますでしょうか」

 にこり、と微笑まれ、うぐっと言葉に詰まる私。


 本当は、こんなに強くて優秀な人を私の専属護衛にしたくない。強くて見た目も美しい青年が私の騎士だなんて……周りの令嬢からブーイングがくるのはもちろんのこと、自分も耐えられそうにない。

 でも、周囲を見れば、ひゅうひゅうと盛り上がっている騎士たち。いいぞーライアーン!おめでとー!!なんて言われている中、すみませんと断りでもしたら、なんでだ!?と今度は騎士たちからブーイングがくるに違いない。

 うわぁぁぁ、なんでこうなった!?承諾しても断っても地獄だこれは!ライアンを召喚しないでもう私が直接相手をするべきだった!チーム六の下っ端とチーム二のリーダーの戦力差を見くびっていた!!


「そ、そうですね……」

 顔を引きつらせながら、なんとか上手くこの場を収めることが出来ないかと頭をフル回転させていると。

「あ、あのっ!」

 不意に声が響き、一瞬で周りは静まり返った。

「もう一度……もう一度、お願い出来ませんか!」

「私からも、お願いします!」

 吹っ飛んでいった二人がいつの間にか戻り、私とライアンに向かってぺこりと九十度のお辞儀をしていた。その姿に周囲の騎士は、わははと騒ぎ出す。

「平民コンビ良いぞ、その執念には脱帽だ!」

「だがチーム六のお前らじゃあ奇跡でも起こらない限りライアンには勝てないぞ!」

 やいやいとはやし立てる騎士たちに顔を顰めながら、私はなんて声をかけるべきか迷う。


「……申し上げにくいのですが、どうも戦力差がありすぎていて……また瞬殺されるのではありませんか?」

 私の言葉に、びくりと身体を揺らす二人。それでもめげずに、真っ直ぐと私を見上げて言葉を発した。

「確かに俺たちじゃライアン様と実力差がありすぎます。でも、諦めたくないんです!せっかく、ルナディール・ロディアーナ様がご用意してくださった場ですから」

「私も諦めたくはありません!どうか、もう一度だけ……何も出来ないままじゃ終われません!」


 じっと、互いに見つめ合うこと数秒。私は二人の熱意に負けて、はぁと一つため息をついた。

「……分かりました、もう一度行いましょう」

 私の言葉に、ありがとうございますっ!とまた深くお礼をする二人。私はそんな彼らからライアンの方に視線を移し、話しかける。

「ということでライアンさん、もう一勝負よろしいでしょうか?」

 もちろんです、と快諾したライアン。そして、また瞬殺するかもしれませんがね、と柔らかに微笑む。表情と言葉のギャップに驚きながらも、私は一つライアンに提案した。

「ライアンさん、また瞬殺してしまうと面白くないので、今度はもう少しだけ長く試合をしてはいただけないでしょうか?先ほどはライアンさんが素早い身のこなしで相手を一掃する姿が見られましたが、今度はどのように攻撃を防ぐのかを見てみたいのです」

 私の言葉に、かしこまりましたと頷き、剣を構えたライアン。三人が準備出来たことを確認して、私は大きな声を出した。


「それでは……始めっ!」


 今度はムルクリタとトヴェリアが先制攻撃をした。素早く左右に分かれ、両側から一気に攻める。カンカンカン、とお互いの動きに合わせて攻撃していく二人は、本当に息が合っていた。

 ライアンは私に言われた通り、攻撃を防ぐのに徹底していた。左右から出される剣を器用に躱し、捌いていく。無駄のない動きで、必要最小限の力で反撃し、相手の体勢を崩す。流石チーム二のリーダーといった感じだ。


 ムルクリタとトヴェリアが間髪入れず攻撃し続け、ライアンは軽々と防ぎ続ける。そんな光景がずっと続いていると。不意に二人がライアンから距離を取った。

 ぴょんと後ろに後ずさり、じりじりとライアンを見つめるムルクリタとトヴェリア。その姿に、ライアンはこてりと首を傾げて、

「どうしましたか?もう疲れたのですか?」

 と挑発した。ムルクリタとトヴェリアは一瞬互いに目を合わせた後、二人一緒に一気に駆け出した。


 ズタタタタッとムルクリタが先行し、ライアンに剣を振り下ろす。ライアンはそれを軽く弾き返しながら、勢い止まらず猛攻撃を繰り出すムルクリタをいなし続ける。

 トヴェリアはというと、ムルクリタの攻撃に合わせ、ライアンの視界に入らない場所から剣を入れようと攻撃する。左右の攻撃から、前後の攻撃へと変えたムルクリタとトヴェリア。

 流石に全方位に気を配るのがうざったくなったのか、ライアンは一度大きくムルクリタの攻撃を弾き返した後、一瞬の間に後ろを向き、トヴェリアの剣をなぎ払った。トヴェリアの持つ剣がくるくると空中を舞う中、ライアンは再びムルクリタに向き合い、足をなぎ払って転ばせた。そしてそのまま剣を喉元すれすれに突き刺し、

「チェックメイト」

 と言葉を発した。


 その光景を見た私は、つい夢中になって手を叩いた。目の前でこのような試合を見たのは初めてで、胸が高鳴る。一瞬も気が抜けない試合を見た私は、とても感動していた。

「素晴らしいです、皆さん!お疲れさまでした!」

 とてとてと駆け寄り笑顔を浮かべると、ライアンはにこりと素敵な笑顔を浮かべ、

「ルナディール様のお気に召す戦いが出来たでしょうか?」

 と尋ねた。私はそれにこくこくと頷き、凄かったです!と声を弾ませた。

「あのように真剣な勝負は初めて見ましたから、とても興奮いたしました!数々の攻撃を軽々といなし、トヴェリアの剣を払い、ムルクリタの足を払って最後のチェックメイト。とてもカッコよかったです!!」

 私の言葉に、嬉しそうに笑うライアン。

「ルナディール様にそう言っていただけて光栄です」

 にこりと優しく微笑む姿に、私の興奮メーターはついにブチンとはち切れた。初めてこの世界での騎士の姿を見た気がして、もう顔がにやけるのが止まらない。


「あぁ、もう本当に素晴らしかったです!!ライアンさんのその姿といい立ち居振る舞いといい言動といい、もう全てが私の想像する騎士様そのものです!最初に出会った時も、素晴らしい騎士道精神の持ち主だなぁとは思っておりましたが、今回の試合を見て確信いたしました!ライアンさんは素晴らしくカッコいい素敵な騎士様です!それはもう惚れてしまいそうなくらいに!!」


 自分がいろんな人に見られている、高身分なご令嬢であることを忘れ、きゃいきゃいとはしゃいでしまう私。一気に前世での二次元大好きっ子が出てきてしまった。

 この世界にいる、見目麗しいお強い騎士様なんて目にしてしまったら、推さずにはいられまい。絶対前世で作品を見ている際にライアンがキャラとして出てきていたら、確実に虜になっていただろう。騎士キャラは強い。顔も性格も私好みときたらもう、テンションが上がらずにはいられない。


 興奮しながらライアンを見つめていると。不意に、ぐいっと後ろに引っ張られ、うわっ、と思わず声が出る。驚いて見上げると、恐ろしいほど冷たいオーラを放つ義兄が、無表情で私を見下ろしていた。

「ルナディール、興奮しすぎだ。落ち着け」

 ぴしゃりと言われ、私は一気に頭が冷える。そして、皆の前で馬鹿みたいにはしゃいでしまったことが恥ずかしくなり、顔が一気に赤くなった。

「す、すみません……興奮しすぎました」

 私が元に戻ったことが分かると、ちゃんと解放してくれた義兄。私は、あははと愛想笑いをしながらライアンにぺこりと頭を下げた。

「いきなりすみませんでした。ライアンさんのあまりのカッコよさに我を失っていたみたいです」

 そして、所在なげにうなだれているムルクリタとトヴェリアの方を向き、にこりと笑いかける。

「お二人もお疲れさまでした。急に試合をさせてしまい申し訳ございません。ですが、お二人の息の合った攻撃には目を見張りました。言葉を交わさずとも、阿吽の呼吸で動ける。なんとも素晴らしいコンビ技ですね。きっとお二人は、もっともっと強くなれるに違いありません」

 私の言葉が信じられなかったのか、驚いたように目を丸くする二人。二人は互いに目を見合わせた後、

「「ありがとうございました!!」」

 と深々とお辞儀をした。何のお礼かは分からなかったけど、私はとりあえず笑顔でそれを受け取っておいた。


「ルナディール、それで専属護衛は決まったのか?」

 私たちのやり取りが一段落したことを見計らい、そう尋ねてきたカリフストラ。私はそこで、そうだ今日は専属護衛を決める日だったと思い出した。

 途中から試合に熱中しすぎてすっかり忘れていた。こんなに凄い試合を見せられた後に、私の専属護衛になってくれませんか?なんてとても言えない。だって三人とも、この国の騎士団に必要そうな人たちだったもの。


「えーとですね……」

 目を彷徨わせ、どう言おうかと考えていると。悩んでいるのが不思議だったらしく、カリフストラは首を傾げて言葉を発した。

「なんだ、まだ悩んでいるのか?あんなにライアンを褒め、しかも告白まがいのことを口にしておいて、専属護衛には向かないと言うのか?」

 その言葉が衝撃的すぎて、はい!?と素っ頓狂な声が出てしまう。

「こ、告白まがい!?い、いつ、わたくしがそのようなことを!?」

「言っていたではないか。目をキラキラと輝かせ、頬を赤らめ、惚れてしまいそうだとか、ライアンは私の想像する騎士そのものだとか、カッコいいだとか」

 カリフストラが淡々と列挙する事項に赤面し、それはっ!と言うも、続きが出てこない。

 確かにそれらの言葉は興奮して自分が口走ってしまったことだ。それに、実際に思ってしまったことでもあるし、嘘でもない。


 私はあまりの恥ずかしさに言葉が出なくなり、パクパクと魚のように口を開け閉めすることしか出来なくなってしまった。もうライアンの顔が見られない。

 私は俯いて、なんとかその場から逃げ出したい衝動を抑える。それなのに、カリフストラは言葉の攻撃を止めてはくれず、

「ルナディールの想像する騎士そのものならば、専属護衛にすれば良いではないか。何を迷っている?ライアンもお前の専属護衛になりたがっている。相思相愛同士仲良くやれば良い。きっとお似合いだぞ」

 なんて言うものだから、私はもう耐えられず、キッとカリフストラを睨む。あまりの恥ずかしさと少し前の自分への怒りで涙目になってしまい、顔がものすごく熱い。

「カリフストラさま、そのくらいにしてくださいませっ」

 そして義兄の背中に隠れ、ぎゅっと義兄の服を掴む。

 やっていることはもう、拗ねて人の背中に隠れる子どものようだったけれど仕方があるまい。これ以上自分の真っ赤な顔を人に見られたくない。


「だが、今日お前は専属護衛を決めに来たのだろう?ならば後回しにするのは良くないのでは……」

 私が隠れてもなお、くどくどと専属護衛は~~ライアンは~~と話してくるので、もう耐えられなくなり、私はもう勢いのまま言葉をぶつけた。

「わ……っかりましたそんなに気になるのならば今!発表しますっ!わたくしの専属護衛はライアン、ムルクリタ、トヴェリア、以上!これで満足ですかっ!?」

 早くこの場を立ち去りたくて、義兄の横から顔だけ出しカリフストラを睨み付けると。

「ライアンは分かるが、ムルクリタとトヴェリアも専属護衛にするのか?もっと強いやつはごまんと……」

 今度はムルクリタとトヴェリアにケチをつけてきたので、もう何なのだとさらに睨み付ける目に力が入ってしまう。

 今の私はもう、いろいろ限界を迎えて頭がショートしそうだ。そのせいで無性にイライラして、カリフストラに当たってしまう。


「阿吽の呼吸ですっっ!!ムルクリタとトヴェリアは最初の打ち合いで互いの動きを読み、試合をなぁなぁに誤魔化していました!ライアンとの試合では互いを信頼し躊躇うことなく果敢に攻め続けていました!あの動きはお互いに強い信頼関係がないと出来ないことです!専属護衛において大事なのは、専属護衛同士の絆っ!何か有事があった際、言葉を交わせない場面もあるかもしれません。しかし、互いに強い信頼関係を築き、言葉を交わさずとも意思疎通が図れるのならば、それが大いに役立つはずです!よってわたくしは、ムルクリタとトヴェリアを専属護衛にすると決めました!強さならこれから鍛えていけば良いだけです!それに、強いライアンもいるのならば問題はないでしょう!」


 ギリッと睨みながら、子どもっぽく言い返してしまう私。

 令嬢っぽさなんて微塵もなく、これをお母さんが見たらお説教数時間コースだろう。下手したら、今この状況を見ている騎士たちが、私は騎士団長の制止を聞かず自分の決めたことを強行する、我が儘で傲慢な令嬢だと思うかもしれない。

 そうなるだろうと分かっていても、なぜかカリフストラに当たってしまう。相性が悪いのだろうか。冷静に笑って事を進められない自分に嫌気が差す。


「……すみません、少し一人にさせてくださいませ」

 もうこれ以上この場にいて自分の醜態をさらすのが嫌で、そして、またカリフストラに当たってしまうかもしれないことが嫌で、頭を冷やすために私は義兄から離れた。

「ルナディール」

 義兄に腕を掴まれたが、私は義兄の目を見てふるふると首を振った。

「大丈夫ですから、少しだけ一人にさせてください。今の私では醜態をさらすだけです。少し頭を冷やしてきます」

「……あまり遠くには行くなよ」

 心配そうな顔をしながらも、そっと手を離してくれた義兄。私はお礼を言って、静かにその場を離れた。

専属護衛が決まったルナディール。今後、変更はあるのかないのか……次回は久しぶりに、フォスライナとシューベルトの王子様二人が登場します。

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