SS~お義兄さまとのお稽古~
200ポイント達成、ありがとうございます!記念にSS書いてみました。
ルナディールが魔研に行くために、義兄と剣のお稽古をしていたときのお話です。
「一旦休憩にしよう、ルナディール」
額の汗を拭いそう言った義兄に、私もこくりと頷きゆっくりと剣を下ろした。近くの木陰に腰を下ろし、二人して、はぁと息をつく。
「ルナディールもようやく剣を振れるようになってきたな」
水を飲みながらそう言う義兄に、あははと笑いながらタオルで顔の汗を拭いた。
「木製の剣ですら腕が痛くなるんです、本物の剣だと自分が振り回されてしまいそうですわ」
「そうだな。木製の剣を卒業するのは腕力がついてからだ」
ちら、とこちらを見て言う義兄に、私はこくりと頷く。
とは言っても、私は自分がこの短期間で腕力がつき金属製の剣を振り回せるようになるとは考えていない。
というか、私には魔剣があるから別に良いのではとも思ってしまう。実際、型を教えてもらえば後は軽い魔剣を装備して終了だ。すぐにそこそこ戦えるようになると思う。
……もちろん、闘技場とかで決闘を申し込まれたりしたら魔剣は使えないだろうけど。そう考えたらやっぱり鍛えた方が良いのか。ルナディールだからな、どんな人生が待っているかは分からないし。備えあれば憂い無しってね。
「ところで、舞踏会の方は順調か?」
不意にそう尋ねられ、私は、ん~、と声を出しながら考える。
「どうでしょう?ダンスはまだよく転びそうになりますし、マナーもまだお勉強中です。社交術は……その、人見知りが勝って役に立たなそうな気がします」
そう答えると、考えて見てもダメダメな令嬢だよなぁと本当に心の底から思った。
前世の記憶を取り戻す前のルナディールに戻りたい。あの時の方がまだ今よりましだったはずだ。だって生粋のお嬢様だったのだから。
「お義兄さまはダンスとか得意そうですよね。華麗に踊る姿が簡単に想像できますわ……きっとうっとりと見惚れてしまうに違いありません」
前世、幾度となく目にしたアリステラのダンスシーンを思い出しながら告げると、
「それは過大評価しすぎだ。俺もあまり踊るのは得意ではない」
と即答されてしまったので、私はついむきになって言い返してしまう。
「それは嘘ですわ!」
だって、そうだろう。義兄だよ?イケメンで何でも出来る優秀なアリステラだ。実際アニメで見たときもそれはそれは優雅に踊っていた。画面越しに見る美しい姿に感嘆のため息を漏らしてしまうほどに。そんな義兄が、ダンスが苦手なわけがない。
しかし、私がきっぱりとそう断言してしまったからか、義兄は困惑の表情を浮かべてしまう。心なしか、なんだか微妙な空気も流れている。
そこでよくよく考えて見れば、ルナディールがこの目で実際に義兄が踊る姿など見る機会はなかったことを思い出した。そもそも義兄が今までに舞踏会に行ったということも聞いたことがないし、本当に踊ったことがなかったのかもしれない。
いやしかし、あんなに素敵に踊っていた義兄だ。しかも完璧主義者の義兄。苦手とかいいつつ必死に努力して踊れるようになっちゃうのが義兄だ。
「お義兄さまは自分を低く評価しすぎなのですわ。実際にお義兄さまが踊っている姿をこの目で見たことはありませんが、例え苦手だったとしても、きっとお義兄さまのことです、必死に練習しているのでしょう?」
きっとそうだと推理しながら言葉を発せば、少し驚いたような顔をする義兄。私はその様子にほっとしながら、なんとか変な空気は払拭できるかもしれないと言葉を続ける。
「お義兄さまは驚くほど完璧主義者ですからね。きっとどんなご令嬢と踊っても絵になるような素晴らしいダンスになりますわ。例え失敗してもお義兄さまなら恥をかくことはないでしょうし、自信満々に踊れば良いのです」
最後ににこりと笑ってそう言えば、義兄はなぜか固まってしまい私はまた焦ってしまう。
……あれ、微妙な空気変えられるかもと思ったのにもしかして逆効果だった?変なこと言っちゃった?なんだ、どの言葉がいけなかった?
一人であわあわと考えていると、
「……俺は、ルナディール以外とは踊ろうと思わない」
という言葉が聞こえて、私は驚いて義兄を見つめる。ぼそりと漏れてしまったのだろうその言葉に、私の顔は赤くなる。
……え、え、それどういうこと!?私以外とは踊らないってどういうこと!?
内心パニックに陥りながら、そしてだんだん身体が熱くなってくるのを感じながら義兄を見つめていると、義兄も途中で気が付いたのか、はっとした顔をして気まずそうに視線をさまよわせた。心なしか顔が赤くなっているように見えて、私の身体は更に熱くなる。
待って待って待って落ち着け私!これはあれだ、きっと言葉の綾だ。
だってほら、舞踏会にはエスコート役として義兄が参加するわけだし、義兄と私が踊ることは普通。なおかつ、義兄はまだ婚約者がいないし好きな人もいないから踊る予定の人もいない。
もともと義兄は女性に興味なかったからね。だからきっと、私以外の人と踊る予定はないって言おうとしたんだ。エスコート役以外の人とは踊る気がないってね。
なんとかそう結論づけて、義兄に向かってあははと笑う。
「私も今のところ、お義兄さま以外の方と踊る予定はありませんわ」
だから、婚約者がいないもの同士仲良く踊りましょうね~みたいな感じで、なんとかその場を明るくしようとそう言えば、なぜか義兄がこのタイミングでキラースマイルを放ち、
「良かった」
なんて言うものだから、私は何も言えず一人心の中で悶えまくった。身体中が熱くて、きっと顔も真っ赤だろう。休憩のはずなのに全然身体が休まらない。
義兄の視線に耐えられず、そして火照った身体を冷ますべく、私は勢いよく立って剣の素振りを始めた。ぶんぶんと無心に剣を振っていれば、そのうち正気に戻れるだろうと思ったのだ。
しかし、それを休憩の終わりととってしまった義兄は、私と同じく剣を持ち私に向かい合った。私はまたしても義兄と対峙することになってしまい、内心むちゃくちゃ焦った。
やばい、まだ身体熱いし顔も火照ってる。まともに義兄の顔見られない。この状態でお稽古しても、きっと受けきれずに体勢を崩してしまうに違いない。
お義兄さま、今日のお稽古は終了に……と言おうと口を開いたところで、義兄が、
「行くぞ」
と構えてしまったので、私は仕方がなく素振りを止めて構えた。きっと練習が始まれば邪念も消えるに違いない。いや、消えてくれないと困る!
そう祈りを込めて、義兄からの攻撃を防いでみるもやはり邪念は消えてくれなくて。真面目で凜々しい整えられた顔を見ていると、またキラースマイルが思い出されて私は一瞬集中を欠いてしまった。それがいけなかった。
義兄が振り下ろした剣を上手く受け止めきれず、私の剣が弾き飛ばされてしまった。その勢いにつられ、私も体勢を崩して後ろに倒れてしまう。
「わっ」
転ぶ!と思い目をつぶると、ルナディール!と叫ぶ義兄の声が聞こえ、何かにぐっと引っ張られる感覚がし、その後、なんだか柔らかいものの上に倒れた感じがした。
恐る恐る目を開けると、なんと義兄がすぐ目の前にいて、いきなりの急接近に心臓がバクバクと騒ぎ出す。
どうやら倒れる寸前に義兄が私を引っ張ったみたいだ。その拍子に私は思いっきり義兄にぶつかり、押し倒してしまったと……。いやいやどんなシチュエーション!?リアルで起こることですかこれは!?
「大丈夫か、ルナディール!」
いつもより近くから聞こえる義兄の声に頭が真っ白になる。大丈夫です、と答えたくても緊張で言葉が出ない。早く義兄の上から退こうと思っても、身体に上手く力が入らない。密着している身体が熱くて死にそう。
私が動かないことに心配したのか、義兄は私の背に手を回し、身体全体を使って器用に私を仰向けに寝かせた。私の身体は右側にぐるり、と傾き、気がつけば義兄と私の位置は逆転していた。
心配そうに私の顔を覗き込む義兄。その近さにまた顔が熱くなる。視界もぼやけるし、もう、これ以上熱くなったら死んでしまうのではないかと思うぐらいに身体中が熱くて、今すぐ冷や水を被りたいくらいだ。
こんな、どこぞの恋愛漫画にありそうなシチュエーションを自分が体験してしまうだなんて……。
「顔が赤い、もしかして熱が?」
そう言って額に手を乗せる義兄。
……もう、限界だった。次から次へと現れる魔の手。私をキュン死にさせようとしているのかっていうくらいの数多の攻撃。いくら少し義兄に耐性がついたからって、こんなのには耐えられない。
「もう、ダメ……」
気が付くと私はベッドの上にいて、ゆっくりと起き上がるとラーニャとバチッと目が合った。
「お目覚めになられたのですね」
ほっと安心したようなその声に首を傾げながら事情を聞くと、どうやら私は剣のお稽古中に体調を崩し義兄に運ばれてきたらしい。
そんなに体調悪かったっけ?と疑問に思いながらも、義兄にお礼を言いに部屋を訪ね、義兄の顔を見た途端に全てを思い出した。私がどうして倒れたのか、その理由を。
義兄には、力の加減を間違えてしまいすまなかったと謝られ、体調が悪いなら先に言ってくれと注意されたが、私はもうそんなところではなかった。ぶり返してきた熱を抑えるのに必死で、軽く会話を交わした後、私はすぐさま部屋に引き籠もりベッドにダイブし、クッションを抱きかかえながら一人悶えるのだった。




