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採取 三つ目

「最後の採取はあれです、あの崖のところに咲いている赤い花、ロトブルメ」

 ティルクにそう言われ、眼前に立つ崖を見上げる。頭を直角に上げ、目を細めると、側面に何か赤い花が咲いているような気もした。

「……あれ、どうやって採るのですか?」

 どう考えてもここから手が届かず、命綱無しで登るには高すぎる崖に首を傾げる。仮に崖の頂上までいけたとしても、頂上より人一人分ほど下のところに咲いている花を採ることは不可能だ。

 これは、流石に無理なのでは?と思いティルクを見上げると、彼も苦笑してバッグからロープを取り出した。

「一応ロープは持ってきているのですが……崖に登る道がないので、地道に崖を登っていくしかなさそうなんです」

 その言葉に、思わず顔が引きつってしまう。

「あはは、ご冗談を。この崖を登ると言うのですか?」

「私も冗談だと思いたいですよ。今まで何人この崖に挑戦し、落下したことか……」

 遠い目をして呟くティルクに、あぁこれは死ぬやつだと確信した。だってどう考えても、この崖を登り切る体力が私にはないし、そもそも自分の身体を支えられる筋力がない。前世でボルダリングは大の苦手だったのだ。命綱無しでとか絶対に無理。

 義兄もそう思ったらしく、

「ルナディール。これは危ないからダメだ、諦めよう」

 と首を振った。


「……仕方がないですね。確かに崖登りをルナディールさんにさせるわけにはいきませんし。魔獣の骨とフィシュロアの採取に貢献していただいたのですから、今回は見学していてください」

 そう言って、ロープを腰に下げて崖に手を付けるティルク。あのロープは一体何に使うんだろうと思ったら、崖を登り切ったあとにどこか木にでもくくりつけて下りてくるらしい。

 なんて無茶な。絶対長さとか足りないだろう。それともあれは無限に延びる魔法のロープとかなんだろうか。どちらにせよ、命がいくつあっても足りない。

 ハラハラしながらティルクを見るも、体力にはあまり自信がないと言っていた通り、身体を支えられ続けられないのか、ある程度まで登るとすぐに落っこちてしまう。ドスッと鈍い音を立て、お尻から着地する光景を何度も見た。

 あぁ、これはダメだなと早々に見切りを付けた私は、ティルクが怪我をしないよう見守りながら、何か良い方法はないかと考えた。


 一番最初に思いつくのは、空を飛ぶ方法だ。空を飛べたらあんなの一瞬で採ってこられるだろうし、登るより遙かに危険は少ない。

 だが、この世界にはまだ空飛ぶ絨毯的な魔道具は存在しない。そもそも空を飛びたいと思わないのか、そういった類いの話は一切聞かなかった。前世で空を飛びたいと常々思っていたので、魔法が存在すると知って最初に調べたのだから間違いはない。


 どうして空を飛びたいと考えないのだろう。空を飛べたら絶対に楽なのに。風魔法でなんとか出来ないのかと思い試してみたけれど、コントロールが難しく全然出来なかった。時間があれば研究を、と思っていたけれど、なんだかんだ忙しくて手が付けられていない。


 そもそも、空を飛ぶってどうやっているんだろう。箒とか絨毯を使う場合、その道具自体に魔法陣を組み込み風魔法の力を与えれば出来るとは思う。絨毯は裏側から風を一定で放出すれば浮かすことが出来るだろうし、同じ原理で箒も可能そうだ。試したことはないけれど。

 でも、人ってなんだ。人は身体に魔力を宿しているし、魔力操作の達人なら均一に全身から魔力を放出出来るかもしれない。

 じゃあ、風魔法を均一に放出するのだろうか。いや、でもそしたら結局浮かばなくないか?かといってどこか一カ所強ければ吹っ飛んでいってしまうだろうし。

 ……というか、放出する魔力量をいちいち考えながら飛ぶのって難しくない?頭パンクするって。


 そこまで考えて、もう訳が分からなくなってきた私は、一旦思考をリセットした。これ以上考えていたら疲れてしまう。

 ティルクはまだ熱心に挑戦していて、身体はもう砂埃まみれだ。諦めない研究熱心な姿勢に感銘を受けながら、空を飛ぶ以外の方法を考える。

 そこで、ふと義兄が小さくため息をつくのが聞こえ、そっと顔を見上げた。すると、義兄は無表情ながらも、なんであんなに頑張るのか分からない、といった表情をしていた。恐らく、だけれど。


「……お義兄さまもあれ、無謀だと思います?」

 ティルクに聞こえないようこっそりと聞けば、義兄はちらりと私の顔を見て頷いた。

「あぁ。どう考えても登れる未来が見えない」

 ですよねー、と相づちを打ちながら、ティルクを黙って見つめるジャミラドの方を見た。ジャミラドも無理だと考えているのか、崖に登ろうとはしていなかった。

 四人中ティルクだけが頑張って崖登りをし、他は傍観しているだけ。その現状がなんだか申し訳なくなってきて、何か手伝えないかと再び思案する。


 ここから下に向かって一気に風魔法をぶっ放せば、きっとものすごい速さで上に行くことは出来る。ただ、着地を失敗すれば地面に強打し死ぬけれど。

 もし私が上に吹っ飛んでいって、花を採れたとしよう。着地するときに、今度は優しく風魔法を放てば丁度良い感じになるはず。でも、その調整はどうする?一発勝負で出来るほど、私は魔法の扱いに長けていない。

 一向に調整が出来ず、一生ぐわんぐわんと上昇下降を繰り返し意識が飛び、そのまま落下し死亡。それか、着地時に発した魔力が少なくて速度を落とせず、そのまま頭をぶつけて死亡。

 そんな二パターンのルートしか思い浮かばない。


 ぶんぶんと頭を振り、私は風魔法以外で考えることにした。何よりも命大事に、だ。危険なことはしない方が良い。

 しかし、何があるだろうか。火、水、風、土、闇、光……風以外であの花を採れるものは?

 考えても考えても思い浮かばず、むしゃくしゃしてくる。

 いっそのこと全魔剣召喚して皆の知恵を借りたいくらいだ。プロなのだから。

 ……あぁ、でも土剣だけまだ創れてないんだっけ。何をする剣なのか想像がつかず放棄して、そのままだった。


 そこで私は崖を見上げ、土剣かぁ、と呟く。

 土剣だったら、この崖スパァンッって切れるかな。切れるんだったら、あの花が咲いてる部分だけを切り取って落とすことが出来るのに。それかもう、崖とか地面とか自由に動かせれば良いよね。自由自在に出来たら最高。

 剣を地面に突き刺して、魔力を流し込む。そして、イメージするだけで剣が地面とか崖とか、土で出来ているものなら何でも動かしてくれるのだ。まぁ、小範囲だったら人間でも出来なくはないかもだけど……大範囲を正確にコントロールするには、魔剣の力が必須だろう。


 ……あぁ、なんでかな、なんか土剣に対するイメージが急速に膨らんできた。土剣を地面に突き刺し、お城建設とか大規模魔法使う私、カッコよくない?土剣の名前はアースルトラン!なんちゃって~。


 あはは、と楽しく考えていると。ズワッと魔力が吸われ、右手に剣が現れた。

【いっえーい、呼ばれましたアースルトランでぇーっすっ☆君が新しい主ちゃん?うっわー可愛い~、しかも魔力爆高、ウケる~。あ、出会った記念にでっかい家とか立てちゃう?記念碑作っちゃう?】

 明るく元気な声が頭の中にぐわんぐわんと響き、サァッと青ざめる。


 やばい、待って待って今!?今召喚しちゃう!?

 恐る恐る横を見上げると、義兄は急に現れた剣と私の顔を交互に見つめた。明らかに困惑している顔に、やってしまったぁぁぁ!と頭を抱えてうずくまりたくなる。

【あれれ、もしかして主ちゃんピンチ?あはは、激ヤバ?】

 ケラケラと楽しそうに笑うアースルトランを無視して、どうにかこの場を凌ごうと頭をフル回転させる。幸いティルクとジャミラドは崖に夢中で、魔剣には気が付いていないみたいだった。

「ルナディール、それは……」

 義兄の呟きに、なんて答えようかと考える私。


 これは魔剣といって、私がうっかり創り出した物なんです~とか言う?いやでも絶対それツッコまれるよね。

 というか待てよ、この魔剣が見られちゃったんならもういっそのこと開き直ってあの花回収しちゃうっていうのもありか。これ使えば簡単だよね?


 ぐるぐると考えていると、

【あはは、めっちゃ考えるね主ちゃん。もうテキトーに力見せちゃえば良くない?あの花採りたいんならウチ、めっちゃ豪華な階段でも作っちゃうよ?】

 なんて言われ、思考が乱される。

 うわあああ、と頭がぐっちゃぐちゃになり、パァンと頭の中で何かが弾けたような気がした。


「お義兄さま、実はこれ魔剣と言いまして、私の魔力で作った剣なのです。ですのでいつでも出すことが出来て……ほら、この通り!」

 アースルトランの召喚を解き、目の前から消してみる。そして再び召喚して剣を出すと、義兄は信じられない物を見る目で魔剣をじっと見つめた。

「これ、私の中の重大な秘密でして……まだ誰にも教えていないのです。お義兄さまなら信じても大丈夫かなと思って、今白状しました」

 ニコッと笑って、これ、私とお義兄さまだけの秘密ですよ?と念を押すと、まだ戸惑ってはいるものの、あぁ、と頷いてくれた。

 そして、バレてしまったのならしょうがないと、私はこの剣であの花を採取してきますと告げた。義兄は意味が分からないといった様子だったけれど、危険はないので大丈夫ですとなんとか説得する。もうこのまま勢いに乗ってしまおう。それしかない。

「ですので、ティルクさんとジャミラドさんを引き留めていただきたいのです。流石にこの剣を使うところを見せられないといいますか……」

 頼めるのはお義兄さまだけなんです!と、両手を組み上目遣いで頼むと。しばらく考え込んだ義兄は、はぁ、と一つため息をついてこくりと頷いた。

「分かった。だが危険なことは絶対にするなよ」

 そして、ティルクとジャミラドの元へと歩いて行った。


 義兄がティルクとジャミラドの相手をし、上手く注意を逸らしてくれている間に、そっとアースルトランを召喚する。

 アースルトラン、あの赤い花の場所まで階段を作りたいの。手伝ってくれる?

 私が尋ねると、アースルトランは元気な声で、

【もちのろんだよ!ウチと主ちゃんの初の共同作業、派手にいっちゃうよぉ~!!】

 と言う。私はそれに慌てて、待って待ってと呼びかける。

 あくまで静かに、目立たないように!爆音とか立てないで良いからね?あの二人にバレないようにしたいの!

 チラ、と隣にいる二人を見ながら言うと、アースルトランは少し考えるように黙って、

【じゃあもっと離れた方が良くない?階段ならいくらでも長く出来るし、遠い方が音聞こえづらいっしょ】

 そう助言した。その言葉に素直に頷き、義兄に口パクで、行って参ります、と伝え、自分の視界に三人が入らないところまで動く。


 辺りを見回し、誰もいないことを確認してから、思いっきりアースルトランを地面に突き刺し、階段を作るようイメージして魔力を流し込んだ。

【いっくよ~っ!】

 アースルトランの声とともに、ズズズ、と音を立てて地面が変形していき、みるみるうちに階段が伸びていく。魔力が吸われていくのを感じながら、私は階段が伸びていく先を見つめる。

 そして、赤い花の近くまで階段が伸びたことを確認して、私はアースルトランを地面から抜く。そのまま長い階段を駆け上がり、ロトブルメを採取した。

 ちら、と義兄の方を見ると、どうやって引き留めているのかは分からないけれど、ちゃんと二人の注意を引き留めてくれていた。私はそのことに感謝しながら急いで階段を駆け下り、また地面にアースルトランを刺す。

 今度は元の形に戻るようイメージしながら魔力を流し込む。すると、またズズズ、と音がして、階段はぎゅいーんと地面に吸い込まれるように短くなった。

 完璧に元通りになったのを確認し、私はお礼を言ってアースルトランの召喚を解いた。

 手にある赤い可愛らしい花を見つめ、ふぅと息をつく。義兄にバレはしたけれど、なんとか安全に採取できた。


「お義兄さま、ティルクさん、ジャミラドさん、ロトブルメ、採れました~!」

 駆け寄りながらそう叫び、ロトブルメを掲げると。え!?とティルクは振り返り、まじまじとロトブルメと私を交互に見た。

「どうやって採ったんですか?まさか崖を!?」

 本物かどうか確かめながら尋ねるティルクに、

「えーっと……それは秘密です」

 と笑いかけると。ティルクは怪しむような視線を向けた後、ふるふると首を振って笑顔を浮かべた。

「そうですか。まさかこの短時間で全ての材料を採取出来るとは思いませんでした。ありがとうございます」

 ジャミラドも小さく頷き、ありがとう、と呟く。その言葉に、いえいえ、と首を振る私。

「こちらこそ貴重な体験をさせていただきありがとうございました」

 お陰で全魔剣創り終えることが出来ました、と心の中で付け足し、にこりと笑う。義兄はなんとも言えない顔で私の方をじっと見つめていたけれど、

「……用が済んだのなら帰ろう」

 そう言って歩き出した。


 私は笑顔で前を歩く三人の後をついていったけれど、時折三人がちらちらとこちらを伺うように見るので、顔が引きつりそうになってしまった。

 きっと皆、言葉にしていないだけでいろいろ不審に思っているはず。だって、ロトブルメの件といい魔獣の骨の件といい、短時間で一人で採取するなんておかしすぎるもの。

 これ以上不審がられて、警戒されないようにするため、これからはもっと注意深く行動しなければいけない。

 もし変な噂が立ち、危険人物だとマークされたら……その時は、きっと。

 バッドエンドが頭をよぎり、ぶるっと身震いする。

 そうならないためにも、もっと気を付けなければ、と、改めて気を引き締めるのだった。

無事に全ての材料の採取完了です。義兄に魔剣の存在がバレてしまい、ティルクやジャミラドにも何か思われている様子。これ以上何も起こらず、無事に依頼を達成することが出来るのでしょうか。次回は調合です。

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