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採取 一つ目

「お待たせしました、ジャミラドさん、ティルクさん」

 先に来ていた二人にぺこりとお辞儀をしながら挨拶をすると、ティルクはにこりと微笑んでふるふると首を振った。

「いえ、私たちも今来たところですので大丈夫ですよ」

 ジャミラドもこくりと頷いてくれたので、私はほっと安心した。

 それから改めて二人を見ると、ジャミラドは荷物を何も持っていないけれど、反対にティルクは大きなバッグを肩から提げているのに気が付いた。チャックの付いた大きな緑色のバッグで、二リットルのペットボトルが八本は入りそうなものだ。中身はパンパンに膨らんでいてとても重そう。


「あの、ティルクさんが持っているその大きなバッグは何ですか?」

 気になって聞いてみると、あぁ、とティルクは頷いてそのバッグを地面に置き、チャックを開けて私に中身を見せてくれた。

「これは探検用バッグで、たくさん中身が入り丈夫なので愛用しているんです。中には回復薬や魔獣と遭遇した時に使うアイテムなど、いろいろ入っています」

 中はとても綺麗に整理されていて、回復薬が入った瓶やタオル、空の瓶、ナイフ、煙玉みたいな丸いやつなど、たくさん入っていた。歩いても瓶が割れたりごちゃごちゃにならないようにちゃんと仕切られており、ティルクの几帳面さが伺える。


「凄いですね。でも、重くないのですか?とても持ち上げられそうには思えないのですが……」

 バッグからティルクへと視線を移して控えめにそう言えば、ティルクは、あははと笑ってバッグをまた肩にかけた。

「大丈夫ですよ。実はこれ、魔道具でして。バッグの生地に軽量化の魔法陣を組み込んでいますので、そこまで重くはないのです」

「魔道具!そんなものも作れるのですね、素敵です!」

 軽量化バッグという何とも冒険に最適な魔道具を見て顔を輝かせる私に、ティルクも嬉しそうに笑った。

「ルナディールさんもフォーヴィンに来たらいろいろな魔道具を作れるようになりますよ」

「それはとても魅力的なお話です」

 錬金術師のようにポンポンとたくさんの魔道具を製作する自分を想像していると。

「時間がなくなるぞ」

 そう義兄に注意され、私はハッと現実に返る。

「そうですね、さっさと採取を済ませて調合しなければなりませんもの。ジャミラドさん、ティルクさん、採取場所はどこにあるのですか?」

 気を取り直してそう聞けば、

「そうですね、案内しますので私についてきてください」

 そう言ってティルクが歩き出した。私たちも後をついて行くと、ティルクは採取物についても軽く教えてくれた。


「最初は地中に埋まる魔獣の骨を取りにいきます。その次に、湖に生息する魚、フィシュロアを。そして最後は崖に咲く赤い花、ロトブルメを採取して終了です」

 全く知らない花や魚の名前、そして魔獣の骨というまがまがしい言葉を聞いて、つい顔が強ばってしまう私。

「あの、それはどのようなものなのですか?魚も花もよく知らなくて……。それと、魔獣の骨って、もしかして手当たり次第地面を掘って探すのですか?」

 とりあえず情報を、と思いティルクに尋ねると。ティルクは私の不安を和らげようとするみたいに優しく笑った。

「よく知らなくても大丈夫です、フィシュロアもロトブルメも特徴的ですからすぐに分かりますよ。魔獣の骨はあらかじめ採掘場所を何ポイントか決めているので、そこを掘ればきっと出てくるはずです」

 その言葉に安心した私は、ほっと胸をなで下ろす。

「そうなのですね、さすがです」

 そこで、魔獣と言えばビーヴィンだと思い至った私は、

「魔獣の骨の在処はビーヴィンと協力して推測したのですか?」

 と何気なく聞くと、ティルクは苦笑してふるふると首を振った。

「いえ、ビーヴィンとは交流がないもので……私が調べて推測したのです」

「あ、そうだったのですね……」

 そこで会話が終わってしまい、何とも微妙な空気が漂う。続けるべき言葉も見つからず、みんなの歩く音しか聞こえない。


 うわああ、なんてことを言ってしまったんだ私は!空気が一気に微妙なものに……。

 フォーヴィンとプラヴィンの協力関係はないと言っていたんだ、ビーヴィンともないって少し考えれば分かっただろうに。何か、何か話さないと……この空気は気まずい!!


 ちらりと隣を歩く義兄を見るも、もともと口数が少なくあまり人と話そうとしないので頼りにならず、前を歩くジャミラドも静かに歩いているだけ。誰も一向に話す気配がないので、ここは私が空気を変えなくてはなるまい。

 しかし、そう意気込んでも話し下手な私が提供できる面白い話なんてあるわけがなく。どうしようどうしようと焦っているうちに時間はどんどん経ち、話し出すのにも勇気がいる地獄的状況に陥ってしまった。

 そしてその状態のまま、私たちは魔法研究所から少し離れたところにある森へと到着してしまう。

「ここです」

 静かな空間の中ティルクが短くそう言い、ためらいなく森の中へ足を進めていく。それに特にためらった様子もなく続くジャミラドと義兄。もちろん無言である。

 しかし私は、森の薄暗さとミンミンとうるさく鳴く蝉やブンブンと飛び回る虫に恐れを抱き、なかなか森に入る気持ちにはなれなかった。


 数メートル歩いたところで、私がついてこないことに気が付いた義兄が不思議そうに振り返って、

「ルナディール?」

 と声を出した。その声に反応し、ジャミラドとティルクも一斉に振り返り、揃って首を少し傾げた。

「ルナディールさん、どうかしましたか?」

「え、あ、えと……」

 私がおろおろとしていることに不審がった三人は、私の側まで歩いてきて、じっと私を見つめた。三人に見つめられているのと、虫が怖いのとで頭が真っ白になり、私はフリーズしてしまった。


 どどど、どうしよう。ここで、虫が怖いんですなんて言えば、なんで今更言うんだよってツッコまれるだろうし呆れられるに決まってる。

 それに、森にすら入れない虫が怖い臆病な令嬢なんて知られたらまずい。お母さんにはあれだけ他人に弱みを見せるなと言われているんだ。なんとしてでも上手く誤魔化さなければ……。

 もう無になる?依頼達成のために森に入ることは必須。何より私はもう、依頼を完璧にこなしてみせると覚悟を決めた。だから、無になって森へ入るしか……。


 よしっと気合いを入れて、ぐっと前を向く私。すー、はー、と深呼吸をして、なんとか三人に向けてにっこりと笑う。

「すみません、初めての森に少し緊張してしまいまして……もう大丈夫ですわ」

 その言葉に、

「なるほど、確かに初めてなら少し緊張するかもしれませんね」

 と納得したティルク。ジャミラドもこくりと一つ頷き、義兄も、あぁと頷いた。

「大丈夫だ、いざとなったら私がルナディールを守るから安心しろ」

 義兄はそう言って軽くぽんぽんと頭を叩いたあと、気遣うように私の横に立った。それから何事もなかったかのように皆で森の中を進む。

 その道中、私は義兄に頭ぽんぽんをされたせいで、妙に身体が熱く虫なんて気にならなかった。さっきのことがフラッシュバックし、変に緊張してしまったのだ。

 隣を歩く義兄にぶつからないよう、そして私の恐らく赤いであろう顔を気付かれないよう歩くのに必死で、虫なんてものに気を取られている暇はなかった。


 しばらくしてバッグから地図を取り出したティルクは、たびたび立ち止まりながら辺りを見回し、場所を確認しているようだった。私も一度頼んで地図を見せてもらったけれど、大雑把な地形と×印が書いてあるだけで、全く区別がつかなかった。地図の読解は役に立てないと早々に見切りをつけた私は、ただ静かにティルクの後をついていくだけだ。


「……あの木の下辺りですかね」

 地図を片手に、一本の木を指指して言うティルク。私はその目的の木と周囲の木を見比べながら首を傾げる。

 ぱっと見ただの木で、他の木と別に変わったところはない。特別背が高いわけでも太いわけでもなく、そこら辺の木Aといっても良いくらいのものだ。それなのにどうしてあれだと分かるのか。

「あれですか?たいして他の木と変わりないように見えますが……」

 不思議そうに聞くと、ティルクも困ったような顔をして、うーんと唸った。

「私も、あるかもしれない程度に考えていますからね……」

 それからティルクは、その木の近くに生えている青い花のところまで行きしゃがみ込んだ。じっと静かに観察し、それから一つ小さく頷くと、ゆっくりと私の方を振り返り、

「この青い花が何か知っていますか?」

 と一つ質問をした。私はひとまず側に寄りその花を観察するも、全く分からずふるふると首を振る。ティルクに指された花はただの花にしか見えない。花弁が五枚の、そこら辺に咲いていそうな青い花だ。


「この花は、魔獣の死体から漏れ出る僅かな魔力を糧に咲く花なのです。弔い花なんて呼ばれていますね。また、この花自体にほんのりと魔力が込められていることから、魔力花なんて呼ばれることもあります」

「魔力花……」

 そこでもう一度しっかりと花を見つめてみると、花の周囲にうっすらと何か感じられて、おぉ、とつい言葉が漏れた。

「ただ歩いているだけじゃ感じられない程の僅かな魔力ですね」

 試しに花弁に触れてみるも、ただしっとりしているだけで、普通の花とあまり触り心地は変わらなかった。

「えっ、ルナディールさんはこの花の魔力を感じ取ることが出来るのですか?」

 私の感想に、少し驚いたような声で尋ねるティルクに、あれ?と首を傾げる。

「え、感じ取ることが出来るから魔力花なんですよね?」

「えぇっと、これほど僅かな魔力だと、相当魔力が高い方か魔力の扱いに長けている方しか感じ取れないかと……少なくとも私には感じ取ることが出来ません」

 苦笑するティルクに、うそだ!と後ろの二人を見るも、二人ともふるふると首を振って、感じ取れないと言った。なんだか私一人だけ場違い感が凄くて、

「集中したらぼんやり何か感じられませんか?そんなはっきりじゃないですよ?ほんと、ちょっと違和感あるなぁ程度に!」

 と尋ねてみるも、誰一人として共感してくれず、私はがっくりと肩を落とした。

「まぁまぁ、それほどルナディールさんは優秀だということですので、そんなに落ち込まないでください。むしろ誇って良いことかと」

 そうだぞ、と皆が励ましてくれる中、やっぱり疎外感が半端なくて、私は曖昧に笑ってその場を濁した。そして、魔力が感じられるかどうかは先に周囲に聞いてから述べようと強く思った。そうでなければ、いつかとんでもない誤解をされそうで、そして面倒なことに巻き込まれそうな嫌な予感がした。


「ところで、この花と魔獣の骨の関係ってなんですか?」

 魔力花から離れたくてそう問えば、ティルクはこくりと一つ頷いて説明してくれた。

「はい。さっきも説明したとおり、この花は死体の近くでしか咲きません。よって、この近くに魔獣の骨が埋められていることが多いんです。魔獣の一部には、自分の家族が死んだ際に、その死体を埋める習慣があるものもいます。お墓みたいなものですね。そんなお墓に生えることが多いから、弔い花。だから魔獣の骨を見つける際には目印になるんですよ」

「……そうなんですね」

 魔獣にも家族の死を弔うものがあるのか、としみじみしながら花を見つめていると、ティルクはがさごそとバッグを探り小さなスコップを人数分取り出した。

「それでは、この辺りを掘ってみましょうか」

「はい」


 手渡されたスコップを使い、各自自分に割り当てられたエリアを黙々と掘る。しかし、掘っても掘っても骨は出てこず、おまけにスコップも小さいので効率が悪い。手が痛くなってきて、一体どこまで掘れば良いんだとくじけそうになった頃。視界の隅で魔力花が小さく揺れ、ふと疑問が湧いた。

「……あの、魔力花って死体の近くに咲くんですよね?」

 ざっくざっくと土を掘り進めていたティルクが手を止め、顔を上げる。

「はい」

「……それって、埋められていないでただ横たわっている死体の側にも咲きます?」

「はい。弔い花は、死んで間もない身体から漏れ出していく魔力を糧に咲きますから。逆に、魔力が全くないものや魔力の枯渇で死んだ死体の側には咲きません」

「……」

 そこで一旦考えをまとめるべく、黙る。会話を聞いていたのだろう二人もいつの間にか手を止めてこちらを見ている。

「咲き方って、埋められた死体の側か横たわっている死体の側で変わったりします?」

「いえ、同じですよ。まぁ、野晒しにされている死体は高確率で魔獣に食べられますから、横たわっている死体の側で魔力花がちゃんと咲く確率は低いですけれどね」

 そこまで聞いて、私はある考えが頭をよぎり、具合悪くなった。

「……あの、それって、この花の近くを掘ったら腐った死体とか出てきません?魔獣の骨だけが出るってわけじゃないんじゃ?」

 放置された死体がどのぐらいの時間で地に還るか知らないけれど、運が悪ければ最悪、骨じゃないものが……。

 そんな言葉に、うーんと少し考えたティルクが、困ったように笑った。

「そうですね、ないとは言い切れません。本によると、死体の側に弔い花が咲くのは約一週間らしいです。だいたい魔力は一週間弱で体内から無くなるそうですし」

 でもまぁ、骨を探しているわけですからね……と呟くティルクに、私は分かりやすく血の気が引いた。きっと一瞬で顔が真っ白になったはずだ。なんてったって、血とか死体とか、そういうグロテクスなものに私は弱いのだから。


 ……そもそも弔い花なんて呼ばれている、お墓っぽい役割果たしてるものの近くを掘り返すって時点でやばいと思うべきだった。どうしよう、スコップが何か柔らかいものに当たって、それが新鮮な……というのもおかしいけれど、死んだばっかりの死体だったら?

 え、吐いちゃうよ。気絶しちゃうよ?

 こんな気味の悪い作業もうやだよ。小さいスコップで掘り返して汗だくになって、運が悪ければ死体とご対面?え、それになんの得がある。


「大丈夫か、ルナディール?」

 心配そうに顔を覗き込む義兄。しかし私の頭の中は、気持ち悪いと、もうやりたくないという考えが渦巻いていて言葉を返すことも出来ない。

 何か、何か良い案を……。

 最悪の事態を避けて魔獣の骨を発見するために、私は頭をフル回転させた。

「あ、あのっ!魔獣の骨の特徴は?魔獣の骨なら何でも良いんですか?何の魔獣でも良いんですか?というか地面に埋まっているものしかダメなんですか?」

 矢継ぎ早にティルクに尋ねると、彼は、落ち着いてと言わんばかりに手を挙げてゆっくりと言葉を発した。

「えっと、魔獣の骨なら何でも良いですよ。種類は問いません。だから特徴とかはないですね。それ自体はただの骨ですし。地面に埋まっているものっていうのは、それが一番安全な採取方法かなと思っただけで、もし魔獣を殺してその場で解体し、骨を手に入れられるのならばその方法でも大丈夫です」

 ティルクの言葉をしっかり頭に刻みながら、良い方法はないかと考えていると。ふと、

「骨以外消滅出来たら、簡単」

 とジャミラドが呟き、それに、

「そんなこと出来るわけないよ」

 とティルクが返すやり取りが聞こえ、私はバッと顔を上げた。

 骨以外消滅。無理難題に思えることも、私になら……正確に言えば、ダークンヴェルダーなら出来るかもしれない。


 そう考えた私は、すぐさま行動に移すことにした。もちろん人前で魔剣を出すことは出来ないので、内密に、かつ迅速に。

「わたくし、少しあちらで骨を探してきますね。何かあれば上空に魔法を放ちますのでお構いなく!」

 交渉しても過保護な義兄は許可してくれないと思ったので、私は素早く用件を伝え走り去った。恐らく驚いてすぐには行動出来ないはずなので、その間になるべく見つからないところまで離れる。それがベストだと考えた私はとにかく走った。


 しばらく走ってから辺りを注意深く見回し、人がいないことを確認してからダークンヴェルダーを召喚した。

 もたもたしていると優秀な義兄に捕まってしまいそうだったので、手短に。するとやはりダークンヴェルダーなら魔獣も骨だけ残して消し去ることが出来るみたいだったので、私は勇んで魔物を探しに行った。もちろんダークンヴェルダーに教えてもらいながら。なんでも、ダークンヴェルダーには魔力を感知することが出来るみたいで、魔獣の場所も分かるらしい。

 それにしても、私の望むものを……しかも、体内にある骨以外っていうピンポイントのものまで消し去れるなんて優秀すぎる。しかもダークンヴェルダーのお陰で魔獣を探すのにも苦労しない。本当に素晴らしいパートナーだ。


 ダークンヴェルダーによるお導きで見事魔獣を発見した後は、背後から一振りブインと剣を振り下ろすだけ。それだけで標的の魔獣は言葉通り骨と化してしまった。

 もちろん血は見ないにしても、黒い霧が魔獣を取り囲み、それが晴れた瞬間にバラバラと音を立てて何本もの骨が地面に落ちる様は見ていて気持ちの良いものではなかった。しかし、汗水垂らして穴を掘り、腐った死体とご対面、なんてよりは全然良い。


 私は恐る恐る骨のたまり場に近づき、さっきまで魔獣だったとは思えないほど真っ白で綺麗な、肉片一つ無い骨を一つつまみ上げる。残りは全てシャイニンフェルにしまってもらった。何本だったかは分からない。気持ち悪くて数えられなかった。

 それからダークンヴェルダーに三人の元へ案内してもらい、無事合流を果たした私は、また義兄にこっぴどく叱られたのであった。でももちろん後悔はない。だって、掘るよりも簡単に、そして気絶せずに採取できたのだから。

無事一つ目採取完了です。じゃんじゃん採取して行きましょう!次は二つ目です。

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