表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/108

ライアンとの出会い

 フォスライナにエスコートしてもらい馬車の前までたどり着いた私は、ヴィントが来るのをじっと待っていた。しかし、待っても待っても来ず、何もしないで一人で待つのがだんだん苦痛になってくる。

 元々私は、何もないところで時間を潰すことが苦手なのだ。話し相手の一人でもいたらどれほど良かったか。ただじっと突っ立っていると、妙に他の人からの視線が気になって仕方がなくなり、居心地が悪く感じてしまう。


 しばらく待ってみてもヴィントが来る気配はなく、私も待つのが耐えられなくなってきたので、思い切って訓練場まで行ってみるかと考えた。最悪入れ違いになる可能性もあるけれど、馬車の前に集合だったので、戻ってくれば問題はない。何もしないで一人寂しく待つより全然良い。

 思い立ったら即行動!私はカリフストラと走り回った、素敵な花が咲き乱れるお庭を足早に通り過ぎ、訓練場へと向かった。


「……はぁ、はぁ、はぁ」

 訓練場で騎士が何やら実践訓練をしている傍ら、私は膝に手をついてなんとか息を整えていた。そして、またあの広い庭で本気で走る羽目になった元凶の虫たちに腹を立てる。

 どうしてあんなに蝶々とか毛虫とか蜂とかその他もろもろ色んな虫がいるのよ!

 流れてくる汗をハンカチで拭いながら、私は少し前に起こった出来事を思い出す。


 私の服にピタッと張り付いた虫。あのときはさすがに終わったと思った。

 叫びたいのを必死に堪えながら風魔法で追っ払ったら、意外と強い風が出てしまい、近くにあった花たちに直撃。そこで休んでいた虫は、驚いて一斉に私に向かって飛びかかる。

 ……あれは地獄の光景ね。あんなに恐ろしいことってそうそうないんじゃないかな。おかげでまた全力ダッシュだよ。汗だくだくだし服も汚れちゃったし。ほんとドレスって走りづらいよね。


 訓練場まで来るのに、もっと安全な道はないのかと考えていると、ふと一人の騎士がこちらに歩いてくるのが見えて、私は仕方なく背筋を伸ばした。人前でみっともない姿は見せるなと散々言われたのだ、堂々としていなければ。


 暑くて死にそうになりながら笑みを浮かべると、

「失礼ですが、貴女様はルナディール・ロディアーナ様でいらっしゃいますか?」

 と騎士が唐突に尋ねてきた。私は名前が知られていることに驚きながらもこくりと頷く。

「はい。どうしてわたくしの名前を?」

「先日、ロディアーナ家のご令嬢が騎士団の見学にいらっしゃったと伺っていたので、そうではないかと思ったのです。それで、今回はどのようなご用件で?」

 ちゃんとそういう話は共有されているのか、と若干感心しながらも私は問いに答える。

「ヴィントを尋ねに来たのです。なかなか戻って来ないものですから、気になってしまいまして」

 私がにこりと告げると、騎士は少し間を置いて、ああ、と小さく溢した。

「魔法研究所の方ですね?緑色の髪の」

「はい、そうです」

「それなら、カリフストラ様と一緒に城内へ入られました。内密の話だったのでしょう。おそらくこちらには戻ってこないかと」

 その言葉に、私はガーンと一人ショックを受ける。


 あんなに走って、こんなに疲れて、それなのにお城の中でお話中とか……うぅ、まさか会えないとは。ここに戻って来ないのなら、ここで待たせてもらうわけにもいかないよね。だったら、またあの魔の道を通るのか……。


 意外と早くに魔の道を通らなくてはいけなくなり、私は途方に暮れる。すると騎士は、そんな私の様子をくみ取ったのか、

「どうかしましたか?」

 と尋ねてきた。私は本当のことを答えても良いものかとためらわれたが、他の言い訳も思いつかなかったので白状することにした。今は頭が上手く回らないくらい疲れているのだ。虫のせいで。

「いえ、それならもうここにいる理由はなくなってしまったのだと思いまして。先ほど通ってきた道……あの、虫がたくさんいるお庭をまた走り抜けなければならないのかと思ったら嫌気がさしただけですわ」

 その言葉に驚いたのか、黙ってしまった騎士。甲冑のせいで顔が見えず、表情も分からない。

 騎士団の人たちは、お互い顔が見えないのによく意思疎通が出来るものだと感心しながら、私は仕方なく後ろを向いた。

 これからまた戦いである。今度は全力ダッシュせずに通りたいけれど、果たしてその願いが叶うのか。


 すぅっと息を吸い、よし!と自分に気合いを入れたところで、

「あの……その庭を通らずに正門へ行くことが出来ますよ」

 と、騎士が衝撃の事実を述べた。その嬉しすぎる言葉に、私はすぐさま振り返る。

「それは本当ですかっ!?」

「……はい。城内を通れば行けます」

「城内!?城内から直接ここに来られたの!?え、じゃあなんであの時カリフストラさまはわざわざ一旦外へ?」

 わけが分からない、と疑問に思ったが、ここから魔の道を通らずに馬車の前まで行けることにほっとし、そんなことはどうでも良いかと思い直した。それより道順を聞く方が重要だ。


「それで、その城内に入る扉というのはどこにあるのですか?」

 声を弾ませながら聞くと、騎士は少し考え込み、

「教えるのは構いませんが、お一人で向かわれるおつもりですか?」

 と聞いてきた。私はもちろんですと頷く。

「騎士の皆さんは訓練でお忙しいでしょうし、道案内のために貴重なお時間を取らせるわけにはいきません。迷ったら近くにいる人にでも聞きますから、一人でも大丈夫ですわ」

 だから安心して下さい、と笑顔を浮かべてもまだ思うところがあるのか、なかなか「はい」と言ってくれない。

 何か都合の悪いことでもあるのだろうか?と不思議に思っていると。

「僭越ながら、私が貴女様の護衛についてもよろしいでしょうか。さすがにロディアーナ家のご令嬢をお一人にするわけには参りませんので」

 と、まさかの提案をしてきた。

「いえ、警護だなんてそんな。お城の中ですし、少しくらい一人でも大丈夫ですわ」


 むしろ、警護だなんてそんなたいそうなことさせられない、と思いふるふると首を振ると、

「確かにカリフストラ様がお認めになるようなお強い方に、私などのような護衛など要らないと思われても仕方がありませんが、騎士たるもの、貴女様のような方を守るのも役目の一つです。ここはどうか、私に護衛をさせてください!」

 と頭を下げられてしまった。

 見ず知らずの騎士にここまで頼まれて、いや大丈夫ですともう一度断りにくい……。

 なんて騎士精神がある素晴らしい人なんだろう。お城なんかで事件とかそうそう起こらないだろうに真面目すぎる。私だったら、一人で行っておいでと送り出すに違いない。


「……分かりました、よろしくお願いします」

 私がぺこりとお辞儀をすると、騎士はビシッと敬礼して、

「はっ、ライアン・ドルナンド、必ずや貴女様の身をお守りいたします!」

 と大声で言われ、恥ずかしさで少し顔が赤くなってしまった。


「それでは、貴女様の護衛をすることになった旨を他の団員に報告してきてもよろしいでしょうか」

「もちろんです」

 私もライアンと名乗った騎士の後ろをついて行き、騎士団の皆の近くに寄る。やっぱり甲冑を着ているせいで顔は全く分からなかった。


 ライアンが一つ号令をかけると、ビシッと団員が整列する。そして少しの間抜けることを伝え、何やらメニューのようなものを伝えるライアン。その姿に、あれ?と冷や汗が流れた。

「お待たせしました」

 そう言ってライアンが戻ってきて、その姿にやや緊張しながらも、

「あの……もしかして、偉い方だったりします?」

 と聞くと、ライアンは首を振って、

「いや、偉くはないですよ。私はただのチーム二のリーダーですので」

 と言った。本当に凄くないと思っているのだろう。その言葉は心から言っているように聞こえた。

「……そうですか」

 だから私はそれぐらいしか言えなかったけれど、内心とても動揺していた。


 いやいやチーム二のリーダーって十分凄い人だよね?多分、騎士団の中で上から二番目に強いチームのリーダーってことだもの。こんな人に護衛されるような人間じゃないよ私は。

 ……いや、確かに身分で言えば守られて当然の立場なのかもしれない。でも、でも!お城だよ?魔獣がいっぱい出る森とかじゃなくて、警備がしっかりしてそうなお城。こんな犯罪も起こらなさそうなところで護衛されるなんて……。

 なんか申し訳なさが勝つ。私の我が儘のせいで貴重な訓練の時間を奪ってしまってごめんなさいって謝りたくなる。だって、大人しくあの魔の道を通ることを選んでいれば、ライアンの時間を奪うことにはならなかったんだから。


 そう考えると、なんだか謝らないと気が済まなくなり、私は隣で歩くライアンの顔を見上げ、

「わたくしの我が儘のせいで護衛をさせることになってしまい、申し訳ございません。あの魔の道……いえ、お庭を突っ切ることを厭わなければ、ドルナンドさまにご迷惑をかけることもなかったでしょうに」

 本当にすみません、と謝ると、ライアンは少し慌てたように首を振り、いいえと否定した。

「そんな、ロディアーナ様が気にするようなことではありません。それに、例えあの庭を突っ切るといっても、私を護衛にと申し出ていましたから」

 その言葉に、やっぱり私のようなご令嬢は一人で外を歩くことも出来ないのかと少しだけ悲しくなった。

 ……どこにいくにも誰かと一緒ってなんか嫌だな。たまには一人で散歩したい時だってあるだろうに。お貴族様っていうのはなんとも面倒な。


「……ありがとうございます」

 とりあえずお礼を言って、会話は終了となってしまった。

 ちら、とライアンの方を見るも甲冑で表情は見えない。ものすごく怖い顔をした男の人だったらどうしよう。表面上は優しくても内心とても怒ってたり面倒に思ってたら怖いな。


 互いに黙ったまま歩いていると、そういえば、とさっきのライアンの言葉を思い出した。

 私の聞き間違いでないならば、この人は、私のことを『カリフストラ様がお認めになるようなお強い方』と言っていた気がする。これって、どういうことなのだろうか。

 私は別に、カリフストラに強い人だと認めてもらった記憶はない。この人は何か勘違いをしているのではないだろうか。それか、魔研でそうだったみたいに噂が一人歩きしているのか。


 聞くのがためらわれたけれど、そのままにしておくのも気持ちが悪いので私は思いきって聞いてみることにした。

「あの、ドルナンドさま。一つよろしいでしょうか?」

「はい、なんでしょう?」

「……先ほどおっしゃっていた、『カリフストラ様がお認めになるようなお強い方』とは何のことでしょうか。わたくし、カリフストラさまに認められた記憶はないのですけれど……」

 するとライアンは首を傾げて私の顔をちら、と見てから、なぜかくすっと笑った。私は笑われた理由が分からなくて、こてりと首を傾げる。

「ロディアーナ様は本当に謙虚でいらっしゃるのですね。カリフストラ様のおっしゃる通りです」

 会話が見えなくて、頭の中はさらにハテナマークでいっぱいになる。


「カリフストラ様はロディアーナ様のことをとてもお褒めになっていましたよ。あのような令嬢はなかなかいないとおっしゃり、是非騎士団に入って欲しいものだなぁと常に溢しています。クリストフ様には断られているみたいですが」

「わたくしが騎士団に!?一体何のご冗談でしょうか。こんな体力も筋力もないただの一般人が騎士団へ入りでもしたら、すぐに動けなくなってしまいます」

 また自分の知らないところで変な方向に話が進んでいる!と思いながらも私は即答する。しかし、ライアンは全く聞く耳を持たず、本当に私が強いんだと勘違いしているらしい。

「何をおっしゃいますか。あのカリフストラ様が騎士団にとおっしゃっているのですよ?カリフストラ様がお認めになるロディアーナ様ですから大丈夫ですよ」

 さらっとそう返すライアンに、このカリフストラ信者には何を言っても分かってもらえなさそうだ、と半分諦めながらふるふると首を振る。

「わたくし、剣術はまだ勉強中の身ですので弱いのです」

「謙虚な人こそ本当の強者だとも言うではないですか」

 それはどこ情報だ。


 私が強いという誤解をどうしたら解けるかと考えていると、ふと、

「……あの、ロディアーナさま。私のことはどうぞライアンとお呼び下さい。敬語も不要です」

 と言ってきたので、私はこてりと首を傾げる。


 別にライアンと名前で呼ぶのは良いのだが、敬語が不要というところが分からない。魔研でもそうだった。

 でも、敬語って誰に対しても使うものだよね?特に目上の人に対しては。

 魔研では、身分関係なく成果を残している人が偉いといっていたから、私は普通敬語を使う立場だ。新人だから。それなのに、敬語はいらないと言われたりする。

 貴族社会でも普通敬語は使うものだ。見知らぬ人とか身分が上の者とか。

 ライアンは、騎士団の中でも強い方のチームのリーダーでおそらく年上だ。こんな肩書きだけのご令嬢よりも断然身分は高いように思える。


 何をもって敬語を使うか否かの判断をしているのかが全く分からず、一人で考えていると、急に黙ってしまった私に慌ててライアンが言葉を発した。

「申し訳ございません、急にこのようなことを言われても困りますよね。忘れて下さい……」

 その言葉にハッとし、私は慌てて首を振る。

「いえ、謝らないでくださいませ。少し考え事をしていただけですわ……。えっと、これからはライアンさまとお呼びいたしますね」

 にこり、と微笑むと、ライアンはまた慌てて、

「いえ、呼び捨てで大丈夫です!敬語も不要ですし……」

 と先ほどと同じようなことを良い、少し困ってしまう。

「ええと……すみませんが、いきなりはちょっと。リーダーという役職についておられるほど優秀な方には敬語を使いたくなるといいますか……」


 お城に勤めている人に軽々しくため口とか使えないよ、と思いながらなんとか言葉を探していると。ライアンはあからさまに肩を落とし、ふるふると首を振った。

「いえ、こちらこそすみませんでした。少し焦ってしまい……ロディアーナさまのお好きなように接していただいて大丈夫です」

 焦る、の意味が分からなかったけれど、それでもなんとか自分のペースで大丈夫だと言われてほっとし笑みを浮かべる。

「はい、それではライアンさま、これからよろしくお願いいたします」

 ぺこり、と一応淑女の礼をし、そこで、あ、とまた口を開く。

「わたくしのことはルナディールとお呼びくださいませ。お城にはロディアーナさまがたくさんいて紛らわしいでしょう?」

 義兄とお父さん、お母さんのことを思い浮かべながらそう言うと、ライアンもくすっと笑って頷いた。

「かしこまりました。それではルナディールさまとお呼びいたしますね。こちらこそ、よろしくお願いいたしします」

ライアン登場です。ルナディールは知り合いがどんどん増えていくので、ルナディール自身名前とかこんがらがりそうですよね。次回は久しぶりのカリフストラとアリステラ登場です。もちろんヴィントも出てきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ