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天国と地獄のお茶会

 魔法のお披露目が終わった後、私はどうすれば良いのか分からなくて自室に戻ってきていた。

 特にこれといった用事もなく、筋肉痛も酷かったのでベッドでただゴロゴロしていたら、コンコンコンと扉がノックされた。きっとラーニャだろうと思って、私はベッドから起き上がらない。

「お嬢様、レティーナ様がお訪ねになられたのですけれど、お部屋にお通ししてもよろしいでしょうか?」

 思いがけない人の訪問にびっくりする。何も約束をしていなかったと思うけど、どうしたんだろう。

 しかし、唯一の友人の訪問を断る理由も特にないので、私は二つ返事で了承しベッドから出た。


「失礼いたします」

 そう言ってレティーナがしずしずと上品に部屋に入ってきた。さすが私が見本とする優雅な素敵令嬢だ。

「ごきげんよう、ルナディールさま。事前に何の連絡もなくお訪ねしてしまい申し訳ありません」

 淑女の礼をされ、私もレティーナみたいに優雅に見えるように気を付けながら挨拶をする。

「ごきげんよう、レティーナ。レティーナならいつでも歓迎するわよ。それで、どうかしたの?」

 向かい合って座ると、ラーニャが私とレティーナの前に紅茶とお菓子を出してくれる。

「それが……ええと、その、本題の前に、一つ確認したいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

 レティーナが少し緊張した様子で私に尋ねたので、私は紅茶を取りながら了承する。

「もちろん」

 すると、レティーナはすうっと息を大きくすって、意を決したように話し出す。

「あの、ルナディールさまは、義理の兄でいらっしゃるアリステラさまを愛していらっしゃるのですか?」

「うえ゛っ!?ごほっごほっ」

 あまりの衝撃発言に紅茶が気管に入ってむせた。

「だ、大丈夫ですか!?」

 レティーナは慌てて私の側まできて背中をさすってくれる。

「え、ええありがとう大丈夫よ……」

 私が大丈夫と言うとレティーナは席に戻り、紅茶を一口飲んだ。

「それより、どうして私がお義兄さまのことを愛しているなんて言葉が出てきたの?」

 心当たりは全く無いわけではなかったけれど、あの場にいなかったはずのレティーナがこんなことを言うなんておかしい。もしかして噂になってる?

「ええと、先日わたくしの代わりにお茶会に出席した友人から聞いたのです。ルナディールさまが、絡まれているアリステラさまを助け、大衆の面前で愛の告白をしたと」

 うわあやっぱりそれか!周りの人にはやっぱり告白だと思われちゃったんだ!しかもその後私逃げ出しているから、更に誤解を生む結果になったのかもしれない。

 でも、私が義兄を愛しているなんて誤解だから!義兄は推しキャラであり今の私の家族だから!

「それは誤解よレティーナ!わたくしは愛の告白なんてしたつもりはないもの。確かに大切な人だとは言ったけれど、それは家族としてであって異性としてではないわ」

 そう断言した私に、レティーナはホッとして、

「そうですわよね、良かった……。変なことを聞いてしまい申し訳ありませんでした」

 とそれはそれは嬉しそうな顔をしたのだ。

 ……ん?私が義兄のことを愛していないと良かったのなら……あれ、もしかして……?

「レティーナ、もしかしてお義兄さまのことが好きなの?」

 そう疑問に思ったらつい言葉に出てしまった。すると今度はレティーナが取り乱し、

「ち、違いますルナディールさま、誤解しないでくださいませ!わたくしは別にアリステラさまのことが好きではありませんわ」

 とわたわたと顔の前で手を振った。いや、でもこの動揺ぶりは怪しい……。

「でも、確かレティーナって婚約していなかったわよね?だからもしかするとお義兄さまを狙ってるのかな〜なんて……」

「勘弁してくださいまし、ルナディールさま。わたくし、あのような殿方は苦手なのです。それに、わたくしには他に思う殿方がいるのです」

 ちょっと茶化すつもりで言ってみたら、全力で否定された。そして、さらに爆弾発言を落とされた。

「ええっ、そうだったの!?」

 まさかの新事実!レティーナには想い人がいた!私の頭の中で、そんなタイトルが載った新聞がばらまかれた。

 でも、レティーナを射止めた男性ってどんな人だろう。レティーナは可愛くて華奢で優雅で頭も良くて魔力も高くて、尚且つ身分は公爵令嬢と高い!そんな彼女を手に入れられる男性はなんて幸せなんだ。

「それじゃあレティーナは、その人に想いを伝えて結婚しようとしているの?」

 久々の恋バナに身を乗り出して尋ねる。

「いえ……その方にはもう既に素敵なお相手がいらっしゃいますので、陰ながら幸せをお祈りしているのですわ」

 そう言うレティーナは悲しそうだったけれど、相手の幸せを心の底から願っているという感じが伝わってきた。

「そっか……」

 なんとなくしんみりしていたら、レティーナがハッとして、一枚の封筒を私に渡してきた。

「そういえば、まだ本題をお話しておりませんでしたね、うっかりしていました」

「これは?」

 私はレティーナに尋ねながら封筒を受け取る。

「お茶会のお誘いですわ。開けて確認してみて下さいませ。第二王子からの招待状ですの」

「……なんですって!?」

 私は急いで封筒を開けると、そこには美しい文字で、私の名前とお茶会の日時、そして王子様の名前が書かれていた。


 オーマイガー!なんで!?どうして!?

 私の頭は一気にパニック状態に陥る。

 シューベルト・エルプニッツって私と同い年で赤髪緑眼の俺様王子だよね!?推しキャラの一人ではあるけれど、実際に会ったら面倒なことになりそうだからなるべく関わり合いになりたくなかったのに……。


「レティーナ〜、なんで……なんでこんなものを持ってきちゃったの〜?」

 半分泣きそうになりながらレティーナを見つめる。だって王子様とのお茶会だよ?しかもご丁寧に、他の客人は呼んでいないので気負わず来て欲しいなんて書かれている。いや無理だから!一対一の方が緊張するから!何考えてるのこの人!?

「俺と面識があり、尚且つルナディールと仲の良い令嬢はお前しかいないからこれを届けて来い、と言われまして……」

 レティーナも申し訳なさそうに目を伏せながら、そう答える。

 おおう出た俺様的発言!ってちょっと待てよシューベルトもルナディールの悪役令嬢ルートと主人公ルートで関係性が変わるから、思い出さなきゃいけないよね。


 そこで私は、前世の記憶をよっこらせと引っ張り出してみる。確か……。

 悪役令嬢ルートだと、シューベルトとルナディールはほとんど接点がない。だから何も起こらない。絡まれることも殺されることも、仲良くなることもない、実に無害なキャラだった。

 しかし主人公ルートでは、ルナディールに興味を持ったシューベルトがぐいぐいと迫っていき、よく面倒ごとに巻き込んでいた。お城に招いたりお茶会や舞踏会に招待したり、それはもう鬱陶しいくらい誘っていた。そしてシューベルトの誕生日に、ルナディールはプロポーズされるのだ。婚約もしていないのに結婚を申し込むの!?と、シューベルトの行動には驚いた。

 因みにその後シューベルトとルナディールがどうなったかは知らない。だってまだお話が完結していなかったから。

 結局主人公ルートでは誰とくっついたんだろう、気になるっ!色んなイケメンに告白されていたから、さて一体どんなエンドを迎えるのだろうと楽しみにしていたのに。

 私としては、最推しのリューク・フォルテラーナとくっついて欲しかったけれど、でも誰と結ばれても素晴らしい人生しかルナディールは歩まないだろうから誰でも良い。

 というか、それぞれのキャラと結婚したらどんな生活が待ってるのかすごく興味があったから、ifストーリー読みたいですって読者からの要望コーナーにハガキ書いて送ったのだ。採用されたかは分からないけれど、もしあったら読みたかったな。


「ルナディールさま、大丈夫ですか?」

 自分の考えに没頭していると、急に声が聞こえてきたのでハッと頭を切り替える。

 そうだ今はレティーナがいるんだった。しかも途中からシューベルトじゃなくて他のこと考えてたし。ほんと私の頭ってどうなってるんだろうね。

「あの、そんなに嫌でしたらお断りしたらどうでしょう?シューベルトさまは王族ではありますが、ルナディールさまのお父さまは国王を支える宰相さまではございませんか。お父さまから国王へ進言していただければ、断ることも可能なのではないでしょうか?」

 心配そうにそう提案してくれたレティーナに、おおその手があったかと手をポンと叩いた。

「そうね、それはいい考えよレティーナ!いくら我儘王子だからといっても、国王が却下すればどうすることもできないわ。よし、早速頼んでくるわね!」


 そう言ってレティーナを部屋に待たせ、意気揚々とお父さんに会いにいってお茶会の件を伝えると、とんでもないと却下された。お茶会ぐらい出なさいと諭されて、私はすごすごと自室に戻る。

「どうでしたか?」

「ダメだったわ。一対一のお茶会なんて絶対に耐えられないって言ったのに、ルナディールだったらちゃんと上手くやれるさって言われてしまったのよ」

 私が首を振りながらそう答えると、レティーナも困った顔をして、

「そうでしたか……それはもう、出るしかありませんわね」

 と言う。

 最悪だ。無事に帰ってこられる自信がない。不敬罪で捕まったらどうしよう?相手はあの俺様我儘王子だ、何があっても不思議じゃない。

 せめてもの救いは、シューベルトとのお茶会の前に義兄とのお茶会があることだ。その時にどうすれば良いか聞いてみよう。義兄ももしかしたらシューベルトについて何か知っていることがあるかもしれない。

 私は覚悟を決め、目の前のクッキーをパリッと噛む。とりあえず今は、推しキャラ(義兄)とのお茶会の準備をしなくては。


 シューベルトからお茶会の招待状を貰った三日後。私は義兄との初めてのお茶会を成功させるべく、張り切ってお菓子やら飲み物やらを準備していた。

 と言っても、盛り付けも作るのも全てメイドがやってくれるので、当日に私がやることは特にない。義兄を迎えに行くだけである。

 でも昨日までは頑張っていた、メニュー決めを。何のお菓子を用意するのか、飲み物はどうするのか、飾る花は何にするのか。決めることがたくさんある貴族のお茶会は面倒なのである。

 もちろん全てメイドに丸投げしても良かったのだが、推しキャラをおもてなししないのはいかがなものかと思い、嬉々として手伝ったのだ。

 喜んでくれるといいなぁと少し緊張しながら義兄の部屋へ向かう。


 因みに、あれから魔法研究所の話はパッタリなくなってしまった。ご飯中も静かで、誰も口に出さない。あまりの空気の重さに、私から「結局魔法研究所には行っても良いんですかー?」なんて聞けるわけもなく、随分居心地の悪い思いをしている。

 美味しいご飯も台無しだ。だから今日のお茶会は楽しい会にしたい。


 コンコンコンとノックをして、

「お義兄さま、ルナディールでございます。お茶会の準備が整いましたので、お迎えに上がりました」

 と言うと、しばらくしてスイッと扉が開く。現れた義兄の顔を見上げながら、今日も素敵ですと心の中で褒め称える。

「今日はよろしく頼む」

「こちらこそ、今日はよろしくお願いいたします」

 私はにっこりと義兄に微笑み、私の部屋へと案内する。義兄と私の部屋は正反対の場所にあるので、歩くとそこそこかかるのだ。こういう時、家が大きいと不便だなと思う。

「わたくし、今日のお茶会のために張り切ってメニューを考えたのですよ。好きなお菓子がたくさんありましたので、厳選するのが大変だったのです」

 無言で歩くのも気まずかったので、とりあえず今日のお茶会についての話を振ることにした。義兄から話を振ることは滅多にないので、こちらからどんどん振っていかないと沈黙だらけになってしまうのだ。

「そうか。わざわざすまない」

「いえいえ、お気になさらないでくださいな。わたくし、初めてお義兄さまと二人でお茶会をするのが楽しみで仕方がなかったのです」

「……」

 おおう、会話が終わってしまったー!どうしようまだ部屋まで結構時間があるのですが!?

 私はわたわたと焦っている様子を悟られないよう、笑顔を貼り付けながら頭をフル回転させる。

「お義兄さまは誰かと二人でお茶会をしたことがございますか?」

 とりあえずパッと思いついた質問をすると、義兄の顔がちょっとだけ困った顔になった。

「私に親しい者はいないからな、初めてだ」

 その言葉を聞いてサアッと血の気が引いていく。私のバカバカ!何聞いちゃってんの義兄が孤独なことぐらい知ってたのに!

「そ、そうなのですね。でも、わたくしも友人はレティーナぐらいしかおりませんもの。友人が少ない者同士、お義兄さまとは仲良くなれるかもしれませんね」

 にこっと笑って誤魔化したけれど、なんかこの発言もまずい気がする。どうしよう、何か言えば言うほど墓穴を掘る気がして怖くなってきた。

 それからは笑顔で自室までの道を乗り切り、部屋に着くや否やお茶会をスタートさせた。


 お茶会では私の好きなお菓子をご馳走し、これはどこが素晴らしく美味しいのかを力説した。語彙力の低さがバレてしまう食レポになってしまったけれど、それでも美味しく楽しい時間が流れていった。

 何より推しを眺めながら食べるお菓子が、美味しくないわけがない。目も口も幸せな時間を堪能しながら、話題はお菓子からシューベルトに招かれたお茶会についてのものに移る。

「そういえばお義兄さま。わたくし、先日第二王子のシューベルトさまからお茶会の招待状をいただきましたの。お義兄さまはシューベルトさまと面識がございましたよね?どのようなお方だったか聞いてもよろしいですか?」

「シューベルトさまから招かれたのか?」

 とても驚いた顔をして、紅茶を一口飲んで少し斜め上を向く。

 それにしても、義兄は前より少しだけ表情が分かりやすくなっている気がする。これは私が義兄の表情が分かるように成長したのか、それとも家族との交流を経て義兄の表情が豊かになってきているのか、どっちなんだろう。

「シューベルトさまとは一度挨拶しただけだが、初対面でも結構上から目線だったな。年上の人にも臆せず自分の意見を絶対に曲げない人と認識している。相手をするのは少々疲れるだろうが、ルナディールならきっと大丈夫だろう」

 そんな風に返してくれた。

 うぅ、そんな人と一緒にお茶しないといけないの?大丈夫かな、上から目線でずっとこられたらイライラしそう。

「あはは……相当手こずりそうなお相手ですわね。わたくし、生きて帰れる自信がありませんわ」

 はぁとため息をつくと、義兄はじっと私の方を見つめ何か考え込み、しばらくして、

「だったら俺も一緒に行こうか?」

 と、なんとも優しい言葉をかけてくれた。家族との交流を経て冷酷キャラから抜け出そうとしているの?そんな優しい言葉を推しキャラから言われたら嬉しくて泣きそうになるのですが。

「とても素敵なご提案をありがとうございます。ですが、お茶会は一対一で行うと書かれておりましたの。ですからお義兄さまと一緒に行くことはできないのです……」

 うぅ、せっかく一緒に行こうかと言ってくれたのにこちらからお断りしないといけないなんて!推しの頼みを断っているみたいで辛い。おのれシューベルト、許すまじ!

「そうか……力になれなくてすまない」

「いえ!お義兄さまは悪くありませんわ!謝らないでくださいまし!一緒に行こうかと言ってくださり、わたくしはとても嬉しいのですよ。お陰で勇気が出ました。きっと生きて帰って来ますわ!」

 そう拳を握り力説すると、義兄は「そうか」とふんわりと優しく笑ったのだ。

「……っ!?」

 この前と同じくらい素敵な笑顔を、この前よりも至近距離でくらってしまった私は固まってしまった。

 な、な、なんて素敵な……そして美しい笑顔!私を昇天させる気ですか、倒す気ですか!?心臓がバクバクうるさくて、顔がブワァッと熱くなってくる。

 や、やばい、この至近距離の不意打ち笑顔に記憶が吹っ飛びそう……。た、耐えるんだ私、今倒れたらお茶会が台無しになってしまう。

 私はぐびぐびと紅茶を飲み、お菓子を食べて気を紛らわす。急に暴飲暴食になった私に、

「お、おい、大丈夫か……?」

 と心配そうに尋ねてくる。

「だだだ、大丈夫ですわ。気にしないでくださいまし」

 おほほと笑ってそう言うも、やっぱり気になるのか私の方をじっと見つめてくる義兄。うぅ、その顔やめて、その視線やめて!今顔真っ赤だから!

 そう思うのに全然やめては貰えず、しまいには、

「顔が赤いぞ。熱があるのでは……」

 なんて言い、手を私のおでこにピタリとくっつけてきた。

「〜〜〜っ!!」

 冷たい手、近い顔、そしてすぐ側で「やはり熱があるのではないか?休んだ方が良いのでは……」という声が聞こえた途端、限界がきた私はその場で意識を失ってしまった。

「ルナディール!?」

 遠くで義兄が呼ぶ声が聞こえたが、私はもうそれどころではなかった。

 刺激が強すぎるよお義兄さま……推しキャラにこんなことされて無事な人いないから。心臓バクバクだから、身体中熱いから……。


 私は地獄のお茶会の前に、推しキャラに気絶させられてしまった。もう、天国に逝っちゃうかと思ったよ。

推しとのお茶会……考えただけで幸せですね。王子様とのお茶会も一波乱ありそうです。次回はまたまたアリステラ目線。今回のお茶会についてです。

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