表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/108

専属護衛問題

 お城の中に入ってから少し経ち、共通の話題もあまりない私たちはずっと無言で歩いていた。よろしくお願いしますと言った手前、この無言の時間がとてもぎこちなく感じる。しかし、なにかを話そうにも話題がない。

 あのヴィントの絶えることのない会話術を改めて尊敬していると、ふと前方に、緑色の長髪の人が部屋から出てくるのが見えた。

 あの目立つ容姿はヴィントに違いない。私がそう思っていると、ふとヴィントもこちらの方を向き、あれ?と首を傾げる。そして、にこやかに私の方に歩いてきた。


「ルナディールちゃん?どうしてここに?」

 その言葉に、私は笑顔を浮かべて返す。

「ヴィントさんの帰りが遅いので、探しに来たのです」

 するとヴィントははじけるような笑みを浮かべ、

「そうなの?わざわざ僕を捜してくれるだなんて嬉しいな。ありがとう」

 そして相変わらずの流れるような動作で私の手を取り、

「でも、勝手に一人で出歩いたらダメだよ?ルナディールちゃんは可愛いんだから」

 そんなことを囁いて、そっと私の髪を撫でた。

「君に何かあったら、大変だからね」

「……っ!」

 会ってすぐのこのやり取りに、私の心臓はバクバクとうるさく鳴ってしまう。本当にヴィントは危ない。こんなことを全女性にやっていたら、いつの日かヴィントに惚れてしまった女性たちがバトルを繰り広げてしまいそうで怖い。女性がらみでバッドエンド、なんてことになってヴィントが無残に散っていく姿を想像してしまい、私は静かに心の中で合掌した。


「お前はルナディール相手にもそんなことをやっているのか」

 ふと聞こえた声に視線をヴィントの後ろにやると、そこには微妙な顔をしたカリフストラと、なぜか拳を振るわせている義兄がいた。

「お義兄さまにカリフストラさま!いらっしゃったのですね」

 ヴィントから離れ、二人の側へ寄りにこりと微笑む。

「カリフストラさま、お久しぶりです」

「久しいな、ルナディール。その後どうだ?訓練には励んでいるのか?」

「はい。日々特訓の繰り返しですわ」


 カリフストラとそんなやり取りをしながら、義兄の方をちらっと盗み見る。義兄とは最近まともに会話が出来ていなかったので、少し怖いのだ。また相手にされなかったらどうしよう、と思いながらも私は勇気を出して義兄に話しかけた。

「お義兄さまも来ていたのですね。まさかここで会えるとは思っていなかったので嬉しいです」

 すると義兄は、ふいっとそっぽを向いて黙ってしまった。その様子に軽くショックを覚えていると、

「……暇が出来たからな。仕事に来ている。……ルナディールこそ、魔法研究所にいるのでは?」

 結構間が空いたものの、ちゃんと答えてくれたので私は嬉しくてつい顔がほころぶ。

 ようやく会話らしい会話が出来る!と思いながら、

「はい。ですが、少し急用ができてヴィントさんと一緒にお城へ来たのです。あとは魔法研究所に戻るだけですわ」

 と答えると、義兄はじっと見定めるようにヴィントを見つめ、

「二人でか?」

 と言葉を発した。私はそうですと頷く。すると、義兄の顔は少し険しくなってしまった。


 何となく空気が悪くなってしまった気がしたので、私は急いでヴィントの方を振り向き、

「ところでヴィントさん、もう用事は済んだのですか?」

 と話題を変えるべく話を振った。するとヴィントは爽やかに笑い、

「うん。ちゃんと報告出来たからあとは帰るだけかな。待たせちゃってごめんね?」

 と言う。一体何の報告をしていたのかは分からないけれど、応接室を使う辺りなんとなく気軽に聞いちゃいけない気もして、私はただ、そうですかと言って微笑む。


 それから、少し離れたところで静かにこちらを見守るライアンの元に行き、

「ここまで護衛してくださりありがとうございました」

 とお礼を言った。するとライアンはただ小さく頷き、

「いえ、騎士として当然のことをしたまでです」

 と発した。もしかしてカリフストラを意識しているのだろうか。そんな風に思っていると、

「なんだ、ルナディール。ライアンを専属護衛に希望するのか?」

 とカリフストラが会話に参入してきて、私は首を傾げる。

「専属護衛?何のことですか?」

「何って、探していたのではないのか?専属護衛。レイングリーナ様とそのような話をしておっただろう」

 不思議そうな顔をしてそう尋ねるカリフストラに、私は、あっと小さく声を上げる。

 そう言えば、そんな話をレイングリーナさまとしたかもしれない。専属護衛か、いいなぁ、私もそんな騎士がいたら……とか考えていた気がする。


 私のそんな様子を見たカリフストラは、

「もしかして、自分で言っておきながら忘れていたのか?」

 と呆れたように言った。その言葉に、私はぎくりと身体を揺らす。

 ……確かに忘れていた。でも、そもそも専属護衛なんてそんなたいそうなもの、私に付くとは思えなかったのだ。だって、このお城にいる騎士団の人って王族や国のための騎士でしょう?それが私個人のって……ありえないよ。


 私は、さも忘れていませんでしたよ風を装って、にこりと笑みを浮かべる。

「まさか。ただ、わたくしのようなただの一般人に王族の皆さまや国をお守りする立場の騎士さまを専属護衛に出来るとは思っていませんでしたから」

 だから変な声を出してしまったのです、と言えば、カリフストラは、はてと首を傾げ、

「だが、レイングリーナさまはルナディールが気に入った騎士がいるのなら専属護衛にしても良いとおっしゃっていたぞ。『魔法研究所へ行ったり下町へ行ったりするのならばそういった者も必要でしょうし、何より息子二人がお世話になっているのだからそのくらいはしませんと』とな。国王さまもクリストフの娘なら良いとおっしゃっていた」

 とさらに驚くべきことをさらりと言った。私は開いた口が塞がらなくなってしまった。


 ……ん、これはどういうことかな?私は騎士団の人を専属護衛に出来るということかな?

 というかそれよりも、なんで?息子二人がお世話になっているのだからそのくらいは?なんか含みがありそうで怖い。それになんで私が下町に行きたがってること知ってるの。

 そして国王さま!まだ一度も会ったことがない得体の知れない人に騎士団の人を貸し出すとかどういう頭しているの?それとも、それだけお父さんは国王さまに信頼されてるってことなのかな。それだったらとても嬉しいことなんだけど……。


 私がみっともなく口を開けたまま呆けていると、カリフストラは、わははと面白そうに笑って、

「そんなに驚くほど嬉しいのか?ルナディールならばどんなやつでも貸し出せるぞ。良い訓練にもなりそうだしな。護衛対象が強ければ強いほど、護衛する方もモチベーションが上がり強くなるというものだ」

 なんてことを言うものだから、私はどうしたものかと途方に暮れた。


 そんな時に、少し離れたところで傍観していたらしい義兄と目が合ったので、助けてください、と目でうったえてみた。しかし、ふいとそっぽを向かれ拒否される私。その姿を見て、またやってしまった!と一人心の中で頭を抱えた。


 そういえば、私が一人で魔研に行くことを決めたのは義兄に頼らないようにするためだった。それなのに、また今、頼ろうとしてしまった。こんな私だから義兄にも愛想を尽かされるんだ。

 これ以上嫌われたら私の命が危ない!


 そう思った私は、なんとか今の状況を打開するべく策を練ろうとした。


 確かにイケメンの護衛がいたらいいなぁなんて考えていたけれど、もうこれ以上はお腹いっぱいだ。それに、この世界での騎士なんていったら破壊力凄いに決まってる。恋愛漫画でしか見たことがないようなシチュエーションがぼろぼろ転がっているような世界で騎士なんて付けてみろ。心臓が持たないに決まってる。

 じゃあ、どうしたら上手く断れるだろうか?

 でも、そもそもこれは国王さまもオッケーしてて、なんならもう私が専属護衛を付けるっていう話の流れなのだろうか。それだったら私、断りようなくない?だって、王族の言うことは絶対、でしょう?

 いやそもそも私の家族はこのことについて知っているの?了承するとは思えないのだけど……。


「あの、カリフストラさま。わたくしの専属護衛の話、お父さまとお母さまはなんて言っているのですか?わたくし、この話がどこまで進んでいるのか全く知らないのですけれど……」

 どうか断る路線であってくれ、と願いながら聞くも、その願いはカリフストラの清々しいほどの笑みを前にして砕け散った。

「ああ、二人とも了承していたぞ。国王と王妃さまがそうおっしゃるのなら、と」


 ああーー、それは断れないやつだ!その言い方的に絶対そう。

 半分放心状態になりながら義兄の方を向き、

「あの、お義兄さまもこの話は知っていたのですか?」

 と聞くと、義兄はぎこちなく頷き、

「ああ。義父さんと義母さんが話していたからな。ルナディールが一人であっちこっち自由に動き回るより、騎士団の人に制御してもらった方が良いと言っていた」

 と、なんとも反応しがたい言葉を発した。

 その言い方がまるで、どこかの暴れ馬を騎士に調教してもらおうというような感じだったので、私の顔は引きつる。

「……そんなに問題児ですか私は」

「なに、その方が護衛も鍛えられるというものだ」


 思ってもいなかった精神攻撃を食らい立ち直れないでいると、ヴィントがそっと私の肩に手を置き、

「本当にルナディールちゃんは愛されているんだね」

 と、素敵な笑顔を浮かべるので、私は、あははととりあえず笑っておいた。

「愛されて……いるんですかね」

「……いるさ。羨ましいくらいに」

 私の返答に、なんだか悲しそうな笑みをしたヴィント。その様子に違和感を感じるも、すぐさま笑顔に戻ってしまったので、私は何も言葉をかけられなかった。


「それより!ルナディールちゃん、護衛はどうするんだい?今の話を聞くと、もうそろそろ決めた方が良いんじゃないかと思うんだけど」

 明るく話題を変えたヴィントに、カリフストラもそうだなと一つ頷く。

「最近じゃ騎士団員の中でも、いつルナディールがまた見学に来るか、どうやって自分を売り込もうか考えているやつがいるからな。こっちとしてもなるべく早く決めてくれると助かる」

「え、そんなにですか?こんな私の護衛をするより、訓練したり王族や国のために動いた方が幸せだと思うんですけれど……」

 自分を売り込もうとする、という言葉に反応し声を上げると、カリフストラはふるふると首を振り、

「国王が、騎士団員の誰かが専属としてルナディールの護衛につくことをお許しになったんだ。専属護衛になれば王族に自分が認知されるかもしれない。そう思ったらやる気も出るだろう」

 と静かにそう言った。

 そこで、そういえば騎士団員ってたくさんいたなと思い出し、その中から専属護衛を見つけるのかと内心辟易した。

 これも全て、自分が安易に専属騎士ってカッコいいな、なんて王族の前で言ってしまったからだ。まさかレイングリーナさまからここまで発展するなんて。王族って恐ろしい。


「まぁ、どんなやつを選ぶにしてもこの国の騎士団に所属する者だ、半端な覚悟で挑む輩ではないと約束しよう。だから安心して選ぶと良い」

 その言葉に笑顔で頷きながら、さてどうしたものかと考える。


 私の記憶が確かならば、確か騎士団の人は全員で二千人ぐらいいた気がする。その中から一人……いや、二人?三人?あれ、何人を選べば良いんだ?

 というか、そんな大勢の中からどうやって選び出す?実際に会って?面談?いやいや、そんな大それたことはやりたくないな。あまり目立ちたくないし……。

 でも、専属護衛が出来ちゃったら魔研にも付いてくるってことなのかな。下町にも?……それってものすごく目立たない?私、目立ちたくないのに……。

 というか、護衛がむちゃくちゃ厳しい人だったら、下町に行ってもメルアちゃんとお話出来ないのでは!?それは困る、私の癒やし、天使なのに!!

 だったら、親しみやすくて私の行動にも理解を示してくれる寛容な人が良いよね。それと、お忍び用の格好を厭わない人。これは大事だ。

 ……でも、そんな人がいるのかな。なんかいない気がする……。だって、騎士団員といっても貴族の人が多いわけだし。平民がいるのかは分からないけれど、魔研のことを考えるとあんまりいなさそう。

 これは……世界一難しい問題かもしれない。


 そんなことを考えていたからだろう。ヴィントがつんつんと私の眉間をつつき、

「顔、怖いよ。もっと気楽に考えなよ。君の護衛なんでしょ?だったら、この人だ!って決まるまでゆっくり待ってみたら?さっきは急かすようなこと言っちゃったけど、一番はルナディールちゃんの気持ちだし」

 と、素敵な笑顔を浮かべた。カリフストラもなんだか申し訳なさそうな顔をして、

「ヴィントの言う通りだな。まぁ、暇な時にでも見学に来てゆっくり決めれば良い。ルナディールならいつでも見学出来るよう話を通しておく」

 と言う。私はそんな二人に感謝しながら、

「そうですね。今すぐには決められないので、いろんな人を見てじっくり決めたいと思います」

 と笑顔で返す。その返答に満足したらしい二人も、うんうんと頷いていた。


「それじゃあ、僕たちはもうそろそろ魔法研究所に戻ろっか。あんまりぐだぐだしていると、あの生真面目に何言われるか分からないからね」

 やれやれ、と両手を挙げて告げるヴィントに、くすっと笑みが溢れる。

「そうですね。すぐ戻るって言ってきちゃいましたし、私もルークスさんに報告することがありますから」

「それなら、私たちも訓練場に戻ることにする。ヴィント、アリステラ、ルナディール、またな」

 颯爽と立ち去るカリフストラに、まるで子分のように付き従って退場するライアン。その姿に、本当にライアンはカリフストラのことが好きなんだなとしみじみと思った。


「よし、それじゃあルナディールちゃん、手を」

 そう言って恭しく差し出された手に、またエスコートしてくれるのか、本当に優しい人だなと思いながら手を重ねると、ヴィントはにこりと笑った。

「それじゃあ帰ろうか、僕たちの魔法研究所へ」

 はい、と私も笑顔で答え、それでは、と義兄に向き直る。

「私はヴィントさんと一緒に魔法研究所に戻りますね。お義兄さまもお仕事頑張ってくださいませ」

 すると義兄は何かを言いかけ、ふるふると小さく首を振って、

「分かった」

 とだけ短く答えた。それからヴィントに鋭い視線を送り、

「ルナディールに何かしたら許さないからな」

 と言って立ち去ってしまった。

 取り残された私たちはしばらくその義兄の後ろ姿を見送っており、姿が見えなくなると、さぁ!と気を取り直したような声を出してヴィントが微笑んだ。

「改めて。帰ろっか、ルナディールちゃん」

「はい」

専属護衛って憧れますよね。イケメン騎士様登場なるのか……。次回は魔法研究所に戻ってルークスに報告です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ